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【猟奇的サスペンススリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第三章 悪魔的策略

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20/42

発端

【悪魔も聖書を引用できる——】


真の〝悪魔〟はいったい誰なのか!? 

驚愕のラスト!あなたはきっと騙される!!

「ああ、イライラするな!」

 佐藤良彦(よしひこ)は苛立ちながら、人通りの多い歩道を突き進んでいた。

 銀座の得意先を回った帰りだった。無理やり作り上げた笑顔の反動で、今は仏頂面になっているのが自分でもわかる。

 最近は何もかもがうまくいっていなかった。営業成績も振るわず、社長からは顔を合わすたびに嫌味を言われ、そのたびに殺意を覚えた。常に気分はささくれ立っていた。

「……ん?」

 ふと顔を上げると、正面から歩いてくる中年男と目が合った。相手が道を譲る気がないと見るや、佐藤は目を剥き、好戦的な空気を発散させて突き進む。すると、禿げた中年男は慌てて飛び退くように道を譲った。とたんに気分が良くなった。少しでも道を譲れば負けだと思っていたから、歩行中はいつも殺気立っていた。

 高級ブランドが入るビルの近くに差しかかったところで、佐藤は驚きの光景に出くわした。

「あれは……!?」

 佐藤は思わず足を止め、街路樹の影に身を隠す。

 動揺を抑えながら、木陰から様子をうかがう。

「……間違いない。麗子だ」

 視線の先にいたのは、かつての交際相手だった。ブランドショップから出てきた彼女は、颯爽とした足取りで店の前に停まるリムジンへと向かっていく。

 端正な彼女の横顔をまじまじと見つめながら、佐藤の膝が震え出す。

「あいつは、大火傷を負ったはず……。これは、どういうことだ?」

 彼女の後ろを、スーツ姿の店員らしき男が追いかける。店員の手にはルイ・ヴィトンの手提げ袋がいくつも抱えられており、彼女が購入したものに違いない。

 正装した色白の運転手が、リムジンの後部ドアを開けて彼女を迎え入れる。彼女は優雅な身のこなしでリムジンに乗り込んでいく。全身からあふれ出る富豪のようなオーラは交際時には見られなかったものだ。まるで、芸能人を目撃したかのような錯覚に陥る。

 後部ドアを閉めた色白の運転手が、店員から大量の手提げ袋を受け取ってトランクに収めていく。

 佐藤は一連の光景を呆然としながら見つめた。

「……あいつ、ただのOLじゃなかったのか?」

 色白の運転手が運転席側に向かった瞬間、佐藤はすぐに行動に移った。

 ちょうど通りがかった空車のタクシーに向けて、佐藤は素早く手を上げて乗車の意思を示す。リムジンはまだ動き出していない。

 タクシーに乗り込むなり、佐藤は運転手に叫んだ。

「前のリムジンを追ってくれ!」


 やがて、彼女を乗せたリムジンは、都内の総合病院の前に停まった。

 彼女がリムジンから降りるのを見て、佐藤もタクシーから降りた。彼女を追うようにして、エントランスの自動ドアをくぐる。彼女がエレベーターに乗るのを見届けると、戻るまでの間、佐藤はロビーで待つことにした。

 ロビーの椅子に腰を下ろすと、スマホを取り出して「新庄麗子」と検索してみた。SNS上でいくつかの検索結果が出てくるが、彼女本人に該当するものは見当たらなかった。「Reiko Shinjo」でも試してみたが、結果は同じだった。ネットだけで彼女の正体を突き止めるのは、どうやらむずかしそうだ。

 およそ二十分後、エレベーターの扉が開き、彼女が姿を現した。佐藤は気づかれぬよう注意しながら彼女のあとを追った。

 病院を出た彼女が待たせてあったリムジンに乗り込んでいく。

 佐藤は病院前で客待ちしていたタクシーに飛び乗るなり尾行を依頼するが、年配の運転手は難色を示した。

「お客さん、面倒なことはごめんですよ」

「だいじょうぶだ。ただの浮気調査だから」

 運転手は納得しかねる様子だったが、しぶしぶといった様子で前を向いてハンドルを握った。


 交通量の多い国道をしばらく走ったあと、彼女を乗せたリムジンは閑静な住宅街へと入っていった。明らかに高級住宅地で、周囲は高い塀に囲まれた豪邸が立ち並んでいる。やがて、前を走るリムジンが速度を落としたかと思うと、左に曲がり、石塀に囲まれた敷地の中へと消えていった。

 佐藤は少し手前でタクシーを降りると、高い石塀に沿って歩き始めた。

 やがて、立派な鉄柵製の門が目の前に立ちはだかった。門扉を覗くと、四階建ての堂々たる洋館がそびえ立っているのが奥に見えた。

 佐藤は目の前の光景に言葉を失った。

「……何だよ、これは!?」


 のちの調べで、新庄麗子が資産家の令嬢であることがわかった。

 病床に伏せる父親は死期が近いらしく、父親が死ねば、莫大な遺産は一人娘である彼女に引き継がれるという。

 真相を知り、佐藤は激しく憤った。彼女が火傷を装ったのは、愛の深さを試すテストだったのだ。つまりそれは、そのテストさえパスしていれば、佐藤は見事なまでの「逆玉」を実現していたはずだったというわけだ。

 今さらではあったが、千載一遇のチャンスを逃したことを、佐藤は悔やまずにはいられなかった。

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