【033】予想外の喝采
翌日、昼過ぎにミルフォード中心街へ戻った一行は、その足で軍庁舎へ向かった。ベルトウィンさんが正規軍の訓練を見守っていたので声を掛けると、王都からの返答はまだ届いていないとのことだ。
続いてミランダ様に帰還を報告すると、今日もポールさんの料理が食べたいとのご要望。もちろん快諾し、先日と同じく夜は軍庁舎の貴賓用食卓で夕食を共にすることになった。
ここで一行はいったん解散する。ポールさんは料理の仕込み、ユミルさんとサラスさんはサミュエルさんのもとへ帰還報告に向かい、エレンは「せっかくだから」とベルトウィンさんの訓練に参加するため練兵場へ。セキネ先生は今回の遺跡について資料をまとめたいと、借りている部屋へ籠ってしまった。
「ナミリはどうする?」
二人きりになったカナミが尋ねてきた。特に予定もなかったので、「街の見物にでも出かけようかな」と答えると、カナミも「私も行く」と言い、そのまま二人でミルフォードの街歩きに出かけた。
「また、ナミリが一人で出掛けて女の子連れてきたら困るもんね」
エムセブルグの街でエレンを連れ帰ったことを言っているのだろう。
「あれは、たまたま武器屋でおれに合った武器を選んでくれたから、お礼に食事に誘っただけだよ」
「それを世間一般ではナンパって言うんですけど」
確かにそうかもしれないが、下心は無かったんだけどなぁ・・・。
「で、カナミは何が見たいの?」
「服と食べ物かなー」
「食べ物はやめとけよ。夕食はご馳走だぞ」
「でも、それでポールさんを見つけたんだし、いいじゃない」
まず、ミルフォードの街にある女性用衣料店に入った。しばらく品物を物色していると、店員の女性がカナミの服装に目を止め、声をかけてきた。
「お客様、東国の服をお召しですね。今日もそのような服をお探しですか?」
「そうなんですよ。弓を使うのでこんな服のほうが動きやすくて・・・。でも、なかなか見つからないんですよね」
「東国の服はホルフィーナ王国ではあまり流通していませんからね。もし日程に余裕があるなら、仕立ててみるのもいいかもしれませんよ」
そう言いながら、店員の女性がカウンターで何かメモを書いている。メモを受け取ると、この店からの簡単な地図だった。
「もしご興味があれば、この店に行ってみてください。姉が仕立て屋をやっています」
「どうする? カナミ?」
一応確認してみたが、カナミはもう行く気満々で、そわそわしている。
「せっかくだから行ってみたいな。お姉さん、お名前は?」
「ニーナです。姉はエミリアと言います。私の紹介とお伝えください」
ニーナさんに礼を述べ、地図の示す店へと向かった。気のせいか、カナミの足取りがさっきよりずっと軽やかに見える。
地図が示す場所に辿り着くと、そこは小さいながらも気品あふれる佇まいの衣料品店だった。衣料品店といっても、既製服を並べているのではなく、店内には布地がずらりと並び、この中から好みの布を選んで仕立ててもらうのだろう。店に入ると、奥からニーナさんによく似た女性が現れ、静かに微笑みながらこちらへに近づいてくる。
「いらっしゃいませ。当店はすべてオーダーメイドでお作りしておりますので、既製品はございません。仕上がりまでお時間をいただきますが、よろしいでしょうか」
「エミリアさんですよね? ニーナさんの紹介で伺いました」
カナミの返答に、エミリアさんと思われる女性の表情が緩んだ。
「あら、ニーナちゃんの紹介ですか。確かに私がエミリアです。あの子が私の店を紹介するのは、珍しいことなのですが、きっとあなたに何か感じたんでしょうね」
そう言いながら、エミリアはカナミを頭から足先までじっと見つめ、すぐに巻き尺を手に取った。先端を軽く引き伸ばすと、そのまま手際よく採寸を始める。
「ご希望は、今お召しになっている東国の着物と同じもの、でよろしいですか? そうでなければ、わざわざ私に頼む理由はありませんからね」
さすがはプロの仕立て師だ。カナミの服の特殊さを一目で見抜き、必要としている服がまさに今着ているものかどうかを確かめている。カナミも「はい、そうです」とだけ答え、その後は何事もないように採寸を受け入れていた。
採寸を終えて、着物・帯・袴を色違いで三組注文し、エミリアさんの店を出たときには、すでに日が傾き始めていた。危うく今夜の夕食に遅刻するところだった。
本来なら採寸と注文だけで済むはずだったのだが、カナミが弓を使うと知ったエミリアさんが、普段の弓の引き方や魔力の込め方を熱心に聞き出し、そのうえで「最適な布地を探す」と言い出したせいで、そこから本格的な布選びが始まってしまった。結局、おれが紅茶を三杯おかわりする間、選定は延々と続いた。
最終的に、今のカナミと同じ、白い着物に赤い帯、紺の袴のセットは三日後に仕上がり、残りも含めた全ての完成は二週間後ということになった。代金は金貨一枚。少し迷う額ではあったが、将来カナミにリハビリの面倒まで見てもらうつもりなのだから、ここはおれが支払った。
夕食前ぎりぎりの時間にミルフォード軍庁舎へ戻ったおれとカナミは、慌てて身なりを整え、貴賓用の食卓がしつらえられた一室へと飛び込んだ。幸い、ミランダ様はまだ席についておらず、おれたちは息を整えながら腰を下ろした。
その直後・・・。
「ずっと気になっていたんですけど・・・、お二人って、恋人同士なんですか?」
「?!」
このタイミングで、ミレーユさんがとんでもない爆弾を投下してきた。
「あ、あの、すみません! お二人を見ているとあまりにも仲が良いので、つい・・・。もし私の早とちりなら、ごめんなさい!」
ん? ミレーユさんの背後では、エレンやユミルさん、コラントさん、サラスさんまでが、こちらを見ながら笑いを必死にこらえている。ベルトウィンさんとサミュエルさんは完全に我関せずを貫き、セキネ先生だけが「答えを知ってますよ」と言わんばかりにニヤニヤしていた。
「え、わたしとナミリってそんな感じに見えてました?」
カナミが、わざとすっとぼけたような口ぶりで答える。
そりゃ、おれだって十九歳のカナミには少なからず・・・、いや、かなり魅かれている。だが、十七歳のカナミにはまだ子供っぽいところがあり、しかも十九歳のカナミを知っているせいで、この世界のカナミをどう見ればいいのか、自分でも分からず戸惑っている。
「ごめん、ごめん。ナミリさんとカナミさんがあまりにも仲が良さそうだから、みんな気になってたんだ。エレンなんか、初めてカナミに会った時に睨まれたって言ってたしな」
「コラントさん! その話はしないって約束したじゃないですか!」
エレンはそう言いながら、コラントさんの関節をきめて、放言への報復を果たしている。
「んー、恋人同士ではないですけど、わたしはナミリが大好きですよ。セキネ先生も、私のことを気遣って面倒を見てくれますけど・・・やっぱり歳が近くて、ずっとわたしを見てくれているのはナミリなんです。だから、これからもずっと一緒にいたいと思っています」
一瞬の沈黙ののち、食卓を囲む面々が喝采を上げた。
おれはといえば、さすがに照れくさくなって、ただひたすら下を向いていた。




