表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界遺産は異世界に  作者: 石太郎
第1章 ナミリの旅立ち
24/59

【024】ミルフォード防衛戦(3)

 ナミリ殿に任せはしたものの、敵はアークロード一体に留まらず、周囲には多数の悪魔がひしめいている。果たして、この状況を無事に切り抜けられるだろうか。今さら案じたところで、どうにもならない。いま我々にできることは、北西正規軍を一刻も早く救出し、再びナミリ殿と合流することだけだ。


「見えてきました! あの、わずかに盛り上がった丘です。北西正規軍が、悪魔に包囲されながらも、なんとか踏みとどまっています!」


トーマスが叫び、隊に突撃を命じる。南東軍屈指の精鋭小隊が、一本の鋭い槍となって悪魔の群れの一点を突いた。丘の上には、わずか三百ほどの兵が残っている。もとは三千の部隊だったことを思えば、十分の一にまで減ったことになる。だが、この突撃で、敵の包囲に穴をあけ、退路を確保することができれば、彼らを救い出すことは十分可能だ。


このまま押し切れると思った矢先、トーマス小隊の先頭に一体の悪魔が立ちふさがる。全身に鎧をまとった悪魔、アークジェネラルだ。だが、このアークジェネラルは南東で戦ったジェネラルとは異なり、手に重々しい剣を握っている。


「悪魔にも武器の得手不得手があるのか・・・」

思わずつぶやいてしまった。


「トーマス殿! このアークジェネラルは、私が一人で引き受ける。貴殿らは、そのまま突撃を続けてくれ!」

相手が剣なら負けることはない。そう信じて後を皆に託す。


「ベルトウィン様! よろしく頼みます!」

トーマス小隊とサミュエルたちが走り抜けるのとほぼ同時に、アークジェネラルが斬りかかってきた。


その一撃を受け流し、受け流した刀を右手一本に持ち替え、素早く突きを放つ。切っ先が鎧の隙間を正確に捉え、するりと肉に食い込む。アークジェネラルが叫び声を上げた。だが、致命傷には至らない。刃が刺さったままの体で、アークジェネラルは強引に剣を薙ぎ払ってくる。とっさに刀を引き抜き、その剣を跳ね上げて受ける。だが、跳ね上げたはずの剣が、なおも力任せに振り下ろされる。身をひねり、ぎりぎりでそれをかわした。


「敵ながら見事な胆力よ・・・」


アークジェネラルの剣をかわしながら、左手で敵の右手をしっかりと掴み、前方へと体勢を崩す。バランスを崩したアークジェネラルの脇腹には大きな隙間が生まれ、その隙を狙って、右手に握る刀を脇腹から心臓へと突き立てた。


「心臓の位置は、人間と同じようだな」

鼓動が静かに動きを止める。アークジェネラルは打倒した。今すぐに皆の後を追えば、丘への突撃に間に合うかもしれない。そう判断した剣聖は馬に飛び乗り、皆のもとへと駆け出した。



 丘の麓に到達した。慣れない馬での移動でお尻が痛い・・・。弓もまともに構えられないし、騎射なんて練習したことすらない。


(あ、悪魔だ!)


一応、弓に矢をつがえ、放ってみる・・・が、やはり当たらない。馬の揺れによる数十センチのブレが、数十メートル先では数メートルのズレになる。まったく、どうしようもないなぁ。


「ここからは、弓兵、魔法兵は馬を降り、突撃の援護体制を取れ!」


トーマスさんの号令とともに、遠距離攻撃を得意とする兵たちが馬を降りる。


「あー、助かった! もう馬は嫌! せめて馬車にしてよね」

文句を言いつつも、地に足をつけられることにほっとしながら、腰のバッグから『爪楊枝入れ』を取り出す。 そして、これまでのストレスを晴らすかのように、丘を囲む悪魔たちに向けて矢を乱射した


「カナミ殿! 支援感謝する! 全員突撃!」


トーマスさんの号令とともに、小隊が一斉に前へと駆け出す。弓兵と魔法兵も後方から援護を開始し、わたしも突撃部隊を支えるべく、セキネ先生が転送してくれる座標に向かって矢を放ち続けた。敵を順調に射抜いていたそのとき、ふいにセキネ先生の手が離れる。


「カナミ君、まずいです。後方に強力な悪魔・・・おそらくアークロードかジェネラルのどちらかが、こちらに近づいてきます」

「まさか、ナミリかベルトウィンさんが負けたの?!」

「いえ、おそらくその二体とは別の個体かと」


「どちらにしても先手必勝!『シャーラガ』」

与一の弓とラーマ様の力を合わた矢を放ち、アークジェネラルに撃ちこむ。三射中、二射命中! ダメージは・・・、軽微といったところかな。やっぱり矢では急所を確実に撃ち抜かないとアークジェネラル級は堕とせない。


「もう少しアークジェネラルに近づかないと急所を狙えない! 誰か支援お願い!」

「カナミちゃん!まかせな!」


そう言ってマクセンさんが前衛に踊り出る。斧を持つアークジェネラルに対し、マクセンさんが大刀を振り下ろす。受け止めるアークジェネラル、その横っ腹に隙が見えた。一射撃ちこむ。矢が確実にわき腹を打ち抜くが、さほどダメージは入っていないだろう。それなら、乱射!


命中率を落としながらも三射一気に矢を放つ。それを三秒に一度のペースで打ち続ける。

さらに真空の刃がアークジェネラルを襲う。


「私もいいところを見せておかないといけませんね」

サミュエルさんの風魔法だ。真空による刃は、魔力攻撃に強い悪魔に対しても有効で、剣撃と同じ効果がある。


前衛でマクセンさんがアークジェネラルの気を引き、サミュエルさんとわたしの弓で遠隔攻撃を続ける。


その背後、丘の上で火柱が上がる。コラントさん、ミレーユさんがトーマスさんの小隊と共に丘の上へと攻勢をかけている。その動きに気付いた北西正規軍もこちらに向かってなだれ落ちてきた。この時点で救助作戦はほぼ成功だ。あとは、アークジェネラルを堕とし、退却するのみ。


「カナミ殿、追い風を起こします。アークジェネラルの眉間を打ち抜いてください!」

サミュエルさんの風魔法が、アークジェネラルに対して吹き荒れる。だが、その風は巻くことなく一直線にアークジェネラルに向かっていた。


渾身の矢を放つ。圧倒的な速度は、破壊力を生み、アークジェネラルの眉間を打ち抜いた。


「サミュエルさん! 要求通りの結果だよ!」

「さすがはカナミ殿。剣聖が一目置く弓使いですね」


北西正規軍が雪崩を打って丘を駆け下りている。合流成功だ。丘を包囲していた悪魔がこちらへの攻撃を始める前に、引き上げよう。


ナミリは無事だろうか。サラスさんは大丈夫かな・・・。


丘の上に布陣していた北西正規軍は、兵力を十分の一にまで減らしながらも壊滅を免れ、軍団長ミランダ・ホルフィーナは無事であった。その名が示す通り、彼女は王族の血を引く人物であり、現ホルフィーナ王の姪にあたるという。


「救援、感謝する。アークロードの魔力の雨で兵力を削られたうえに、アークジェネラルの猛攻・・・。恥ずかしながら、持ちこたえることができなかった」


「ミランダ様、勝敗は兵家の常です。それより、現在そのアークロードと若者たちが対峙しています。一刻も早く、救援に向かわねばなりません」


「なに? あのアークロードと交戦中だと?! 三千の軍ですら翻弄されたというのに・・・。それを何人で抑えているのだ?」


「・・・今は、実質3名ですね」


サミュエルさんから話を聞き、ミランダ様が呆然としている。

確かに、ナミリの防御結界がなければ、アークロードとは、戦闘にすらならなかっただろう。


それにしても、ミランダ様・・・。軍団長という肩書から、もっといかつい軍人を想像していたけれど、実際はまるで違った。長い赤髪に整った目鼻立ち、筋肉質ながらもスラリとした体型——日本にいれば、モデルとして活躍できそうなくらいだ。


エレンさんも卓越した剣士だし、この世界では、日本よりもずっと女性が活躍しているのかもしれない。


そんなことを考えながら、わたしたちは、ナミリやエレンさん、傷を負ったサラスさんと、その妹を守るユミルさんを救うべく、南東方向へと取って返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ