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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
164/366

2012年1月25日

※この作品は作者の日記ではありません。

1月25日(水)

 榎本なごみが珍しく窓の外にいて何かやっているので、窓を開いてみてみると、かたつむりを食べていた。いつのまに増殖したのか、ベランダにはぎっしりとかたつむりがこびりついている。いつぞや見たなめくじもこんなに増えはしなかった。それにしてもかたつむりを生で食べて、美味しいものなのだろうか。「歯ごたえを楽しんでいるだけです」というのがその答えだった。歯の触覚はある、ということなのか。壁抜けしていたのに。「あなたが見えているものには触れるんですよ」私には家の壁も見えているはずなのだが。


 母が疲労困憊して帰ってきた。しかし私にはどう労わればいいのか分からなかったので、沈黙を持って優しさとした。「遺産、なんとか勝ち取ったわ」と母は勝利を宣言すると自室に消えていった。話し合いが一日で済んで良かった、一日であれだけ衰弱するのであれば何日も続いていれば母は衰弱死していたかもしれない。「それから、告別式は明後日だから」一応とはいえ家族なのだから、遺体のそばにいることはできないのだろうか。そうしたいわけでもないが。「お前にそんな権利はない、勝手に捨てやがって、と言われたわ」母が父を勝手に捨てる形で別れることになったのか。やはり母は編集者のことが好きなのだろうか。


 病院へ行き、父の死を担当医に教えた。他に話題がなかったからである。「それは残念でしたね」と平坦な声で医師は言った。一体何が残念だと言っているのか分かっているのだろうか、この適当な医師は。いつものように5分で診察を終えて薬局で薬を受け取って帰った。


 晩餐は今日も冷凍食品だった。母が疲労困憊していたためである。冷凍食品は母の手料理より美味いので私としては大歓迎である。それとも、私のような立場の人間はそれが例え冷凍食品に劣る味だろうと手料理を喜ばなければならないのだろうか。などと母の前で言えるわけがない。私は黙って食べた。

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