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世界遺産は異世界に  作者: 石太郎
第1章 ナミリの旅立ち
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【025】ミルフォード防衛戦(4)

 マナポーションを1本使い、残りは2本。サラスさんの手当のために、1本は必ず残しておきたい。エレンに託した『三叉槍(トリシューラ)』の三つの刃のうち、『破壊の刃』はアークロードの魔力障壁を打ち消し、確実にその身に届いている。しかし、アークロードの魔力弾は絶え間なく降り注ぎ、攻撃に転じる隙はほとんどない。


「ナミリ、この刀、威力はすごいけど、近づかないとどうにもできないよ」

「そうは言っても防御結界と『三眼の火』は同時に出せないしなぁ。そうだ、エレン、その刃から魔力を放てないかな?」

「わたし、魔法は使えないよ」

「大丈夫。魔力は刃に宿っているから『なんか出ろ!』って念じながら刀を振りかざしてみて」

「やってみるけどさ・・・」


(なにか出ろ!)

半信半疑で刀を振りかざすと、切っ先から鋭い雷光が放たれ、アークロードを直撃し片腕を吹き飛ばした。


「あ、ヤバい・・・」

おれの魔力が一気に持って行かれたのが分かる。早くマナポーションを飲まないと防御結界が持たない。


「ナミリ! これすごいよ!」

エレンがさらに二度、刀を振りかざす。しかし、雷光は一度だけ放たれ、二度目は何も起こらない。それどころか防御結界が消えてしまった。


「エ、エレン! ちょっと待った!」

慌ててマナポーションを摂取し、防御結界を張りなおす。雷光の影響でアークロードの魔力弾が途切れていなかったら大惨事だった・・・。破壊神シヴァの力は強力だが魔力消費が半端ないな。


「雷光を放つのに、おれの魔力が使われているから後一回が限度と思ってくれ!」

「そうなんだ。もっと撃ちたかったのに残念。ちょっと魔法にあこがれてたんだよね」

「ところで、エレン・・・。アークロードはどこに消えた?」


どうやらエレンが二発目に放った雷光がアークロードを直撃し、跡形もなく消し飛ばしていたようだ。


「うそでしょ。ナミリ、これは取り扱い注意ね・・・」


 三本の刃のうちの一つでこの威力なら、『三叉槍(トリシューラ)』を使いこなすと一体どうなるんだろうか。今は、考えないでおくことにしよう。それよりサラスさんを治療しなければ。


「ユミルさん、お待たせいたしました!」


『慈悲の力』をサラスさんの右胸に集中させる。しばらくすると出血が止まり、傷口が塞がっていく。


「あれ、わたし生きてたの?」

「ああ、サラス。ナミリさんが治療してくれたんだぞ!もう大丈夫だ!」


きょとんとした表情のサラスさんとは対照的に周りを気にすることなく涙を流すユミルさん。きっとシスコン・・・ではなく、いいお兄さんなんだろうな。


「ナミリさん! この恩は一生忘れないからな!」


漫画やアニメでよく聞くセリフをおれが受け取る日が来るとは。これも三柱神様たちのおかげだな。・・・ん?。ブラフマーさん何か仕事してたかな。まぁそこは触れないでおこう。


 そんなことをしていると、北西方向から軍らしき一団がこちらへと向かってくるのが見えた。やがて、その姿をはっきりと捉えられる位置まで近づくと、おれたちの仲間全員の姿を確認することができ、皆が無事戻ってきたことに安堵した。


「ナミリ殿。アークロードはもしや・・・」

「はい。エレンが一撃で消し飛ばしました」

「ちょっとナミリ! 説明はしょり過ぎだから!」


呆れ顔のおれたち一行とは別に驚愕の表情の一団、北西正規軍の方たちだろう。


「アークロードを倒したというのか。信じられんが、後で詳しく教えてもらいたい」

赤い髪をなびかせた、整った顔立ちの女性。鎧には細やかな装飾が施され、そのひとつひとつが高貴な出自を物語っている。鋭い眼差しと凛とした立ち姿が、周囲の視線を自然と引きつける。


「ベルトウィンさん、このお方はもしかして・・・」

「ミルフォード正規軍軍団長のミランダ・ホルフィーナ様です」

エレンは、ミルフォード正規軍軍団長が王族と知っていたのだろう。


「お会いすることができ光栄です。ベルトウィン殿の一団に加わっております、エリーナ・アードヴェイグと申します」

「ベルトウィンから腕の立つ女剣士がいると聞いたぞ! エリーナからも今回の戦いのあり様についてたっぷり聞かせてもらわないとな」

恐縮するエレンをよそに、こちらも挨拶を終え、ミルフォードの街への帰路についた。ふと空を見上げると、沈みかけた太陽が道のりを赤く染めていた。歩みを進めるうちに、空の赤みは藍色へと変わり、街に着くころには、すっかり夜になっていた。



 アークロードとアークジェネラルを失った北西部の悪魔は脆く、その日の夜には大勢が決した。三百名まで数を減らしていた北西軍も、激しい戦の中で散り散りになっていた兵たちが街に戻り、千を超える人数が帰還した。それでも二千近い犠牲を出しており、壊滅と判断すべき被害だった。一方、北東や南西での戦闘も正規軍や地方軍優勢で進み、数日後には悪魔の群れは完全に撤退した。ミルフォード穀倉地帯は大きな被害を受けてしまったが、ひとまず守りきることができたようだ。



 「此度の戦いでは、大きな被害を出し、犠牲となった者も多く、丁重に追悼したい。だがその前に、今はこの勝利に感謝し、盛大に宴を執り行うぞ!」


悪魔の撤退を確認した、その日の昼から街を上げての勝利の宴が始まった。おれたちもミランダ様に付き従う形で、街の中心部での宴に参加することになった。


ミランダ様をはじめ、各方面の正規軍・地方軍の軍団長やミルフォードの街の総督といった、いわゆる「お偉いさん」に囲まれた席で、かなり緊張したが、皆、南東軍の戦いや、北西正規軍救出劇の詳細を聞きたいと興味深々だった。酒が回ったサミュエルさんが饒舌にこれまでの戦いを振り返る。サミュエルさんが見ていない場面は各々が思い思いに場面を振り返った。


キャラベルから上陸後の戦い


南東正規軍と地方軍混成部隊を四部隊に分けた掃討作戦


北西正規軍救出作戦のあらまし


アークジェネラルと剣聖の戦い


アークジェネラルを射通す弓矢


負傷したサラスさんを守りながらのアークロードとの闘いと雷光を放つ刀


「さすが剣聖!」といった声や、「信じられぬ!」といった声。聴衆も各々思い思いの反応で武勇譚を肴に酒を楽しんでいる。


「わたしたちに掛かればアークロードやアークジェネラルなんか敵じゃないですよー」

すでに出来上がっているカナミが上機嫌でおじさんたちに囲まれている。


おれはミランダ様たっての希望で、『三叉槍(トリシューラ)』の刃を実演してみせた。くれぐれも雷光は出さないようにとお願いして渡した『破壊の刃』を手に取り不思議そうに眺めている。


「アークロードの魔力障壁を無効化する刃か。このような魔法は見たことがないな」


「強力な力ですが、魔力消費が激しすぎて、おいそれと使える力ではないんです。エレンがアークロードに放った雷光も二発放てば魔力が枯渇しました」


「でもあの雷光の威力はすさまじかったな」

ユミルさんが会話に加わる。


「雷のような速度で、魔力障壁でも防げない。直撃すればアークロードが消滅する威力。しかも術者本人が使う必要がなく、剣の達人に託せばほぼ必中の魔法になるって、この国でも最高威力の魔法なんじゃないかなぁ」


「ただ、二発撃つと、何もできなくなるから使いどころが難しいですよね」


『三眼の火』なら十発以上撃てるから当面はこっち便りだろうな。


その後、エレンやセキネ先生が加わり、話題は悪魔がなぜ急に襲撃してきたか、に変わっていた。


「王都の東に集落を築くと見せかけ、王国の戦力をそちら側に向け、川を下って穀倉地帯を焼き払うというのは、ずいぶん悪魔らしくないやり方ですね」


「わたしも悪魔がこれほど組織的な動きができるとは思っていませんでした」

「エレンの言う通り、私の知る限りでは今まで無かった攻撃だな」

「アークロードのような知性の高い悪魔が他の悪魔を従えているのかと思いましたが、これほどの規模となるとさらに上位の悪魔が現れているのかもしれません」

「ああ、セキネ殿のおっしゃる通りだ。懸念は王都に伝え、国土全体で警戒するように具申しておく」


話の途中でミランダ様の元へ伝令兵が王都からの書簡を携えてきた。ミランダ様が書簡に目を通す。


「どうやら、王都東方の悪魔の集落から悪魔の気配がなくなったようだな。各地の貴族への討伐兵供出の命も解除されるようだ」


「それでは、私たちの旅もここまでということですね」

王都に行ってみたい気持ちもあったが、今回の旅はミルフォードの街で終わりみたいだな。


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