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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
102/366

2011年11月24日

※この作品は誰かの日記ではありますが、作者の日記ではありません。

11月24日(木)

 ふれあいサロンへ向かう車に榎本なごみが同乗していた。どうも最近現実に榎本なごみがなじみすぎている気がする。それとも何か、私がそれを望んでいるのか。


 保健センター内のふれあいサロンへ到着すると、そこには誰も来ていなかった。いつもは参加者の狂った人々と共に保健センターの職員が数人は待機しているはずなのだが、今日はなぜか職員の姿すら見えない。「将棋盤がありますよ」と榎本なごみはサロンの奥の棚から将棋盤と駒のセットを持ち出してきた。それから定石を知らない二人で将棋をやった。


 午後になってもふれあいサロンには誰も現れなかった。先々々週あたりには顔を出していた編集者はどうした。職員はどうした。いつも働いていることを自慢げに話していた男は、水ばかり大量に飲んでいた男は、その他大勢の狂人たちはどこへ消えた。でも榎本なごみはそこにいた。そこで一丁、やってみた。目を閉じて、そこに榎本なごみはいない、と思い込む。そして目を開く。すると榎本なごみは消え、代わりに職員と狂人たちが表れた。彼らの視線は私に一点集中していた。職員の一人が私に言った。「どうしたんですか今日は、まるで一人芝居のようなことを延々と続けたりして」私は言葉少なに榎本なごみと将棋をやっていただけである。


 そのまま夜まで、私は榎本なごみを再出現させなかった。深夜、この日記を書いていると、母がどこかへ出かけていく音がした。なぜ母が出かけて行ったのか分かったのかと言えば、車の発信音が聞こえたので玄関へ向かってみると、母の靴がなくなっていたからである。私は目を閉じ、榎本なごみは私の背後に立っている、と思い込み、瞼を開けた。榎本なごみは「大丈夫ですよ、お母様があなたを捨てるわけがありません」と言った。それは私にとって都合のいい言葉だった。

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