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【猟奇的サスペンススリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第二章 見え始めた悪意

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12/40

マスクの女2

【悪魔も聖書を引用できる——】


真の〝悪魔〟はいったい誰なのか!? 

驚愕のラスト!あなたはきっと騙される!!

「スミレ、やめるんだ!」

 舞台の上で、拓海は腹の底から声を上げた。

 拓海は枯れ木を模した大道具の下に立ち、紫色の妖しい照明に自分の顔が照らされているのを感じながら、舞台中央にいるみのりに向かって再び声を張る。

「スミレ、お願いだからやめてくれ!」

「来ないで!」

 みのりが鋭い声で拓海を制すると、手にしたガラス瓶を自分の顔に振りかける仕草をした。同時に、肉がジュッと焼けるような効果音が会場内に響く。狙い通り、客席から短い悲鳴が上がる。

 みのりがうずくまり、両手で顔を覆う。

「スミレ!」

 拓海はみのりに駆け寄る。

 みのりは顔を押さえたまま悶え苦しむ演技をする。

「スミレ、だいじょうぶか!?」

 みのりが顔を上げると、特殊メイクで焼けただれた肌が露わになる。

 再び、客席から短い悲鳴が上がった。

「レイジさん! これでもわたしを愛してくれるっていうの!」

 みのりの言葉に、拓海は天を仰いだ。

 立ち去ろうとするみのりに、拓海は手を伸ばす。

「来ないで!」

 みのりが拓海の手を振り払う。それでも拓海は構わず彼女を抱きしめると、声の限りに叫んだ。

「スミレ! ぼくは君を死ぬまで愛し続ける!」

「ああ、レイジさん!」

 みのりが拓海に身を預けた瞬間、舞台の照明がすっと落ちる。暗闇の中、観客席から大きな拍手が湧き起こる。

 その音を心地よく耳にしながら、拓海はみのりの手を引いて舞台袖へと向かっていった。


    *  *  *


「拓海さん!」

 楽屋口にいると、麗子の声が響いた。彼女は白いブラウスにカーキ色のタイトスカートを合わせ、エルメスのバッグを小脇に抱えていた。

「拓海さん、今日の舞台も素晴らしかったわ!」

「ありがとう。でも、これも麗子のおかげさ。ぼくらの体験談を舞台化することを、君が了承してくれたからだ」

 すでに楽屋も廊下も人であふれ返っていた。

「すごい人ね」

「ああ、ここはバックヤードが狭いから」

 と、そこで、拓海は思わずはっとした。麗子の肩越しに、ある女の姿をとらえたからだ。

 女は誰と話すでもなく、通路の壁際に身を寄せていた。白いニット帽を目深にかぶり、赤いセルフレームの眼鏡をかけ、白いマスクで顔を覆っている。七、八メートルほど離れていたが、強い嫉妬心が痛いほど伝わってくる。拓海は顔を引きつらせながら視線を外した。

「どうかした?」

 拓海は動揺を押さえながら答える。

「ううん、なんでもない。だいぶ人が増えてきたから、続きは打ち上げの席で話そう」

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