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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
126/366

2011年12月18日

※この作品は作者の日記でもなんでもありません。

12月18日(日)

 いつも夢は起きる直前か、昼寝している時しか見ない。というか、そういう時に見た夢しか覚えていられないように脳はできているのだろう。これが狂っている人間特有のものだったら、私が小学生の頃に読んだ学年別学習誌の夢についての特集はなんだったんだ、ということになる。まあ、雑誌は嘘をつくものである、ということは、高校生頃になってから気づくようになったのであれも嘘だったのかもしれない。


 そんなわけで今日見た夢は、逃亡生活を続ける男女にそれを追う男が追いつき、二人を刺殺するという夢だった。昨日文章の読み返しを行なったので、その続きのイメージが夢として現れたのだろう。しかし、こんな安易な話の終わりはやるべきではない。困ったときには登場人物を殺して終としておく、なんて怠惰な人間のやることである。私は狂っていることには自覚的であるし、それで仕方がないとも思っているが、怠惰でいようとは思わない。今の生活は十分怠惰なものではあるが。こんな生活猿でもできる。そういえば猿というペンネームの作家がいたことを思い出した。


 図書館へ行った。いつもは土曜日に行くのだが、忘れていたのである。忘れたきっかけは思い出せないし、別にそこを追求しなくてもいいと思う。ふと、なんとなく忘れたのだ。いつもと通う曜日が違うからといって特に新鮮味があるわけでもない内装を眺めながら、私は一日延滞した本を返却し、猿の書いた本を探した。「微動ファイ」というなんだかよくわからないタイトルの猿の本があったので借りることにした。それから町田康のエッセイも借りた。


「結婚が無理なら婚約しませんか」榎本なごみはまだ起きたまま寝言を言ってくる。私はそれを適当にあしらって町田康のエッセイを読んだ。とても愉快だが、自分にはこんな生活を送ることもこんな発想をひねり出すこともできないのだな、と思うと切なくなった。愉快なエッセイを書くには豊富な苦労譚が必要に違いない。結婚生活には苦労が多いと聞く。町田康のエッセイを読み終えた私は、試しに榎本なごみと結婚してみようかと考えたが、金もないのに結婚できるわけがないのだった。それに狂っている人間と一緒になりたいなんて、きっと冗談だろう。冗談を本気に取るほど阿呆な行為はない。


 晩餐の席で、母は食べる私を見張っていた。「キノコ、飲み込んだ?」と尋ねてきた。そういえば図書館から帰ってきたらゴミ箱が空っぽになっていた。仕方がないので私はキノコを飲み込んだ。そして狂った。記憶を失った。深夜に目覚めてこの日記を開くまでの記憶がない。いつものことだ。

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