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世界遺産は異世界に  作者: 石太郎
第1章 ナミリの旅立ち
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【009】おれの才能は運だった件について。

『なっ?!』


シヴァ様が驚愕の声を上げる。くじ引きの結果が最高に良かったか、最悪の結果の二択だな。お願いします。良い結果でありますように……。


『ヴィシュヌ様、あ、当たりです』


ラーマ様も動揺を隠せない。三大神の一注、ヴィシュヌ神。正直、どのような神様か知らないし、どのようのな力があるかも分からない。


『おやおや、わたくしの力を授けることになるとは。とても運が強いんですね。あなたは』

「ヴィシュヌ神様のお力ですか。どのような力になるか想像できませんね。素晴らしいですよナミリ君!実に興味深いです!」


この場でただ一人、セキネ先生だけが興奮の頂点に達している。


「あのー、お力をいただけるのは大変ありがたい事なんですが、ヴィシュヌ神様の力をいただくと私にはどのような力が芽生えるんでしょうか??」


分からなければ質問する。これ、大事なことです。


『そうですね。わたくしは宇宙の秩序を維持するものです。この世の秩序を乱す者が現れれば、わたくしの力で滅ぼしてしまいます』


ほ、滅ぼす?!穏やかではない力だな……。


『その他にも、わたくしには、状況に応じて体を変える力、化身の力がございます。自らの姿を変えることはもちろん、化身を呼び出すことも可能です。かく言うラーマもわたくしの化身の一つでございます』


滅ぼす力は使いどころに困りそうだが、化身の力は使えそうだ。


『とにかく、くじは公正なものです。さっそく力を与えますので色々とご自身で試してみるとよいでしょう』


ヴィシュヌ様の声と共におれの体もカナミやセキネ先生のように光に包まれた。


「なんだこれは……」


分かる、体内を魔力が駆け巡り、今まで使いたくても使えなかった魔力が、まるで手足を動かすような感覚で使えそうだ。


『ヴィシュヌ様の力を授かった人間はこれまで数人しかいません。あなたは本当に恵まれている』


ラーマ様の羨ましそうな声。ラーマ様は、ヴィシュヌ様の化身ということだから、きっとラーマ様はヴィシュヌ様のことを敬愛されているんだろう。


「魔力が体に巡るのが分かります。本当にありがとうございます」

お礼は大切。ヴィシュヌ様に感謝の意を伝える。


「力を授けてもらえてよかったね」

カナミも自分のことのように嬉しそうにしてくれている。セキネ先生は三大神との邂逅に夢現(ゆめうつつ)だ。


さぁ、三人とも力を授かったことだし遺跡を出よう。だいぶ長居をしてしまったし街にチーズを届けなければ村の皆に迷惑を掛けてしまう。


 『ちょっと待った……』


ん?まだ何かあるのか。今の声は、シヴァ様か。


『ヴィシュヌ派がこれ以上増えてたまるか。おい、そこの人間。我の力もくれてやるから我も敬え』


おれの体がまた光に包まれる。体内を魔力が駆け巡る。ちょっ!これは過剰摂取では??


『シヴァ様!!また勝手なことを!』


ラーマ様が取り乱してるよ。もしかしてヤバい状況??


「ヴィシュヌ神様とシヴァ神様はとても仲が悪く、現実世界でもヒンドゥー教徒はヴィシュヌ派とシヴァ派のどちらかです。おそらくシヴァ神様はヴィシュヌ神様の力を持つ人間が生まれることが許せなかったのでしょう」


的確な解説ありがとうございます。セキネ先生……。シヴァ様の力か。破壊神ですよね。どんな力か想像したくないです。もうここから離れよう。お礼を言って立ち去ろう。そう思った瞬間だった。


『ちょっと待て。これ以上お前たちの信徒ばかり増やしてたまるか。そこの人間、わしの力も受け取れ』

あー、また光に包まれたーー。


『ブラフマー様?!あなた様までなんてことを!!』

『これ以上、奴らの好きにさせてたまるか。それでなくともわしは人気が無いんじゃ!』


「ヒンドゥー教の三大神は、ブラフマー神様、ヴィシュヌ神様、シヴァ神様で、それぞれ創造、維持、破壊の神です。ところが、何故かブラフマー様は人気が無く、ヒンドゥー教徒が支持する神は、ほぼヴィシュヌ神様、シヴァ神様のどちらかです」


『そこの人間、いらんことを言わんでいい!』

「申し訳ございません!!」


解説はありがたいが、ブラフマー様の前で今の話はまずいですよね。セキネ先生、この人興奮すると周りが見えなくなるタイプだな。


『創造、維持、破壊の力を授かるとは本当に運の良い人間ですね。それにしても呆れた方たちです。シヴァさんとブラフマーさんは』

『ヴィシュヌよ、バランスが取れて良いではないか。それより人間よ、このわし、ブラフマーの創造、ヴィシュヌの維持、シヴァの破壊の力を使うと便利な力……人間風に言うとスキルを扱うことができる。その腰のショートソードで試してみようか』


ブラフマー様が教えてくれたスキルの使い方はこうだ。まず、ショートソードをシヴァ様の破壊の力で消滅させる。消滅したショートソードは、ヴィシュヌ様の維持の力で別空間に保管する。そして、保管したショートソードをブラフマー様の創造の力で再生成する。こ、これは異世界冒険の必須スキル『アイテムボックス』じゃないか。


輪廻転生(サンサーラ)の応用だな。この力は便利だが、教えてやらないと気付かない裏技だからな。ブラフマーよ。人気取りに躍起ではないか』

『うるさい、シヴァよ。お主らにわしの気持ちは分からんわ』


「あのー、神様たちはどうして私たちにタダで力をくれるんですか?」


唐突なカナミの質問。確かにそうだ。力を授かる代償があってもよさそうだが、今のところ何も要求されていない。問いにはヴィシュヌ様が答えてくれた。


『この世界は、地球で命を全うした者の次の行き先を決めるための世界です。行き先は、天国と地獄、そしてもう一度地球に生を受ける、輪廻転生の三つとなります。本来であれば我々、神々が迅速に振り分けてあげることが出来れば良いのですが、如何(いかん)せん生き物の数が多すぎます。そこで、ある程度自動的に割り振り出来るように作られたのがこの世界なんです。前世の行いが良い者程、有利な境遇や能力を割り当てられ、この世界でさらに良い行いをすれば天国、悪しき行いをすれば地獄、再審査が必要なら輪廻転生となります』


これは、この世界の真理ではないか。このような話を聞いてしまっても大丈夫なんだろうか。


『分かっているとは思いますが、この事は、他言はなさらぬように』


それはそうだろう。こんな話が事実として広まれば、どんな悪人でも善行に(いそ)しむだろう。


『本来、天国、地獄、輪廻転生を振り分ける世界であったこの世界だが、地獄に落ちるはずの生き物が・・・生き物と表現しているのは人間以外の動物等も含まれているからだが、その生き物が逃走し、人間であれば悪魔、魔族、鬼、妖怪といった邪悪なる者、動物であれば怪物、モンスターに変化し、善良な者どもを襲い、地獄へ引きずり込んでいるのだ』


たしかにホルフィーナ周辺にも小型だがモンスターが出現する。ショートソード一本で十分対処できるが、ごく稀に強力なモンスターが出現し、村で討伐隊を出したり、エルムブルグの兵による討伐が行われている。


『そなたらのように生と死の狭間に踏み込んだ者には、我々、地球の神々や英雄の力で悪しき者の駆除に協力してもいたいのです。我々の力を授けようにも、こちらの世界の人々は、我々のことを知りませんからね。この世界で駆除に協力していただくことで、地球でも魔力が使えるようになったり、治療不可能な傷や病気が少しずつ治っていくのは、まぁ我々からの謝礼ですね』


「とにかく、魔族やモンスターを狩ればいいんですね」


シンプルにまとめるなぁ。カナミは。


『それで構いません。悪しき者の中には我々、神の力に匹敵する力を持つ者も現れています。あなたたちは、これからも悪しき者を駆除しつつ、こちらの世界に現れる遺跡を巡り、力を蓄えると良いでしょう。遺跡は我々、神や英雄との接点として、こちらの世に出現する目印のようなものと思えばいいでしょう』


「ご説明ありがとうございます。このセキネ・トモヤス。今日ほど感激した日はございません」


『お前にも我が息子、ガネーシャの力を与えたから、次の遺跡の位置がなんとなく分かるようになったはずだぜ』


そういえば、セキネ先生も何か力を授かっていたな。遺跡の位置が分かるってのは、ものすごく便利じゃないか。


『さて、そろそろ時間のようです。遺跡が出現するのは年に一度、そして力を授けると一年間はその姿を隠してしまいます。他にもあなた達のように遺跡を求める人間とは、出来れば協力して共に遺跡を訪れることをお勧めします』


『では、お主らを『このブラフマー』が外に送り出してやろう』


『相変わらず人気取りに必死だな……』


呆れるシヴァ様……。


『弓の修練、怠らないでくださいね』


「ありがとう!ラーマ様」


カナミがラーマ様にお礼を言ったのとほぼ同時に、今までずっとそこに居たかのように、おれたちの周りは木々生い茂る、鬱蒼とした森に変わっていた。

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