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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
120/366

2011年12月12日

※この作品は作者の日記ではなく小説です。

12月12日(月)

 起きて水を飲むと吐き気が襲ってきた。このところ空気が宮崎にしては冷え込んでいるせいで、身体の温度も下がり、冷たいものを内蔵が受け付けなくなっているらしい。私はトイレに飲んだばかりの水を吐いた。引っ越してきてから吐くのはこれが初めてである。全然記念すべきことじゃない。


 冷蔵庫を覗いてみると、なんとそこには酒瓶が入れられていた。引っ越してから母も油断したのか、それとも編集者がいつでも飲めるようにとの配慮か。早速飲んでみると、胃に落ちると同時に直ちに食堂の出口まで酒がせり上がってきた。私はまた吐いた。やはり冷たいものはだめだ。ましてや刺激物であるアルコールなんて全然だめだ。


 平日なのだから健康のことを考えて歩いたほうがいいのではないか、人の目も休日より少ないことだし。珍しくそんなことを考えた私は外へ出てみたのだが、家々の塀の上や隣のマンションのベランダや家の庭の植木の上などそちらこちらに猿が鎮座しており、それらが一斉にこちらを向いたのでさすがに怖気付いた私はすぐさま家に戻った。引っ越してきてからこんなものが見えるのはこれが初めてである。全然記念すべきことじゃない。しかしなぜか安心している私がいて、それがますます嫌だった。私は夜まで読書して過ごした。


 榎本なごみが「このキノコ人間が。」を読み続けている。終わりのない本だから読むだけ無駄だ、と一応忠告してみたが、「じゃあ、ずっと読み続けられてお得ですね」と言うので、私は止めるのをやめることにした。読み続けたいなら読み続ければいいのである。終のない物語を読むなんて時間の無駄以上の何にもならないと私は思うのだが。


 終わりのない、という表現から、将来、という言葉を連想してしまったため、晩餐には暗い気持ちで挑むことになってしまった。一年後の自分すら上手に想像できない。まさか私は死ぬまでずっとこのままの生活を送るのか。そんなことを考えてしまうのだ。「一年後のあんたは、安いバイトでもしてるんじゃないかしら」と母は励ますのが目的なのか凹ませるのが目的なのかよく分からないことを言った。

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