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「僕を忘れろ」と言った義兄が忘れられません【連載版】  作者: 矢井瀬 月


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31.自覚と説得




 ロイは約束通り、何も言わずにいてくれた。

 けれど、エル兄を追いかけたときに、私たち二人が護衛を撒いてしまったことは問題視された。


「何もなかったから良かったようなものの、今後はもう少し腕の立つ者をつけよう」


 穏やかに、そう提案してくれたクラージュ様の顔を、私は真っ直ぐに見返すことが出来なかった。胸の奥で、ズキリと罪悪感が疼く。


 エル兄に会えば、クラージュ様との違いを── “兄”と“恋する人”との違いを理解できるはずだと信じていた。けれど現実は逆だった。行き過ぎた義兄(エル兄)への憧れや慕情が、あの瞬間に歪んだのをはっきりと感じたのだ。


 強引な接吻(くちづけ)の後に芽生えた、戸惑いと苦しさ。そして僅かな熱。意識の端から追いやろうとしても、不意にあの感触が蘇る。その度に私は、唇を強く噛み締めるしかなかった。


 あれからずっと、胸が痛い。熱い。喜びでも怒りでもなく、ただ切なく、苦い感情に支配され続けている。

 だって、気づいてしまった。私は、クラージュ様を“恋の相手”として見ていないということを。


 ヨルカのときのクラージュ様は“兄”のように。

 計画を主導するときのクラージュ様は“父”のように。


 彼は私の心に空いた、家族の穴を埋めてくれた。私はクラージュ様にこそ、家族のような感情を抱いていたようだ。


 けれど、感傷に浸ってばかりはいられない。猶予は、期限があるから猶予なのだ。


 胸の痛みを押し隠し、私は心の中で固く決意した。──もう一度、エル兄(ヴァズリー)を探し出し、そして説得するのだ、と。



 私はレオとアンドルー、かつての11(ウィレイズ)18(ウィアード)に協力を求めた。


「もちろん手伝います。ただアイツの記憶が遡っちゃってるとなると、一筋縄じゃいかないと思います。11()が行って逆効果にならないといいんですが」


「逆効果?」


「俺とはかなりやり合いましたから。それに貧民街が燃えたのは、俺らのせいですし」


「ああ、それは確かに逆効果かも。あの場所は『兵士が燃やした』っていう事実だけで通そう。罪悪感はあると思うけど……」


「わかりました、すみません。23(ヴァズリー)は当時、18(オレ)より随分捻くれてました。まあ誰のことも信用してないし、貴族は心底嫌ってましたから、オレらみたいに密告したりはしないと思います。時間かけて少しずつやっていきましょう」


 かつて裏切り者として憎んだ彼らが、今はこうして私のために口をそろえてくれる。その前向きな返答が嬉しかった。


「ありがとう。レオ、アンドルー」

 


 私と彼らは、あの日23(ヴァズリー)と別れた裏路地へ足を向けていた。会えるかどうかは賭けだったけれど、途中でひとつ、小さな気配が加わったことに気づく。レオとアンドルーの表情も引き締まった。やがて、袋小路につくと23(ヴァズリー)が姿を現した。


「今日の護衛はこいつら? オレに気づいてたね。やるじゃん」


 薄暗がりの中、彼の瞳だけが興味深そうに私たちを映す。


「護衛も兼ねてもらってるけど……、11(ウィレイズ)18(ウィアード)だよ、“エル兄”」

11(ウィレイズ)18(ウィアード)……? マジか。ははっ、オッサンになってる」


「まだ20代中頃だよ多分!!」

「お前とそう変わんねえだろ!」


 思わずつっこんだ二人のお陰で、緊迫した空気が少し和らぐ。


「仕方ないだろ、記憶ないんだから。それより生きてたんだ。貧民街(あそこ)潰されたって聞いたけど」


「ああ……アリシア様たちに助けてもらったんだよ」

「ふぅん、それで言いなりになってんだ? 随分丸くなったじゃん」


「言いなりじゃねえ、オレらの意志だ。23(お前)こそ、雇い主に手懐けられてるって聞いたけど?」


「誰だよ、そんなこと言ったの。んな訳ないだろ。少額でも金貰えるし、食物(くいもん)と棲家のために仕事引き受けてやってるだけだ。で、お前らの“崇高な意志”とやらで、何してるって?」


「アリシア様たちの同志にしてもらった」

「同志?」


「最初は23(お前)が、俺たちを説得しに来たんだぞ。──革命を起こそうってな」


 それを聞いた23(ヴァズリー)は、ハハッと心底おかしそうに笑った。


「革命? “エルネスト”は馬鹿だったのか? そうか、エルネスト・レジェ……レジェって、前に革命起こそうとして失敗した家か。うまく行くわけない計画に……。綺麗事ばっか並べて、やっぱりオレを駒にしてたんじゃん」


「違う、失敗したのは俺らのせ──」「レオ!!」


 口を滑らせそうになったレオを、私が手で制すると、23(ヴァズリー)は目を丸くした。


「躾、行き届いてんなー。アリシアって見かけによらず、男を転がすのうまいんだ。どうやったの? オレにも教えてよ」


 こちらに手を伸ばしてくる23(ヴァズリー)に、知らず固まっていると、間にアンドルーが入ってくれた。


「お前なぁ、兄貴だろ!! 大事にしてたんだろうが、アリシア様を! オレらはこの方に助けてもらうまで、お前に義妹(いもうと)がいたなんて知らなかったんだぞ。お前に反感持って、裏から色々調べたにも関わらずだ!」


 レオも私を庇うように立ちながら叫ぶ。


「隠してたんだろ!? 『一番大事なものは隠せ、決して他人に知られてはならない』って、あの街の教訓をお前に教えたのは、俺だ! 結局兵士側にはバレたみたいだが、それを必死で助け出したのはお前だろう!」


 彼らの言葉に、じわりと視界が滲んだ。


「エル兄……」


 縋るように見上げると、23(ヴァズリー)の瞳が揺らいだ。その直後「……うッ」と呻くと、頭を押さえながら後ずさった。


「何だよ、うるせ……オレに大事なものなんて……。クソッ」

「エル兄……お願い。私はエル兄が大事だよ。私のこと、忘れててもいい。だから、一緒に帰ろう?」


「うるさい……やめろよ!」


 エル兄(ヴァズリー)は両耳を塞ぐようにして、必死に私の声を遮ろうとする。けれどその姿は、拒絶よりもむしろ──抗いながらも、失われた記憶の重さに引き戻されているように見えた。


 頭痛に呻く彼の声が裏路地に響き、瓦礫の間を鳥が一斉に飛び立った。その羽音とともに、気づけばエル兄(ヴァズリー)は姿を消していた。



レオ&アンドルー

関連エピソード=ep12、18

登場エピソード=ep19、25

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