2012年1月5日
※この作品は作者の日記ではありません。
1月5日(木)
あるところに貧乏な男ありけり。貧乏な男は金持ちの少女に恋をした。しかし経済状態的に釣り合わない。だから男は頑張った。頑張った結果、男は国一番の金持ちになった。しかしその頃には男は六十歳。少女だった人物も六十歳。計算しとけよ。みたいな歌をネットで聞いた。しかしアーティスト名も曲のタイトルも思い出せない。だからとりあえず歌詞の内容だけ書き留めておくことにする。
昼間、部屋のあちこちに隠しておいた小銭の中から百円玉を一枚、そして五円玉を一枚取り出してひっそりと出かけた。目的地はコンビニ、目標のものは清酒鬼ごろしである。早速コンビニに到着し、目的のものを買い、ストローで飲んでみた。鬼ごろしから漂う普通に生活する分には必要のない風味に涙を流しそうになりつつ、なんとか喉の奥に久しぶりの酒を流しこんだ。そして帰ろうと思った矢先、私は吐いた。内容物が水と酒と胃液だけの、つまらない嘔吐物だった。
嘔吐の疲労感を抱えつつ家に帰ると、母がリビングの机に突っ伏していた。編集者が仕事初めに行ってしまった、と嘆いていた。つまらなくてとても仕事何かやってられない、と愚痴をこぼしていた。「そしてあんた、酒臭いわよ。あと胃液臭い」と指摘もされてしまった。私は疲れていたこともあって、馬鹿みたいに正直に事情を説明してしまった。母は弱っている様子だったが、私だって弱っていたのである。そして私は夕食抜きを言い渡された。酒を勝手に飲んだ罰則として、それから薬代のお釣りを勝手に使った罰則として、私は丸一日の絶食が決定した。
晩。空腹で腹が鳴りっぱなしである。明日になればどんな状況に陥っているのか、想像もつかない。喉の奥からはまだ酒の借りが漂ってくる。「嘘ついときましょうよ、そこは」と榎本なごみにも言われた。計算って大事だ、と痛感した。馬鹿正直は馬鹿を見る。