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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
123/366

2011年12月15日

※この作品はフィクションであり、作者の日記ではありません。

12月15日(木)

 土曜日に借りた本のなかに珍しくライトノベルが混ざっていて、そのタイトルを「僕は友達が少ない」というのだが、少なくとも友達が存在しているだけ十分充実しているのではないか、と私は思う。私の友人は私が狂い始めると同時に私への連絡を絶った。友達が少ないより友達がいないほうが明らかに悲惨なのではないだろうか。友達が少ない人間にも見向きもされないのだから。


 母が「今夜は一家で外食だから」と言ってきた。父とは別れたのではなかったのか、と尋ねてみると、「最後にもう一度だけ、一緒に会いたいって。そうすれば離婚してくれるっていうから」だから、母は父と会うのか。条件があるから仕方なく従う。そうとは言い切れないかもしれないが、私にはその行動がとても子供っぽく写った。ただし狂った私の目にそう写っただけなので、本当に母の行為が子供っぽいものなのかは分からない。


 その件について榎本なごみは「あっさりしたものですね」と感想を漏らした。もっとドロドロした、口汚く罵り合うような別れのシーンを見たいのか。「いえ、一応家族なんでしょう? 家族が別れることって、普通は悲しいことだと思うんですが。お母様も泣くのが自然なんじゃないか、と思いまして」しかし榎本なごみも家族と離れて暮らしている。兄と離れて、このマンションの部屋で。「あいつのことはいいんですよ、あいつは嫌いな家族ですから」母も父のことを嫌っていないとは限らない。「そんな素振りは見せませんでしたけどね……というか、私はあなたのご両親が話しているところを見たことがないのですが」私の両親は、晩餐の席に同席していても、特になにも話したりしなかった。そんな感じになっていたから、別れることになったのか。


 本を2冊読み終える頃には夕方になっていて、母と私と妹は外食に出かけた。母はバッグに冷凍したキノコを入れていた。ファミリーレストランで私たち家族4人は同じ席について、晩餐を摂った。食事しながら別れ話は進んでいった。別れ話の最中、父は泣いた。父以外の人間は泣かなかった。母は私にバッグに入れていたせいで自然解凍されたキノコを食べ終えたライスの皿に置き、食べさせようとした。私はそれを食べた。帰り道の最中で私は狂い、意識を失った。


 日記を書き始めようとすると、「誰か、泣きましたか」と榎本なごみが起き上がって尋ねてきた。父は泣いた、と伝えると、「私の兄は、まだ泣いていないんですよ」と榎本なごみ入った。だからどうしたというのだろう、と私は思った。それとも、ここで何か気づかなければならないのか、私は。

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