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第一話 人たらし

性的な言葉が出てきます。ご注意ください

 「ふざけるなよ!もういい!お前とは絶好だ!」

そう言い放たれ、先ほどまで彼氏だった者が家から出て行った瞬間、クリスマスの日に独り身という称号をプレゼントされた那月瞳は大きなため息をつく。

「なんであの人も浮気してたのを許したのに、私がちょっと浮かれただけであんなに言われなきゃいけないんだろうねぇ…」

そう呟きながら、座っていた床から静かに立ち上がり、雪の降る夜の東京へと行く準備をする。彼を気遣い、彼を尊敬し、彼を愛していた瞳は、早々と着替え、家の電気を消し、ドアを開けた。

「行ってきます」

そう言った彼女の瞳にはなんの光も灯っていなかった。



カランカラン

「いらっしゃい。あれ?今日は1人なんだねぇ。瞳ちゃん」

「うん。彼氏と別れちゃった」

「またかい?今回は長続きしそうだと思ったんだがねぇ」

そう微笑みながら瞳に話しかけている人はここ、『BAR Nightmare 』の店長である柄山荘次郎である。渋い名前ではあるが、その名前に似つかずよく笑う良い人である。そして、いつも瞳の愚痴と涙を拾ってくれる、ある意味家族に近しい人物である。

「そうだね。私もそう思ってたよ。でも続かなかった。あの人のために綺麗して、お化粧して、お金かけて、あいつの言うことなんでも聞いた。セックスしよって言われても拒否しなかった。対して気持ちよくなかったのに。私、やっぱり恋愛向いてないね」

荘次郎はそれを聞きながら可笑しそうに笑い、一言アドバイスをする。

「みんな君の良いところに気付いてないだけだよ。君はスタイルが良くて顔も良い。だけどそれだけじゃない。愛想も良いし、何より他人を否定しないじゃないか。そこに気づけないんだよ。人ってのは見た目からでしか情報を得ようとしないからね」

それを聞いた瞳の口が緩んだ。このおじさまの褒め方は本当に上手で、自然にニヤけてしまうほどである。このおじさまのお褒めを食らった者はニヤけずにはいられないだろう。

「ありがとう。でも…」

瞳が言いかけたところで店の前で大声が聞こえた。聞いている感じ痴話喧嘩のようだ。

「クリスマスって破局するカップル多いのかな?」

「さぁ?少なくとも私はそのようなことは聞いたことはないけどね。あ、瞳ちゃん。何か飲む?」

「じゃあハイボール。ロックで」

瞳が注文した頃には外の喧嘩は止んでいた。すると、

カランカラン

男がBARに入ってきた。男は顔立ちもスタイルも良く、愛想も良さそうだが酷い焦燥感が漂っている。男は瞳の左隣に座ると、そのまま机に突っ伏してしまった。

「いらっしゃい。あ、もしかしてまた彼女と別れたのかい?」

瞳は思わず男の方を見る。男はマスターに向けて顔を上げ、話し始める。

「良くわかるね。マスター。まただよ。こちとらあいつのためにバカ高い食事代払って、ネックレスとか買って、頼まれたことはなんでもしてやった。セックスさせろって言われた時は流石に引いたけど、男ってバカだよな。ちょっと誘惑されるだけで言いなりになっちまうんだ。ダッセぇよなぁ…」

そう言った後、また男は机に突っ伏す。

「君たちさぁ、セックスセックス言わないでよ。いくらBARとはいえ下ネタの言い過ぎは注意だよ」

男はまた顔を上げ、不思議そうな顔でマスターに問う。

「マスター。俺そんなに言ってないよ」

「君だけじゃないでしょ。お客さん。話聞いてみなよ」

それを聞いた男はこちらを見る。瞳はそっとマスターを睨んだが、マスターは平気そうな顔で瞳の前にハイボールのロックを差し出す。

「何か、あったんすか?」

そう聞かれた瞳は静かにため息を吐き、男の方に向きちょっと睨みながら答える。

「彼氏と別れたの。今まで私はそいつの言うことはなんでも聞いてきたの。もちろんセッ…ウッウンッ。あの、えと、そういう行為とか。全部。なのに裏切られたの。っていう話をさっきマスターにしてたの。ok?」

それを聞いた男は、哀れみと共感の表情で頷く。

「すっげぇ。なんか、俺ら同じ経験してきたんだな」

「そうね。違うのは性別だけって感じね。なんか仲良くなれそうだけど、しばらく恋愛はいいや」

「じゃあ友達でどうです?」

それを聞いた瞳はビックリした。何故なら、今までの男は無理にでも恋愛に発展させようとしてきたからだ。例えば、「そんなこと言わずにさぁ。ホテル代出すよ?」や、「でも君は綺麗だよ」だとか。そんな時に友達になろうは瞳に衝撃を与えたのである。

「わお。そんなこと言ってくる人初めてだ。まぁいいよ。ちょうど恋愛に嫌気がさしてきたところだったし。友達としてなら、よろしく」

「おう。友達としてな。生憎、こっちも恋愛には嫌気がさしてたところだ。連絡先交換していい?」

「言い方よ」


そうして瞳はBARで出会った名も知らない男と友達になったのである。その時の瞳には、光がほんの少しではあるが、光が灯っていた。

またシリーズもの増やしてどうすると言われたって関係ない。描きたいもの描くだけだもん。

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