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【 秋の文芸展2025】階段が増えていく怪談  倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜番外編  作者: 路明(ロア)


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異㔺界に行ㇰ方法 二

 爽花(さやか)との通話を切ったあと、車は右折して広めの県道からべつの県道へと入った。


「みどりさん括弧(かっこ)仮名、エレベーターのとこだけ考えると五階で乗ってくるっていう都市伝説の若い女さんかって思っちゃうけど、階段にも出てるんだよね」

 土屋(つちや)が言う。

「だからたぶん、エレベーターは関係ない。“異世界へ行く方法” を鏡谷(かがみや)くん相手に唱えたのも、伝えたかったのはべつのことなんじゃないかな」


「なに」

 涼一は眉をよせ聞き返した。

「それなんだよね。俺は見てないし、さやりんのSNS情報もまだないから材料少なすぎなんだけどさ」

 土屋が言う。



「行員さんが言っていたのは、“合わせ鏡はごぞんじですか” だよね」

「ああ」

 涼一(りょういち)はそう返した。



「合わせ鏡と異世界エレベーターの共通点をもし挙げるとしたら、どっちも異世界と通じるものってとこなんだよね」


 涼一はハンドルを握りながら眉をひそめた。

「もしかすると、みどりさん括弧仮名が伝えたいのは “異世界への行きかた” じゃなくて “異世界からたすけてほしい” とかの可能性も」

 涼一はフロントガラスのさきを見つめた。

 コツコツコツッとパンプスの音を立てて追ってきた下半身だけのOLの姿を思いおこす。

 もしそういう事情なのだとしたら。

 


「いや、知らんし。もうちょっと具体的に伝えろっての」

「仮に異世界なら物理的法則がちがうことあるだろうし、そもそもみどりさん括弧仮名は亡くなってるだろうから脳で言語を組み立てることもできないかもしれないし」


 土屋が言う。

 涼一はウインカーを出した。左折してさきほどのほぼ空き地のような駐車場に乗り入れる。

 区画線はとくにないので、土屋の乗用車のわきに平行に停車させた。


「……死んでんだよな、あれ。やっぱ本体は」


 涼一はつぶやいた。

「まあ、十中八九。残り少ない割合で生霊ってのも考えられなくもないけど」

「んだって異世界だろ……どういうとこかぜんっぜん想像つかんけど」

 運転席のシートに背中をあずける。

「中世ヨーロッパみたいなパラレルワールドなら、まあラッキーだよね。四次元なんか入りこんだらウラとオモテが入れ替わるっていうし」

 涼一は目を見開いた。

 

「なにそれ」

「なにそれって言葉どおりの意味」


 土屋が答える。

「死ぬじゃん」

「ふつうは、んだね」

 土屋がそう返した。

 なにを平然と返してんだこいつと思う。

 そんな世界に引きずりこまれていたなんて可能性も考えられるこちらはゾッと鳥肌が立つ。



「んだねじゃねえよ、おまえ。ゾッとしねえ?」

「鏡谷くんはあんまりしなくていいんじゃない? そっちに持っていかれそうになったら俺が引き戻してあげる」



 土屋が言う。

「そのためにCDの再生機能の点検してたんだし、塩も用意したし、このまえはお不動さまの羂索(けんさく)借りたし」

 涼一は、目を見開いて助手席のほうを見た。

「なにおま。わりとスパダリじゃね?」

「溺愛してあげるってか」

 土屋が助手席のドアを開ける。


「んでもまあ、とりあえずあと営業行くから、そっちも――」


 土屋が前方を見る。

 車から降りかけたところで動作を止めた。

 なにかあったのかと涼一も前方を見る。 



 企業の制服を着た童顔の女性が、車のまえにいた。



 アイドルが少し大人になったという感じの、甘ったるい笑顔のかわいい顔立ち。

 折り目ただしいしぐさでおじぎをする。

 セミロングのきれいな髪が、肩からサラッと下に落ちた。



 涼一と土屋が、行員さん、または行員の霊池(たまいけ)という通称で呼ぶ存在。

 

 本性は不動明王だ。

「来やがった。今回こそはセクハラしても真相聞いたれ」

「おさわりしたらエネルギーに当てられて気絶すんじゃん。鏡谷くん、何回やっても覚えないとか、やっぱドM?」

 土屋がそう返す。


 

「こんにちは」



 行員が笑顔で言う。

 涼一は、顔をしかめて車から降りた。

「何がこんにちは。毎回無茶だけど、今回こそはさすがに一般の社畜にはむりだろ。えらい坊さんか馬車馬のように働きもんの政治家にでも頼め」

「アインシュタイン=ローゼン橋はごぞんじですか?」

 行員がかわいらしく首をかたむける。

「どこの橋。外国?」

 涼一は顔をしかめた。


「今回は、(くう)を斬ってくだされば」


 涼一は眉をひそめた。

「……どゆこと」

「あー、ちょっと待ってください」

 土屋がポケットからスマホを取りだした。検索をはじめる。

「えと……AIさんも解釈困ってるみたいなんですけど」

 そう前置きする。



「つまりアインシュタイン=ローゼン橋を仏教的な言葉にあてはめると、おそらく “(くう)” ってとこじゃないかって」



色即是空(しきそくぜーくー)の空か」

「さすが鏡谷くん、般若心経の冒頭と終わり以外も知ってんじゃん」

 涼一は顔をしかめた。

「……さっぱり分かんね」

「アインシュタイン=ローゼン橋ってのは理論上の時空のトンネルだよ。SFに出てくるワープに使うトンネルっていうか。――だから異次元へ行き来できるトンネルではっていう説もあったりする」

 涼一はさらに顔をきつくしかめた。

「まえにあった、なんとかダルマ?」

「アビダルマでしょ。あれも仏教と量子力学に共通点が多いなんていう話だったけど」

 土屋がスマホを上着のポケットにしまう。 

「つまり今回鏡谷くんは、異次元へつながるルートを断ち切ってくれないかと、行員さんとしては――そうですよね?」

 土屋が行員に確認する。

「は? ムリ」

 涼一は眉をよせた。



「お使いください」



 行員が、いつものごとく噛み合わない会話を続行する。

 ほっそりとした両手の上に、いつの間にか()びた古美術品のような倶利伽羅剣(くりからけん)と羂索が乗っていた。

 倶利伽羅剣を涼一に手渡し、羂索を土屋に渡す。

「あ……ども」

 土屋が羂索を受けとった。

「今回も鏡谷くん引き上げ係ですか、俺」

 そう言い苦笑する。


「では。ご健闘をお祈りいたします」

 行員がきれいなしぐさで礼をする。

 


 つぎにまばたきしたときには、消えていた。





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