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【 秋の文芸展2025】階段が増えていく怪談  倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜番外編  作者: 路明(ロア)


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異㔺界に行ㇰ方法 一


「──あ、さやりん?」


 高内ビルまでの一キロほどの道のり。

 二人でならんで歩きながら、土屋が爽花(さやか)のスマホにかける。

 繁華街にさしかかったが、平日の昼下がりという時間帯のせいか人通りも車の通りもさほど多くはない。

 少し曇り空だが、すごしやすい天気だ。


「授業中じゃなかった? ごめんね──え?」


 しばらく爽花の話に耳をかたむけてから、土屋が声を上げて笑う。

「授業中だけどだいじょうぶだってさ」

 土屋がこちらに向けてそう伝えた。

「あいつ、まじめに授業受けてるときってあんの? いっぺんもお目にかかったことないんだけど」

 涼一は顔をゆがめた。


 

「鏡谷くん? ──いま俺の横にいるけど」



 土屋が愛想笑いでそう伝える。

 ややしてから、困惑したような顔でスマホから耳を離した。

「急にあわてた感じで、“ならならあああああとでいい” って言ってるんだけど。あんまりあとにならないほうがいいよね?」

 土屋が問う。

「おまえが、お団子にかけてる目的があんま分かんないけどな。こいつにかけて解決するなら早いほうがいいんじゃね?」

 ふたたび土屋がスマホを耳にあてる。



「鏡谷くんも、早くぅって言ってるからさ」

「んな幼児のおねだりみたいな口調で言ってねえだろ」



 涼一は、スラックスのポケットに手を入れた。

 土屋がまた困惑した顔をする。

「え? 授業もうすぐ終わるの? ならそれからのほうがいいか。──五分したらかけ直す。ごめんね」

 そう告げて土屋が通話終了のアイコンをタップする。 

「ちゃんと授業優先してるじゃん」

 スーツのポケットにスマホをしまう。


「そもそもどういう状況で話してんの? こいつ。授業中に通話してたらセンセに聞こえね?」


「いまはいろいろ違うのかも。高校卒業したのって、ひとむかし前だしな――鏡谷くんは?」

「学年いっしょだろ。何とうとつにボケたいの、おまえ」

 涼一は眉をよせた。





 高内ビルの地下駐車場に到着する。

 道側のスロープ状の入口から入り、出入口ちかくにある管理人室のほうに向けて会釈をした。

 薄暗い駐車場の奥に停めた社用車に歩みより、キーを解除する。

 

「乗りな。あっちの駐車場まで送る」


 涼一(りょういち)は運転席に乗りこんだ。

 土屋(つちや)が助手席のドアを開ける。

「エレベーターってどっち」

「あっち」

 涼一はさきほど訪れたさいに乗った老朽寸前のようなエレベーターを指さした。

 土屋が首の角度を左右に変えてエレベーターのほうをながめる。

 ややしてから助手席に乗りこんだ。


「みどりさんは今はいないみたい」

「まじでみどりさん呼びすんのか」


 涼一は顔をゆがめた。

「あ、五分とっくに経ってる」

 土屋がスマホを取りだして時間を見る。もういちど爽花(さやか)に通話をかけた。

「休み時間、終わっちゃてたりして」

「五分って言ったのに、あっちからかけてくるってのはないのな」

 涼一は不満をもらした。

「どうする? スピーカーにして鏡谷(かがみや)くんも話す?」

「いらね。すぐ出るぞおい」

 涼一はそう答えた。

 ハンドルの横にキーをさしこみエンジンをかける。


「スピーカーにしよ。鏡谷くん、とうとつに情報のあと出しすることあるから」


 土屋がスピーカーのアイコンをタップする。

 涼一は眉をよせた。

 車を発進させる。

 サイドウィンドウを開けて駐車料金を支払い、精算機から領収証を受けとる。

 出入口を出ると、視界が急激にあかるくなった。


 

「──はい……」



 爽花が、らしくもなくおずおずと通話に出る。

「あ、さやりん、さっきごめんね。授業はだいじょうぶ?」

 助手席の土屋がほがらかに応じる。

 こんなやかましいガキにまで感じいい対応できるって、こいつこそ営業の(かがみ)だなと涼一は思う。


「まずかったら言って。またかけ直すから」

「──そそっちこそ、まずいでしょっ、ふつう」


 爽花が返す。

 なに言っとんじゃと涼一はハンドルを握りながら脳内で返した。

「こっちはみみ未成年じゃん。びびBLとか見て免疫とかはあるけど、でもでも気をつけてようっ」


 土屋が軽く首をかしげる。

「何か悪いことした?」

「──いま、りょんりょんが横にいるって。早くぅっておねだりしてるって言ったじゃん。そそそういうオトナの情事とか、未成年には刺激強すぎるの!」

 涼一は、まっすぐフロントガラスのさきを見ていた。

 社用車のエンジン音が、快適に耳にとどく。


 土屋が自身のスマホの画面をじっと見つめた。

 


「鏡谷くんが横にいるって、何か気になるフレーズだった?」

「いつものわけ分からん病気だろ」



 涼一は答えた。

「こいつの受け答えは、八割くらい聞き流して残った単語を再構築して聞くのがいちばんちょうどいいぞ」

「なにげに扱いのコツをマニュアル化してる鏡谷くんもすげえな」

 土屋がそう返す。


「話すたびにわけ分からん設定でもの話されるんだ。いいかげん対応練るわ」

「どういう脳内設定で俺らと話してんだろ。やっぱ十歳もちがうと、ちょっと世界違うよね」


 土屋が(あご)に手をあてる。

 


 


 繁華街を抜けて、郊外のほうに出る。

 あまり広くはない県道をまっすぐに車を走らせた。

 

「んで、さやりんにちょっと聞きたいんだけど」


 土屋が切りだす。

「──なに?」

「エレベーターで、はじめ三階、つぎは二階、そのつぎは一階、つぎの五階に行ったら女の人が乗ってくるので話しかけてはいけません、──こういうの聞いたことある?」

「階数の順番はうろ覚えだけどな」

 涼一は運転しながら口をはさんだ。

「階数は順不同」

 土屋がつけ加える。



「──知ってるよ。エレベーターで異世界に行くやりかた」



 爽花が答える。

「は?」

 涼一はハンドルを握りながら声を上げた。

「うん、だよね」

 土屋がそう応じた。

「何それ。有名なの?!」

「まあ、オカルトとか都市伝説界隈ではわりと」

 土屋が答えた。


「──わたしはやったことないけど、同じクラスのきみちゃんがやったら、なんとアメリカ留学行くことになっちゃって」


「ああ、なるほど。ある意味で異世界」

「おまえ、よくそんなのまじめに答えるな」

 涼一は顔をしかめた。



「つか何なの? んじゃ、あの下半身OLは異世界転移でもさせようってつもりで出てるわけ?」



「鏡谷くん、みどりさん括弧(かっこ)仮名。」

「……みどりさん」

 涼一は言い直した。

「転移ならまだいいよね。転生だったら、ただでさえ人手不足とガソリン代高騰(こうとう)でお困りの配送会社のトラックがドーンと」

 土屋が真顔で言う。

「日本の物価までどうなるのっていう」

「……おまえ、何か変なストレスためてる?」

 涼一はハンドルを握りながら顔をしかめた。

 土屋がスマホに向かって口を開く。


「んで、さやりん、まるで異世界に行ったようなOLさんの行方不明事件とか、もしくは変死とか、そういう話SNSで知ってる人いないかな」

「──異世界に行ったような行方不明事件とか変死……うん」

 爽花が復唱する。


「手がかりがミントグリーンの制服と若いOLさんってことくらいだけど」

 土屋がつづけた。





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