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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
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2011年8月15日

※これは私の日記ではないことを明言させて頂きます。又、登場人物、又は私が完全に狂った場合、連載を終了とさせていただきます。ご了承ください。

8月15日(月)晴れ

 今朝、最初に耳に飛び込んできたニュースは、県内に二つしかない動物園のうち、家に近いほうから一匹の猿が逃げ出した、というものだった。インターネットよりも先にテレビで知った。ニュースがインターネットより早く私の耳に入ってくるとは珍しい、と思っていたが、今日はパソコンの電源を入れるより先にテレビの電源を入れていたのだ、ということに、ニュースを知って五分後に気がついた。私は狂っている。


 私は狂っている。体内時計が狂っていて昼夜逆転した生活を送っているとかそんなヤワな狂いかたではなく、本当に気が狂っているのである。こんなことを自称しても信じない人が大半だろうが、医師は私を指して「君、気が狂っているよ。すぐに仕事を止めて福祉で暮らしなさい」と言った。とんでもない医者である。それを聞いた私は市役所へ赴き、福祉の手続きを取り、それ以来福祉で暮らしている。全く、自分が狂っていると自覚している人間を狂っていると認定して福祉として金を提供するとは、とんでもなく狂った世の中である。そしてとんでもなく狂った私である。ちなみに福祉で支給された金は親の財布に収まっている。


 私は狂っている。この狂いは、きっと直らないだろう。そんな気がしているのではなく、後で書くがこれには根拠があって言っているのである。だから私は日記を書くことにした。この狂いが進行すると、きっと私は最初に人の顔が認識できなくなる。次に、絵に描かれた記号としての顔も認識できなくなる。そして最後に、文章も認識できなくなる。文章が認識できなくなると、日記が書けなくなる。この日記が途切れたその日が、私の狂いが極に達した日、ということになる。そんな記録が残したくなったので、私は今日から日記を書く。日が開いたら、二日分書く。とにかく短くても、毎日分書くのだ。そうしている限り、私は完全に狂ったことにはならない。病院や市からは完全な狂人と認定されて入るが、私の中では、まだ私は完全な狂人ではない。そう考えている。でも狂っている。少しは狂っている。


 今日の晩餐にはオムレツが出た。オムレツとは通常、ホテルなどでは朝食として饗されるものである。しかし我が家では、晩に出た。何がおかしい。おかしなことなど何も無いではないか。夜にオムレツが出ることの何が変だと言うのだ。私は狂っているが私に食事を饗してくれる母親は狂っていない。狂っていないから働けているのだ。そしてオムレツにはキノコが入っていた。シメジではなかった。シイタケでもないようだった。エリンギでも、当然マツタケなどでもないようだった。味の無いキノコだった。このキノコのせいで、私は狂い続けているのではないか。そんな気はしている。しかし私にそんなことをやる母は、狂っていない。働けているのだから、狂ってなどいないのだ。


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