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世界遺産は異世界に  作者: 石太郎
第1章 ナミリの旅立ち
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【011】オーク討伐隊

 無事に商品を交易所へ卸し、ウッドウィンの宿へと戻ってきた。食料品の相場が高騰しており、想定以上の利益を得られたのは嬉しい誤算だった。なんでも、エムセブルグの西に延びる交易路にモンスターの群れが出没し、通行が危険になっているらしい。その影響で、エムセブルグのさらに西にある街、王都の南に位置する港町サウスポートとの交易が完全に途絶してしまったというのだ。


「解析の調子はどうですか?」


セキネ先生は、宿の一階の広間で紅茶を飲みながら地図をにらんでいる。


「ガネーシャ様の力をいただいたのですが、遺跡の位置は分かりませんね。この付近には遺跡は無いのかもしれません」


昨日、食事をしながら聞いた話では、これまでもある程度、遺跡の位置を把握できたそうだ。アンコールワットでさらに力を授かったことで、次は簡単に遺跡が見つかると期待していたが、どうもうまくいかないようだ。


「おれは、いったん村に帰って、村の皆に今回の売り上げを渡さないといけないんですけど、二人はどうするんですか?」


ヒンドゥー教の三大神から力を授かった(一部押し付けられた)おれとしては、悪しき者の駆除というお役目を全うしなければならないだろう。それに遺跡を巡って新たな力をもらわないと、あちら側の世界、大阪のおれには事故の後遺症が残るかもしれない。だからと言って、村の皆から預かった商品の売り上げを届けないわけにもいかない。


「そうですね。遺跡も見つからないですし、その西のモンスターとやらを駆除しに行くのはどうでしょう」


「そんなこと言ったって、セキネ先生、全然戦わないよね。全部、私任せ」


おれ達の中では、戦闘要員はカナミ一人だ。アイテムボックス以外のおれの力は、まだ未検証だ。


「その代わり、敵の位置を解析して座標を教えているのは私ですよ。敵から目の届かない位置で先手を取れれば、圧倒的優位で戦闘を進めることができますからね。


現代戦の基本です。相手に見つかる前に、先に相手を補足して殲滅する。私たちが組めば、こちらの世界でのロングレンジ攻撃を展開できますからね」


見えない敵からの一方的な攻撃。確かに現代の第五世代戦闘機と第三世代戦闘機の空中戦のように勝敗は明らかな戦いだな。いや、セキネ先生は1997年の人だからもっと昔の航空戦を思い浮かべているのかもしれない。


「しかも、ラーマ様の力で射程・威力ともにこれまでの比ではないですからね。試したいと思いませんか?」


セキネ先生、もしかして、新たに手に入れたラーマ様の力を見たいだけじゃ……。


「まぁ、神様たちとの約束もあるし、あっちの私の左手も早く回復させたいから神様の依頼はこなしておかないとダメかー」


「じゃあ、その狩りには付き合うよ。おれも何か役に立つかもしれないし」


ウッドウィンに何日か出かけてくると伝え、エムセブルグの西を目指すことにした。



 サウスポートとエムセブルグを結ぶ交易路を守るため、モンスターの群れを狩るべく、おれたちは西へ西へと歩を進める。


道沿いの森は、エムセルとエムセブルグの間に広がる深い森と違い、木々の密度が薄く、見通しははるかに良い。陽光が差し込み、開放的にすら感じられる。


だがそれは同時に、油断を誘う危うさでもあった。茂みや岩陰に身を潜めるには十分な環境であり、奇襲を仕掛けられれば一瞬で戦況が覆る。


「今の魔力だと、だいたい30kgくらいがアイテムボックスの収納上限ですね」


「それでも旅の食料や、野営具を持ち歩かなくて良くなるだけで旅がかなり楽になりますよ」


道すがら、三大神の力を利用したアイテムボックスについて話していた。


「ただこれが、地球側でアイテムを収めようと思うと十分の一くらいになっちゃうみたいなんですよね。サイズ的にもスーパーのMサイズの袋一つ分くらいかな」


「地球はこっちより利用できる魔力量が少ないみたいだね。特に都会はほとんど魔力がないから」


なるほど、自然の力から魔力を汲み出して利用しているわけだから、森や山に比べて自然の少ない大阪の中心地では、どうしても魔力が落ちるのか。日本から便利なアイテムを持ち込むにしても、場所によって使い勝手が変わるだろうし、慎重に選ばないとダメだな。


そんなことを考えながら歩を進めていくと、やがて視界が開けた。木々が少なく開けた場所に、二十名ほどの兵士たちが集まっている。装備は整っており、鍛錬を積んだ正規兵に見える。


その兵士の列から、一際立派な鎧をまとった騎士が前に進み出る。おそらく、この兵団の長にあたる人物だろう。


「私は、ゴードウィン・エムセブルグ。旅の商人たちよ。この先には、二足歩行の豚どもが、道行く民を襲い、甚大な被害が出ている。我々がやつらを駆逐し、この交易路の安全を取り戻すから、いったん街に引き返して待っていてくれないだろうか」


ゴードウィン・エムセブルグ。エムセブルグの街を統治する男爵だな。おれ達より先に、討伐隊が編成されていたのか。


「その二足歩行の……豚ですか? それを駆除するために来ました!」


あー、相変わらずストレートだね。この子は。セキネ先生は……あれっ、ニヤついている。てっきり、カナミを制してくれると思ったのだが。


「豚を駆除だと。見たところ、見事な弓を携えているようだが、その弓は扱えるのかな?お嬢さん」


世間知らずの弓使いの女の子、ゴードウィン男爵のカナミへの見立てはその程度のものだろう。


「見てみたいなら、見せてあげますよ」


カナミが爪楊枝を一本取り出し、指先に魔力を込める。瞬く間にそれは魔導の矢へと姿を変え、弓につがえられた。さらに左手にも魔力を流し込み、弓も弦も矢も、すべてが眩い光に包まれる。


次の瞬間、放たれた矢が空気を裂き、暴風が駆け抜けるような轟音が響き渡る。数秒後、はるか彼方の岩に直撃した矢は、凄まじい衝撃と共に岩塊を粉砕し、破片を四方へと散らした。


ゴードウィン男爵様、まさに開いた口が塞がらないって顔してますよ。他の兵士達も「今のは何だ」とざわついている。


「今度は命中~♪」


どうやら、今回は岩を狙って、岩を砕いたらしい。ラーマ様の力を使って矢を放つのは、これで二射目なはずだが、的確に命中させる技量は、さすがといったところか。


「魔導技師の力と、魔導士の力を瞬時に使い分け、魔導具を生成しながら、魔導の武器を使いこなしているのか?。それが事実なら、王国の高級魔導士にも引けを取らない力だが……」


簡単には信じられませんよね。おれもカナミと出会ったときに、大型モンスターの眉間を打ち抜いた矢の威力には驚愕したもんな。


「ゴードウィン男爵様、私はセキネと申します。もしよろしければ、我々も討伐隊に加えていだけると幸いです」


「そなたらのことは、追々聞くとして、戦力が増えるのはこちらとしても大歓迎だ。こちらからもよろしく頼む」


 こうしておれ達は、男爵の隊列に加わったわけだが、ゴードウィン男爵に対して、先生とカナミは、王都から地理調査の依頼を受けて旅をしていると話していた。実際に冒険者ギルド登録証を所持しており、地理学者とハンターで登録しているようだ。


ホルフィーナ王国では、よくあるSランクとかAランクといった冒険者ランクは無く、依頼の達成や依頼外でも何らかの功績が認められれば、登録証にポイントが加算され、ポイントが高いほど困難度の依頼を受注できる仕組みだ。


また、多大な功績を上げた者は、上級職や最上級職に認定されたりもする。地理学者とハンターは一般職だ。


ちなみにおれは、商人ギルド登録証を所持しており、食品商で登録している。こちらは交易による売り上げがポイントとなり、ポイントが多くなると関税の割引や、国の取引制限品の取り扱いを認められたりする。上級職や最上級職が存在するのは、冒険者ギルド登録証の仕組みと同じだ。


「ゴードウィン男爵様、この先の少し開けた場所に、オークが群れをなしているようです」


セキネ先生が、オークの群れの発見をゴードウィン男爵に報告する。


「なに、この位置から分かるのか?」

「はい。私は『解析』の力を扱うことができますので、敵を早期に捕捉することができます」

「数は分かるか?」

「およそ、四十ほどかと」

「その数なら一気に襲い掛かり、奇襲すれば十分殲滅できるな。カナミ!後方支援をよろしく頼むぞ!」


ゴードウィン男爵率いる兵団が、オークの群れに向かって猛然と駆け始めた。


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