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【猟奇的サスペンススリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第二章 見え始めた悪意

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18/42

悪魔の微笑

【悪魔も聖書を引用できる——】


真の〝悪魔〟はいったい誰なのか!? 

驚愕のラスト!あなたはきっと騙される!!

「おいしい」

 鴨肉のソテーを口に運んだ麗子が笑みを浮かべた。

 拓海は微笑み返し、ワイングラスを口元に寄せる。

 二人が訪れたフレンチレストランは、夕食時ということもあってほぼ満席だった。ここは麗子のお気に入りの店で、結婚してから何度も足を運んでいた。

「拓海さん、稽古のほうはどう?」

「順調だよ」

「よかった。次の舞台も楽しみにしているわ」

 拓海は食事の手を止め、居住まいを少し正して口を開いた。

「麗子、こうやって稽古に打ち込めるのも、全部君のおかげだよ。本当に感謝してる」

「夫を応援するのは妻の務めでしょ? これからも、わたしにできることがあったら何でも言ってね」

「ありがとう」

 麗子に頼めば、不思議と叶わぬことなどないのではと思えてしまう。拓海は強力な庇護のもとにいることを実感しながら、切り分けたステーキを口に運んだ。

 拓海は次の舞台の概要を語って聞かせた。話題は自然と映画へと移り、いつものように会話は弾んだ。麗子が気になる新作映画があるというので、後日二人で見にいく約束をした。

 メインディッシュのあと、麗子の前にはパンナコッタと紅茶が置かれ、拓海はブラックコーヒーに砂糖を加えながらかき混ぜた。

「拓海さん」

「ん?」

「わたし、やっぱり精密検査を受けてみようと思うの」

 以前から体調不良を訴えていたため、拓海は精密検査を勧めていたのだ。

「それがいいよ。きっと何の問題もないと思うけど、調べておいて損はないからね。不安を解消するための検査だと思えばいい」

「そうね」

 再び映画の話題に戻り、今度はホラー映画について語り合った。最近のハリウッドのホラー映画は映像が綺麗になり過ぎていて恐怖感が薄い、という点で二人の意見が一致した。

「ごちそうさまでした」

 麗子がパンナコッタをきれいに食べ終え、満足そうに手を合わせた。拓海はその仕草に一瞬目を奪われる。いつ見ても品のある所作だ。麗子は食事のときだけでなく、すべての振る舞いに気品が宿っていた。拓海はそんな姿を見るたびに、その育ちの良さに感心せずにいられなくなる。もし自分に子どもができたならば、彼女のように品のある大人に育ってほしいと願った。

 ハーブティーを飲み終えた麗子に、拓海は声をかけた。

「そろそろ出る?」

「ええ、そうね」


 並び立って人通りの少ない裏道を歩いていた。

 周囲は閑静な住宅街で、低層のデザイナーズマンションが薄暗がりの中に静かに佇んでいる。

「なあ、麗子。まだ早いし、もう少し飲んでかないか?」

 そう問いかけた瞬間、麗子がふいに崩れ落ちた。

 拓海は慌てて彼女を抱きかかえる。

「麗子、だいじょうぶか!?」

「え、ええ……」

 だが、麗子は自分の足で立つことができないらしく、拓海に体重を預けたままだった。

「麗子、どうした!?」

「だいじょうぶ……。ちょっと、立ちくらみがしただけだから……」

「とりあえず座ろう」

 二人で歩道沿いのレンガ造りの花壇の端に腰を下ろした。

 拓海は彼女の肩に手を置いて言う。

「ここで、少し休んでいこう」

「ええ、そうね……。でも、ただの立ちくらみだから、あまり心配しないで」

 麗子はそう言って、ぎこちない笑みを浮かべた。

「少し肌寒くなってきたね」

 拓海はそう言って、麗子を優しく抱き寄せた。そして目を細めると、彼女に気づかれぬように口元に笑みを浮かべた。

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