2011年12月8日
※この作品は作者の日記ではございません。
12月8日(木)
今日もマンションに居座る榎本なごみに、編集者とは親子または兄妹だったりするのか、と尋ねてみた。なぜなら編集者の名前も榎本なごみだからだ。親子で同姓同名という例は珍しい。兄妹である場合も同じく珍しい。しかし全くありえない話ではない、と思う。法律がそれを許すのか、法律の専門家ではない私にはそれを調べる術がない。ヤフー知恵袋で尋ねてみるしかないが、それも人との交流の一種である、苦手である。だから本人に直接尋ねてみることにしたのだ。「……ええ、まあ。兄妹です」話は繋がった。「でも、だから何だ、って思いませんか?」榎本なごみは家出してここに来ているのか。「いけませんか? 守ってあげますよ」駄目ともなんとも私は言わない。
今日は歩こう会が開いている日ではあるが、小説のネタ、つまり追う男の妹である追われる女が追われる男を想う理由を考えなければならなかったので行かなかった。家でネットしたり寝転んだり本を読んだりしていたが駄目だったので、読み終えた本を返却しに外を歩き、帰ってきたが何も思い浮かんでいなかった。返却した本は色川武大「狂人日記」である。その本によれば、狂人には幻覚がつきものであるらしい。そういえば最近は幻覚らしい幻覚を見ていない。榎本なごみに、君は幻覚か、と確認を取ってみた。「はい」すると相手は肯定した。家出少女のくせに。
晩餐の席で、榎本なごみが編集者の悪口を言うようになった。曰くあいつは性格が悪い、一緒になって幸福になった人間は一人もいない、身内にすら陰湿な嫌味を言うのだからもし結婚なんかしようもんならストレスがマッハになる、等々。「家族を悪く言っちゃ駄目だと思うのだけれど」と母は言った。母は榎本なごみと編集者が兄妹であることを承知していた。「あなただって家族を捨てたじゃないですか」榎本なごみは言うと、母は黙った。母は果たして大人なのだろうか。それとも大人になれなかったから会社勤めではない、翻訳家などという仕事に就いたのだろうか。