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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
122/366

2011年12月14日

※この作品は作者の日記ではなくフィクションであり、登場する人物・団体等とは一切関係ございません。

12月14日(水)

 最近、日記に「分からない」という表現を多用しすぎているのではないか、と気づいた。だから今日はその言葉を使うことを控えてみよう、と、朝、誓った。深夜となり日記を書いている現在、私はそれを忘れなかったことを後悔している。分からないことは分からないと書いたほうが明らかに分かりやすいからだ。しかし記憶してしまっていたものは仕方がないので、今日これからの日記は「分からない」という言葉を使わないで書く。


 昼に編集者が部屋に仕事をサボリにやってきて、リビングで酒を飲んでいた。缶ビールである。「君も飲むかい」と尋ねてきたので、飲むと答えると「駄目だよ、君みたいな奴は」と編集者入った。じゃあどうして尋ねたのか。嫌がらせのためだ。そうに決まっている。しかしその規模があまりにも小さい。小さすぎる。部屋の家具という家具を轟音と共に破壊しまくった在りし日の編集者はどこへ行ってしまったのか。母との恋にかまけて日和ったのか。大歓迎である。


 部屋の中にいると狂いが加速していくような気分になっていく。文章を書いていれば、それか本でも読んでいればその気分は治まる。インターネット中は治まらない。不快な書き込みはどこにでもあるからだ。とにかく部屋に入ることによる狂いの加速を抑えるためには本を読むか文章を書くかするしかなかった。しかし私はそのどちらもやりたくなかった。飽きたからである。その理由は、理由を、考えようとしていると、「そろそろ病院へ行かないといけないんじゃないですか」と榎本なごみに言われたので、私は部屋を出た。榎本なごみは私の部屋に残った。何をやって過ごすつもりなのか。どうして帰らないのか。


 晩餐にエビフライが出された。マヨネーズもソースもなしで食べろという。嫌がらせかと思ったが、面倒くさいだけだろうと思い直した。そして私は思い知った。味付けされていないエビにはほとんど味がない。ついでに出されたキノコしか入っていないスープにもいつものように味はなかったし、味の薄い晩餐だった。


 ここまで、危ないところはいくつかあったが「分からない」という言葉を使わずに何度かかけた。なんとなく満足感に脳が満たされていくのがわかるが、私は一体何をやり遂げたのか。誰にも見えないことをやり遂げても誰も認めてなどくれはしない。無駄な努力とはこのことか、と私は痛いほど思い知った。もう寝る。さっきまで気絶してたけど。

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