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カラフルな女神

作者: 昼月キオリ


中学一年生の秋。


隣の席の女の子は僕の初恋の人、宮野有里美(みやのありみ)さん。



宮野「修学旅行の班一緒だね」

佐々夏雲(ささなつぐ)「え!?あ、うん、そうだね!」


不意に声をかけられてあたふたしてしまう。

うわぁ、コミュ症ダダ漏れな反応してしまったぁ・・・

絶対キモいと思われたよ・・・。


 


 

修学旅行当日。

私服で行くことになっていた僕は迷ったあげく、ジーンズに白Tシャツに黒のスニーカーというシンプルな服装にした。


そして、密かに楽しみにしていた初めて見る宮野さんの私服姿。


ざわざわ・・・。


蛍光ピンクのTシャツと青色のミニスカート、紫色のスニーカー。


お、おぉ・・・こ、これはなかなか個性的なファッションだ・・・。

何故その色にその色を合わせたんだろう・・・。



宮野「今日の服ね、くまのワンポイントなの」

佐々「へ、へぇ・・・くま可愛いね」

 

宮野「宮野君、私って今どんな色してる?」

佐々「え?色?えーと、Tシャツは蛍光ピンク、スカートは青色、スニーカーは紫色、かな?」

 

宮野「わぁー、やっぱりそうなったかぁ・・・」

佐々「えーと、それはどういう・・・」

 

宮野「私ね、色が分からないの」

佐々「え?色が分からない・・・?」

 

宮野「目は見えるんだけど、小学生高学年になった頃からかなぁ、色が識別できなくなって、それから私の世界はずっとモノトーンなの」

佐々「そ、そうなんだ・・・それは大変だね」

 

宮野「でも、服は自分一人で選びたくて・・・じ〜っと見てたら色が見えたような気がしてさ、Tシャツはベージュ、スカートはブラウン、スニーカーは黒、

全然違ってたね」

 

宮野さんはテヘッと舌を出す。

色が分からないなんて物凄く辛いはずなのに宮野さんはからっからと明るい笑顔を浮かべている。

凄いな・・・ってそれも失礼か。


宮野「だからよく皆んなに笑われるの、変な趣味だって」

佐々「皆んなには言ってないの?」

宮野「うん、おバカな振りしてたら皆んな笑ってやり過ごせるから」

佐々「じゃあ、どうして僕には言ったの?」

 

宮野「うーん、何でだろうね?」

 

宮野さんが首を傾げてこちらを見る。


佐々「ドキッ・・・」

 

いやいや!こんな状況でドキッてなんだ!不謹慎だろ!


宮野「なーんか、佐々君なら言っても大丈夫かなって、

一人くらい味方がいて欲しくなったの」

佐々「そ、そうなんだ・・・」


それは僕が無害そうだからという意味だろうか。





数日後。美術室。

何の部活にも属さない宮野は佐々が美術部だと知り、

見に来ていた。

 

宮野「わぁ、佐々君、その絵素敵だね!青とオレンジのグラデーションが特に・・・あれ?」

佐々「え?・・・今何って言ったの?」

宮野「あれ、私、変だよ、佐々君が描く絵だけは色が見える、どうなってるの!?」

佐々「本当に?」


宮野「うんうん!」

宮野さんはめちゃくちゃ嬉しそうに頷く。

 

何それ、嬉し過ぎるんですけど・・・。


宮野「佐々君、これからも見に来ていい?」

佐々「もちろん」

宮野「また私の絵書いて欲しい」

佐々「うん、書くよ」

宮野「私の世界に色をくれる?」

佐々「うん、宮野さんの世界、僕が彩ってあげる」

 

二人は見合わせるとふふっと互いに笑った。

 

宮野「今の私、ちょっとくさかったかな?」

佐々「いや、僕もだいぶね」



しばらく話していると初恋の人の話題になった。

宮野さんは小学5年生の時。隣のクラスの男の子で足が速い子だったらしい。

佐々君は?と聞かれ、テンパった僕は勢い余って初恋が宮野さんだと打ち明けてしまった。


宮野「佐々君はさ、初恋が私でガッカリしないの?」

佐々「しないよ」

宮野「初めての恋人が色が分からない女で嫌じゃない?」

佐々「嫌じゃないよ」

 

宮野「本当に?」

 

ずいっと体を寄せられて思わずドキッとする。

 

佐々「っ・・・本当だから、近いって!」

 

佐々が顔を真っ赤にしながら手をブンブン振る。


宮野「あーあ、今ほど色が欲しいって思ったことないや」

佐々「どうして?」

宮野「だって、佐々君、今顔赤いでしょ?」

佐々「あ、赤くなんかないよ!」

 

宮野「本当に〜?」

 

宮野さんが頬をツンツン突ついてくる。

 

佐々「宮野さんって意外と意地悪なんだね」

宮野「ガッカリした?」

佐々「ううん」

宮野「じゃあ良かった!」

 

佐々「初恋は実らないって聞いてたのに叶ったね」

宮野「初恋、私で良かった?」

佐々「うん、というか最初で最後だと思う」

宮野「え〜!そんなに重いこと言っちゃう?」

佐々「ガ〜ン、お、重い・・・?ごめん、気をつける、根暗で重いって最悪・・・」


何かの恋愛雑誌で見たことがある。

初恋は実らない。根暗は嫌われる。重いと捨てられる。


宮野「ううん、佐々君はそのままでいーよ」

佐々「え、何で?」

宮野「何でって言われても分かんない、今の佐々君がいいなって思ったから」

佐々「ありがとうございます?」

宮野「何でいきなり敬語?笑」

佐々「何となく?」

 



佐々「あのさ、宮野さんって色は分からないって言ってたけど服のセンスはいいと思うんだ、逆に僕は色の合わせ方は分かるけど服のセンスがない、

だから、これから二人で服選びしてみない?お互いに意見し合ってさ」

 

宮野「佐々君、いいこと言う〜!それめちゃくちゃいいじゃん!やろうよ!」

佐々「え、本当にいいの?一人で服選びたいって言ってたから邪魔にならない?」

宮野「ううん、むしろ、佐々君がいると心強いよ」

佐々「ありがと・・・」

 

宮野「あー、また照れてる、可愛い」

 

宮野がまたもや佐々の頬をツンツンつつく。

 

佐々「もぅ・・・」


これからもこうやってお互いの苦手なところを補い合い合える存在でありたい。

二人ならきっと大丈夫だよね。




宮野「佐々君、この絵って私、だよね?」

佐々「うん、そうだよ」

宮野「私って佐々君の目にはこんな感じに見えてるの?」

佐々「そうだよ、気に入らないとこあったら書き直すけど・・・」

宮野「ううん、凄く素敵、自分の顔なのに変な感じ、

こんなに沢山の色のベールに包まれてて、

まるで女神様みたい・・・なーんて大袈裟だったかな?」

佐々「いや、大袈裟じゃないよ、女神をイメージしながら描いたのは確かだから」

宮野「そ、そう・・・」

 

佐々「あ、宮野さん顔赤くなってる、絵に書き足そうか」

宮野「だめっ!!今のままでいいから〜!」

佐々「冗談だよ」

宮野「佐々君、冗談言えるようになったんだね」

佐々「宮野のさんの真似っこしてみただけ」

宮野「もー!!」


宮野が佐々の肩を軽くポカポカ叩く。

もちろん全然痛くない。


佐々「あはは」

 

宮野「あ、そう言えば、絵のタイトルは決まってるの?

佐々「うん、決まってるよ」

宮野「えー!何!気になる〜!」

佐々「そこに置いてあるシールに書いてあるよ」

宮野「えーと、あ、これね・・・」



"カラフルな女神"


そのタイトルを見た宮野さんは目から涙をポロポロ流し始めた。



佐々「えぇ!?ご、ごめん、そんなに不快だったかな!?今すぐタイトル変えるから!」

宮野「ううん、嬉しいの・・・自分のこと、無色でつまらない奴って思ってたから、それが救われた気がした」

佐々「そっか・・・それなら良かった・・」

 

宮野「佐々君、ありがとう」

 

真っ直ぐに見つめられて時が止まる。

これはキスのチャンスなのでは?

 

佐々「こちらこそ、モデルになってくれてありがとう」

 

そう言って佐々が顔を近付けたがプルプルとしてしまう。

 

佐々「やっぱり僕にはまだ早い!!」

佐々が頭を抱えていると不意に名前を呼ばれた。

宮野「佐々君、佐々君」

佐々「うん?・・・!?」


ちゅっ!


佐々「みや、いま、ほおに・・・」

宮野「次は口にしようね?」

 

そう言って彼女は柔らかく微笑んだ。

絵の中のカラフルな女神と同じ笑顔で。




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