例のあれ
【悪魔も聖書を引用できる——】
真の〝悪魔〟はいったい誰なのか!?
驚愕のラスト!あなたはきっと騙される!!
それから三か月が経った。
拓海との交際は順調だった。趣味も合い、いっしょにいて退屈することがない。何より、からだの相性が良かった。
彼は前戯にたっぷり時間をかけてくれる。こちらの準備が整うまで、ていねいに愛撫してくれるのだ。
拓海のように、女性の反応を確かめながら優しく攻めてくれる男は稀だ。世の中にはルックスのいい男はいくらでもいるが、セックスが上手な男はそう多くない。ほとんどの男がAVを教科書にしており、自分本位の乱暴なセックスが常識だと思い込んでいる。腰を激しく振れば相手が喜ぶと本気で信じているのだ。
だからこそ、拓海のような献身的なセックスを実践する男は貴重だ。その点だけを切り取ってみても、簡単には手放したくないと思えてしまう。
夜の営みも含め、拓海にはこの先も長く付き合っていけると思える条件が充分に揃っていた。
そろそろ、例の儀式を行ってもいい頃合いだ。
麗子はリムジンの後部座席から声をかけた。
「沢尻さん、例のあれ、そろそろ準備してくれる?」
「承知しました」
〝例のあれ〟で通じる関係性が心地いい。
「あ、それと、今から銀座に向かって。急にお寿司の気分になっちゃった」
「かしこまりました」
沢尻がウインカーを出し、滑らかに車線変更する。
彼の運転には淀みがない。職人技と言ってもいい。きっと、彼も拓海と同じように、ベッドの上では女を悦ばせることに秀でているのだろう。
麗子はハンドルを握る沢尻の指先を眺めながら、拓海との交わりを思い浮かべて頬を蒸気させるのだった。
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