47.エピローグ
クラージュ様が王になってから6年。
街には活気が戻り、貧困にあえぐ人々には、公的な炊き出しが定期的に行われるようになった。レオやアンドルー率いる兵士たちがその主導を務めている。
現在、エルネストはロイの手を離れ、本格的に政務に携わっている。
都だけでなく、税が軽減されて待遇の良くなった各地では、かつての戦乱の名残を感じさせないほど、人々の生活は息を吹き返していた。
✽
今、都の市場前の広場は前王政の暗い記憶を塗り替えるように整えられ、明るくにぎわっている。
レオとアンドルーが遊んでくれているのは、今年4歳になる双子の子どもたちだ。
銀髪に空色の瞳をした息子はエルネストそっくり、亜麻色の髪に碧い瞳をした娘は私に似ている。
ふたりとも小さな足でちょこまかと走り回り、息を弾ませながら笑い声を響かせていた。
子どもたちが生まれたあと、私は海岸で新しくシーグラスを拾った。エルネストと私は、それぞれ水色と深緑の硝子片を互い違いに両耳に飾っている。
やがて私たちは、そのシーグラスの耳飾りをクラージュ様にも差し上げることにした。
拾い物を高貴な方へ渡すのは少し気が引けたけれど、クラージュ様はまるで少年のように目を輝かせて喜び、その場で耳につけてくださった。
陽の光を受けてきらめく硝子片を見ていると、自然が王を祝福しているように思えてくる。
「お似合いです! こうしてクラージュ様が身につけてくださるのであれば……。この加工業を貧民や孤児たちの事業にできないでしょうか?」
私は思い切って、そう提案した。
潮の流れの影響か、海岸のある一帯にいろとりどりのシーグラスが集まっているのを発見したのだ。
クラージュ様は少し驚いた顔をしてから、柔らかく笑ってうなずいた。
そして本当に、その日のうちに話を進めてくれたのだ。
今では、シーグラスのアクセサリーはクラージュ様のお気に入りとして広く知られるばかりか、私たちのように仲の良い家族や恋人、更には友人の象徴としても人気が出ている。
収益が孤児や貧しい子どもたちのために使われることから、慈善の品として貴族にも広まり、身につけること自体が名誉とさえ言われるほどだ。
僅かでも、かつてのエルネストたちのような人々を減らせるのなら、と私は願わずにはいられなかった。
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「おーい、あんまり遠くに行くと迷子になるぞ!」
エルネストが子供たちに向かって声を張れば、私は皮肉を込めて答えた。
「そうよ、あなたたちのお父様なんて、二度も迷子になったんだから」
「アリシア……!」
困った顔のエルネストに、皆が笑った。
結婚してから、私はエルネストに過去のすべてを教えてもらった。
「実は迷子になったのではなく、置き去りにしようとした」
そう懺悔されたけれど、私は『23の心の所在が迷子だったのだろう』と思っている。
子どもたちは、石畳の隙間や小さな花壇の影に隠れたり、互いに追いかけっこをしながら、レオとアンドルーを撒こうとする。
孤児だった彼らは、今やすっかり面倒見の良いおじさんだ。見失うものかと必死になり、本気で追いかける姿が微笑ましい。私はその光景を見つめ、心がじんわりと温かくなるのを感じた。
そしてお忍びで来て、その様子を見守っていた“ヨルカ”の表情も柔らかかった。彼の隣に立つ、秘書官のロイと顔を見合わせ、そっと目を細めた。
「……この子たちのためにも、まだまだ頑張ぬといかんな。教育制度も充実させねば」
「“教育”……」
私が昔を思い出しながら、遠い目をしてポツリと呟くと、エルネストがにやりと笑み、ヨルカに向かって言った。
「ひがな一日、山の中を走り回るような教育はやめてくださいね」
私も続ける。
「変な薬の作り方も嫌ですよ」
「するか」
ヨルカは笑って、私たちを順に指で軽く弾いた。
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