2011年8月30日
※これは作者の日記ではないことを明言させて頂きます。又、登場人物、又は作者が完全に狂った場合、連載を終了とさせていただきます。ご了承ください。
8月30日(火)
起きると足がふらついた。何も食べていないせいである。しかし、キノコを食べて狂い続けるのと、こうやってキノコを消化するのを拒否し続けてやがて餓死するのではどちらがましだろう。少し考えてみた。キノコを食べずに正気でい続けたほうがいいのかもしれない、という考えが頭に浮かんだ。私の死期は近づいているのかもしれない。
窓から空を眺めた。キノコを消化せずに眺める空はいつもより青く見えている気がして、空を見るくらいしかやることの無い自分の立場に珍しく危惧を抱いた私はハローワークへ向かった。しかし、私の担当者(昨日決まったらしい)は月曜日と金曜日にしか出勤していないので今日のところは帰ってください、と言われてしまった。私はこの正気でいられる時間をどう使えばいいのだろう、と悩みながら家に帰った。
家に帰ったのを狙い済ましたかのように、家の電話が鳴った。翻訳作業が忙しい母がいつまで経っても電話に出ないので、私が出てみた。すると少女の声が「はーい、私でーす」と名乗った。誰なのかわからないので名前を訊くと、「昨日のメールに書いたけど?」と帰ってきた。昨日のメールには確か名前が書いてあったはずだ。思い出そうとしたが思い出せなかったのでこちらから尋ねると、「榎本なごみだよ」と帰ってきた。どうして電話してきたのか尋ねてみると、「あなたが出ると思ったからね」と帰ってきた。どういうことか分からなかった。どうして私が出ると思ったから電話したのか、私にどんな用事があって電話してきたのか、さっぱり分からなくなり、もしやこの榎本なごみ(何度も書かないと忘れてしまう)なる人物は私を騙そうとしているのではないか、いや自由に使える金を少しも持っていない私を騙してどうする気だ、笑うのか、嘲笑するのか、そんな頭のおかしい考えが続々と浮かんできて怖くなったので私は電話を切った。するとすぐに電話が鳴った。取ると、「ひどいな、急に切るなんて」と榎本なごみの声が聞こえたので私は受話器を叩きつけて部屋に戻って布団を被って夕方まで震えていた。
そして夜になり、晩餐の出る時間になった。ひじきの煮物の中にキノコが刻まれていた。昨日はこれを消化しなかったから調子がよかった。しかし調子がよかったからと言って良いことは何一つとして起こらなかった。狂っていたほうがましだ、狂っていることに頭を抱えていたほうがましだ、そう考えた私はキノコごとひじきの煮物を口に入れた。