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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
179/366

2012年2月9日

※この作品は作者の日記ではありません。

2月9日(木)

 いよいよ明日は創作トキワ荘見学の日である。予行演習として創作トキワ荘まで歩いてみることにした。案外マンションから近いのである。向かってみるとそこは古めかしい平屋の家で、それは貸家のようで、この古めかしい、ドアより襖の方が多そうな家で「創作トキワ荘の仲間たち」が暮らしているとホームページには書いてあった。私はこの家を見るなり突如不安に陥った。きっとこの古めかしい家の壁にはシミが染み付いているだろう。私はシミで汚れた壁が昔から苦手なのである。子供の頃、親戚の家でシミで汚れた壁にナメクジが貼っていて、私はそれに気づかずに背中を壁にもたれかけさせてしまい、背中でナメクジを押しつぶしたことがある。それ以来、ナメクジはなぜか平気なのだがシミで汚れた壁は苦手なのである。


「じゃあやめますか?」帰り際に榎本なごみが尋ねてきた。行く行かないを論じる以前に、私は最初からあまり乗り気ではない、ということを伝えると、「じゃあなんで見学なんかに行くんですか?」と再び尋ねられた。それは母に対するご機嫌取りであり、狂ったまま何もせずに無為に暮らしているのではなく、自分から何か行動を起こそうというポーズを見せて安心させ、口から出てくる文句の量を減らすのが目的なのである。そう伝えると、「まるで狂っていないかのような行動に出ますね」と言われてしまった。まるで狂っていないかのような行動に出られるのは病院で処方されている薬のおかげである。薬が切れたら私はきっと狂った人間にふさわしい行動を起こし、それが原因で周囲に多大なる迷惑をかけることだろう。


 晩餐の席で、母はリビング内を縦横無尽に飛びまわる榎本なごみをじっと見つめていた。「あの子、なんなの」と訊いてくるので、あれは榎本なごみといって今は幽霊である、と説明した。「幽霊。へー、嘘でしょ」なぜ嘘ということになってしまうのだろう。「だって、怖くないもの」母にとって幽霊とは怖いもの、ではなく、怖くなければならないもの、であるらしい。

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