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【猟奇的サスペンススリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第五章 破滅へのカウントダウン

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30/40

緊張

【悪魔も聖書を引用できる——】


衝撃のラスト!

最後に笑うのはいったい誰か!?

 拓海はキッチンルームに一人でいた。とても広々としていて、結婚前に一人暮らしをしていた部屋よりも広いくらいだ。

 キッチンは無人だったが、広く見渡せるだけに、いざというときに隠れる場所がない。したがって、迅速な行動が求められた。

 ようやく動き出す、麗子の殺害計画。今日がその初日だ。強い緊張で先ほどから心臓が音を立てていた。

 湯が沸くのを待つ間、食器棚からティーカップと受け皿を二組取り出す。やけに高級そうなティーカップなだけに、自然と丁重に取り扱ってしまう。とはいえ、一つや二つ壊したところで、麗子はきっと気にもしないだろう。

 沸騰したお湯をハーブを入れたティーポットに注ぎ、数分ほど蒸らす。その後、二つのティーカップに中の湯を分け、そのうちの一つだけにミルクを垂らした。

 拓海は周囲をさっと見渡して人影がないことを確認すると、ズボンのポケットから茶色い小瓶を取り出す。念のため、もう一度周囲を確認してから、素早く小瓶のキャップを開けてミルクを注いだほうのカップの上に薬品を垂らす。手がぶるぶると震え、一滴だけのつもりが勢いで三滴も垂れてしまった。しかし、薬の値段を考えるとやり直す気にはなれず、明日から気をつけることにしてそのまま麗子に渡すことにした。

 小瓶を急いでポケットに戻して再び周囲をうかがうが、誰かに見られた気配はなかった。

「ふう……」

 自然とため息が漏れる。緊張を強いられたせいで、たったこれだけの作業でだいぶ気疲れした。

 拓海は薬を入れたティーカップに鼻を近づける。ハーブの香りとミルクの匂いがするだけで、問題はなさそうだ。

 これで準備は整った。だが、今後を思って憂うつな気分になった。

「これを、一年も続けるのか……」

 つい弱音が口をついて出るが、気を取り直すと、ティーカップを木製のトレイに乗せて居間へ向かった。

 居間では、すでに麗子が肘掛け椅子に座って待っていた。彼女の膝の上には、ペルシャ猫のサクラが女王様然と構えている。さすが血統書付きの猫だけある。

「麗子、お待たせ」

 自然に振る舞おうとしたが、声がわずかに上ずってしまう。ミルク入りのティーカップを受け皿ごと差し出すと、麗子はニッコリと微笑んで受け取った。

「拓海さん、ありがと」

「どう……いたしまして」

 動揺で言葉が詰まり、心の中で自分を叱責する。だが、とくに麗子が不審がる様子もなく、少しだけほっとする。

 拓海はトレイをローテーブルに置き、麗子の斜め向かいのソファに腰を下ろした。ソファは麗子が座る肘掛け椅子と同じデザインで、細かい網目のシルク生地が張られ、脚は先端がねじれて細くなっている。

 麗子がティーカップを口元に運ぶ。拓海はその動きについ見入ってしまう。

「ん? どうかした?」

「いや、何でもない……」

 慌てて目を逸らすが、彼女は気にした様子もない。

 拓海はさりげなく彼女の口元に視線を戻す。ティーカップが彼女の唇に触れ、大きく傾く。唇から離れると、笑顔が向けられた。

「おいしい」

 拓海も笑顔で返そうとするが、ぎこちない表情になってしまう。それをごまかすために拓海もティーカップに口をつけるが、味はまるでわからなかった。もう一度口をつけようとして、ふと手が止まる。妙な不安が頭をよぎったからだ。

 キッチンではミルク入りのカップに薬を入れたはずだが、確信がもてなくなっていた。一度疑念が生まれたあとでは、もはや再び口をつける気にはなれなかった。

 明日からはミルク入りを先に作り、薬を入れてから自分の分を用意しようと心に決めた。手順をルール化すれば、今みたいな不安もなくなるはずだ。

「稽古はどう?」

 拓海は麗子の質問に答えながらも、つい視線は彼女のカップに引き寄せられてしまう。

 行動に移してみて初めて、人命を奪う行為が想像以上に過酷なことだと実感した。女上司を殺すために、美穂がこんなことを三か月も続けたのかと思うと驚くばかりだ。しかし、人にやらせておいて自分はできなかったでは彼女に会わす顔がない。だからこそ、必ずやり遂げる必要があった。これを乗り越えた先に、幸福が待っていると信じて——。

 麗子がハーブティーを飲み終えた。ほっとするのと同時に、あの薬を入れたのが彼女のカップだったか確信がもてなくなった以上、残念ながら進展した感じは得られなかった。

 もう一度、明日から仕切り直しだ——。拓海は心の中で決意を新たにした。

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