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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
135/366

2011年12月27日

※この作品は作者の日記ではありませんです。

12月27日(火)

 わけのわからない文学作品を読んだ。文学作品というものは大体においてわけがわからないと決まっているものの、今日読んだルナールの「にんじん」という本は群を抜いてわけがわからなかった。しかしそれは時代がそうさせているだけなのかもしれない。当時はエンターテイメント作品として受け入れられていたのかもしれない。ところで現在においてわけのわからない文学作品を書いている作家は一体なにがやりたいのだろう。誰に何を伝えたいのだろう。そんなことを文章を読み返しながら思った。


 母の指に見たことのない指輪がはめられていた。ずっとまえから填っていたのかもしれないが、私が気づいたのは今日だ。なんなのかと思って尋ねてみると、榎本なごみさんから貰った、とのことだった。それはいつもの榎本なごみではなく、それと同姓同名の兄であるところの榎本なごみを指して言った言葉なのだった。婚約でもしたのだろうか。婚約や結婚以外の目的で人が人に指輪を送るというところを、私はよく知らない。「いいからスープ飲んじゃいなさい」と母は言った。時刻は朝で、私と母はリビングの食卓で向かい合って座っていた。私の目の前にはキノコ入りのスープが置かれていた。


 昼になる頃にようやく母が諦めてくれたので私は部屋に戻って文章の続きを書いた。好きな男と自分を追ってきてまともな生活を送らせよう(服役という形で)とする兄と、どちらに心の矛先を向けるべきか迷った逃亡者の女は、妙なことを逃亡者の男とそれを追う男の二人に提案した。自分を取り合って対決して欲しいというのだ。対決の手段は場所を限定した鬼ごっこで、その場所とは一つの小さな山だった。制限時間は二十四時間で……などと書いていて、これは妙なことになってきた、と私は思った。私は果たして何を書きたかったのだろう。


「いいんじゃないですか? 自分が満足できるなら」榎本なごみはそう言った。私が書いている文章は当初は猿に向けて加工としていたのだが、やがて自分のために書く事に切り替えたのだ。そういえばメールをここ数日確認していなかったので、パソコンを立ち上げメーラーを起動してみた。数種のメールマガジン以外のメールは届いていなかった。以前猿から届いていたあのメールは一体なんだったのだろうか。などと書いた翌日に猿からメールが届いたりすることは、多分ないだろう。


 晩餐はキノコづくしだった。母が私を狂わせたいのはよくわかった。私は全く味のしない晩餐を食した。そして倒れた。そして深夜に目覚めてこの日記を書く直前、榎本なごみが深刻な顔を私に向けていた。「私は追い出されるかもしれません」母が唐突に榎本なごみに、そろそろ追い出すから、と言い出したらしい。理由は、榎本なごみが来たせいで私の狂いが治りかけているから、だそうだ。

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