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【 秋の文芸展2025】階段が増えていく怪談  倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜番外編  作者: 路明(ロア)


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異㔺界ヱㇾΛ"ーター၈女 二

 うしろを振りかえる。

 エレベーターの扉はぴったりと閉まっていた。


 三階の廊下を見回す。通る人もなくしずかだ。

 下半身OLが追いかけて来くる気配もないことを確認して、涼一(りょういち)はホッと胸をなで下ろした。


「あー。だから何だあれ」


 そうつぶやいて(ひたい)に手をやる。

 二階だの十階だの意味分からん。

 前髪をかき上げたかったが、営業用に整えてあるので崩すわけにいかない。

 自身を落ちつかせるために、もういちどハーッと息を吐く。

 カバンからスマホを取りだし、時間を見た。


 とりあえず営業の訪問だ。


 約束のあった清掃会社の事務所のガラスドアを押す。

 さきほど降りたばかりのエレベーターから到着音が聞こえる。扉の開く音がした。

 作業服を着たポニーテールの女の子が、掃除用具を両手に持ちエレベーターから降りてくる。


「あ、わたのはらのかた。お世話になってまーす」


 バケツやモップの音をカタカタさせてこちらに近づく。

「あ、ども。お世話さまです」

 涼一は愛想よく笑いあいさつをした。

 ここの清掃員の女の子だ。何度か顔を合わせている。

「どぞ」

 女の子がモップを持ちかえてガラスドアを開けてくれる。

「すみません」

 涼一は会釈して室内に踏みだした。

 


 会釈ですこし下を向いた視界に、ミントグリーンのタイトスカートとストッキングの脚とパンプスが目に入る。



 涼一は、会釈した格好で固まった。

 ぎこちない動きで顔を上げると、下半身だけのOLがコツコツコツコツと靴音を立てて企業のフロアのなかを横切った。

 ついつい目で追うと、そのまま壁に消える。


「どうしました?」

 清掃員の女の子が大きな目をこちらに向ける。


「いや……幽霊って、ここの社屋」

「やだ幽霊なんているわけないじゃないですかー」

 清掃員の女の子がけらけらと笑う。

 まるっきり信じてないタイプか。

 んじゃ幽霊の話題はやめとこと思う。


 下半身だけのOLが、壁からでてきてふたたびフロア内をコツコツコツコツと横切りはじめる。


 女の子の背後から近づき、ぶつかりそうになった。

 どうせ見えていないんだろうしな。涼一は黙っていた。

 


「あ、すみませぇん」



 女の子がスッと横によける。

 「え」と涼一は目を見開いた。

「他社のかたですか? お世話になってます」

 女の子が下半身OLに向かってふつうに話しかける。

 見えてんじゃん。

 涼一は目を丸くした。

 見えかたが違うんだろうか。


「上半身ないと、お口もないからおしゃべりするのなかなか難しいんですかねー」


 女の子が首をかしげる。

「え……え?」

 涼一はあっけにとられた。

「え、あの」

「社長呼んできますね。――社長ぉー」

 女の子が声を上げながら奥へと消える。


 何かすげえ強者(つわもの)を見た。

 涼一は目を見開いて女の子のうしろ姿を目で追った。

 




「すげえ強者いた……」

 清掃会社の営業を終え、涼一は通話をかけてきた土屋にそう告げた。


 エレベーターを避け、こんどは外の非常階段を降りて地下駐車場に向かっている。

 こんなところで下半身霊に遭遇して()られでもしたら一巻の終わりだが、エレベーターと薄暗く窓もない屋内階段はもはや使いたくない。



「ちょっと待て。あれどういう感性してんだ? 下半身だけのOL見て “上半身なくしても元気にお仕事してるってえらいですよねー” ってふつうに言ってくるんだけど」



「──すっげえな、その子。会ってみてえー」

 土屋がゲラゲラと笑う。

「 “上半身、事故に遭ったんですかね? それとも熊ですかね?”  って、知るかっての」

 土屋がますますゲラゲラと笑う。

 かなり気に入ったようだ。まじでこんど紹介したろかと思う。


「このまえ海のほうの事故物件借りた不動産あんだろ。あそこの物件に平気で清掃に行ってる子らしいからな。肝が違いすぎてて怖えわ」


 外の階段なので、風が強めに吹きつける。

 せっかく整えた髪がくずれんじゃねえかと涼一は内心で舌打ちした。

「んでそっち営業は? こっちばっか心配してだいじょうぶなの、おまえ」

 カン、カン、カンと鉄筋に自身の足音が響く。


「──いま車ん中。CDかけられるかどうかみてるとこ」

 土屋が答える。


「CDプレーヤーあったっけ? おまえの車」

「──カーナビ。CDとDVDの再生機能あるでしょ。ほとんど使ってなかったけど」

「ああ」

 涼一はそう返事をした。

 通話口の向こうからJロックが聞こえる。そういう音楽聞くのかと思う。

「あと定時んときでいいわ。切るぞ」

 そう告げて通話終了のアイコンに指先をそえる。

 視界のなかに入った階段の段数をなにげに数える。


 目を見開いた。



 さきほどまであと数段で一階の踊り場につくと認識していたが、下には十階分くらいはあるだろうかという階段がつづいていた。





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