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第18話 元勇者のおっさんは奴隷商会に突撃するそうです

 ライオネットアイ商会の本部支部を含めた全面調査。それに伴い参加者は四人一組のパーティーに分けられた。

 そして各パーティーは客や業者を装い馬車に乗って各々が任せられた場所へと向かっていた。


『いい? ノルバとエルノは既に顔が割れてる。だから私の後ろを三人はついてきて。いい? 合図を出すまでは待機よ』


 通信魔法を使いエルノは作戦を振り返る。

 念には念を。何重にも阻害魔法を重ねた上での通信魔法で声を出す事なく会話をこなす。


『疑っている訳ではありませんが、我々だけで大丈夫なのですか』


 外で馬を操作するリッカが聞く。


『大丈夫よ。アナタは分かってるでしょ。このパーティーが一番強いって事』

『まぁ、はい』


 このパーティーのメンバーはノルバ、リッカ、アーリシア、エルノだ。

 考え抜かれた最も適したメンツである事はリッカ自身も分かっている。

 しかし拭いきれぬ不安があった。


『魔王はそこにいるのでしょうか』

『分からない。けど首輪の製造が地下で行われている事は分かっている。魔族の力が必要な以上、どちらかはいる筈よ』


 あまりにもさらっと答えるアーリシアにリッカは関心を覚える。

 恐怖がない筈がない。それどころか最も近い距離で魔王の真髄を体験している。それなのに怯えを感じさせぬ佇まい。

 それは勇者も同じ。落ち着いて目を瞑る様子とは裏腹に研ぎ澄まされ続けている神経には話し掛ければ死が訪れる程の圧を感じる。


『後少しです』


 街には他のパーティーも来ている。

 第一陣がノルバ達のパーティー。第一陣の後に二陣三陣も突入。残りのパーティーは地上の警戒にあたる手筈となっているのだ。

 馬車が歩みを止める。


「着いたか」


 ゆっくりとノルバの目が開かれる。

 そこには世間知らずな冒険者も子供の様なダンジョン攻略者もいない。かつて(くすぶ)っていた男は殺意を鞘に隠し馬車を降りる。

 彼らの調査する場所は最も危険だと判断されたライオネットアイ商会本部。かつてフューを引き取る手続きをした場所だ。

 地理は以前から奴隷制に反対していたアーリシアの指示でエルノが調べており完全に把握している。少数であってもネズミ一匹とて街の外に逃がしはしない。

 アーリシアが呼び鈴を鳴らすとシーが姿を現す。


「おやおや大所帯で。いらっしゃいませ。今宵はどういったご用件でございましょうか」


 以前とは違う明るい声色での出迎えだ。

 ノルバとエルノに気付かず、ただの客であると思い込んでいる。


「闘技場を開こうと思っててね。質の良い奴隷を見繕いに来たの」

「左様でございますか! それは是非とも私目の商品からご購入下さいませ。上等な商品を仕入れておりますのでささ中へどうぞ」


 一歩入ると思い出される。ここがどんな場所であったかを。

 変わらず漂う鼻を刺す獣臭。憎悪をたぎらせる狭い檻に入れ込まれた奴隷の数々。

 握り締めそうになる拳を何とか抑え、ノルバは素性を隠す為に巻いた布で更に顔を隠す。

 アーリシアだって同じ気持ちの筈だ。だがその顔には一切の感情はない。貼り付けた偽の表情で相手を偽っている。


「こちらなんてどうでしょう。捕獲する為に数十人が犠牲になった獣人です」

「いいわね。ガタイも良いし長続きしそう。けどねぇ……」

「ではこちらは……―――」


 本当に奴隷を購入しに来たのではと錯覚してしまう手腕。アーリシアは時間をかけてしっかりと奴隷を品定めしていく。


「こちらならどうでしょう。エルフです。魔王軍により数を減らして今や絶滅危惧種。戦いには向きませんが客引きには充分過ぎるかと」


 さすがの長丁場にシーにも疲労の色が見え始める。

 だがまだアーリシアは合図を出さない。


「いい加減にしてくれないかしら。闘技場は私の一大事業なの。こんな安っぽい亜人ばっかり見せてないでもっと凄いの見せなさいよ」

「と、言いますと?」


 アーリシアの言葉でシーの雰囲気が変わる。

 それまでの穏やかな態度から一変。冷徹な視線が彼女に向けられる。

 ここでボロを出せば全てが台無しになる。

 皆が固唾を呑んで見守る。


「竜人いるんでしょ?」

「何処でそれを?」

「それは教えられないわよ。こっちにだって秘密はあるもの。ねぇ?」


 沈黙が訪れる。長く、あまりにも長く息をする暇も与えられない緊迫した沈黙。

 そんな沈黙はシーの笑いによって破られる。


「ふ……ふふふふふ。面白い。近頃は新鮮なお客様が多くて私、感激しております」

「あら、ありがとう」

「本来はVIPの方しかお連れはしませんがいいでしょう。アナタならお連れする価値がある」


 シーは臨時閉店の看板を出した店の扉を閉めると、店内の床石の一つをリズム良く叩く。それからペタペタと何か探す様子を見せると、床石が沈んで階段が現れる。


「皆様どうぞこちらへ」


 階段を下りるシーの後にノルバ達がついて下りると果てしない距離が続いていた。

 光の一つも見えない暗い階段を何十分と下り続けると漸く彼は歩みを止める。


「只今より入りますはVIPルーム。皆々様のお気に召す商品がきっとある事でしょう」


 扉が開かれると黄金の光が目に刺さる。

 明暗の差で白む視界が色彩を取り戻すと、そこには上とは全く異なる景色が映し出された。


「す……ッ」


 思わず声を出しそうになったエルノはすぐに手で口を塞ぐ。

 バレていない。

 安堵の息を漏らすエルノだが、ノルバやリッカも気持ちが分からない訳ではなかった。

 褒め称える気はない。依然として怒りはある。

 だがそれ以上に目の前の景色が度を超えていた。

 奴隷が檻に囚われているのは変わらないが一つ一つがライトアップされ宝石で装飾され、黄金の通路と共に行き着く先が見えない程に広く敷き詰められている。


「どうです? 希少亜人の数々。竜人さえも見劣りするレベルの亜人もございます」

「そう。じゃあちょっと見て回るから店主さんも来てくださる?」

「えぇ、勿論」

「アナタ達も迷子にならないようについて来なさい」


 希少種族の竜人は勿論の事、その他大勢の人前に現れる事のない異種族が展示されている。

 どれくらい歩いただろうか。アーリシアはそれまでの商品を見る為ではなく、不意に歩みを止める。


「どうしました?」

「ここなら安全ね」

「へ?」


 周囲に奴隷の姿はなく更なる地下空洞に繋がる道のある場所。

 アーリシアがハンドサインを出した瞬間、足元が崩落する。


「な、何が!?」


 状況の掴めないシーを置いて全員が武器を取る。


「ノルバ行きなさい」

「あぁ任せろ」


 下の通路に着地したノルバは瞬く間に道を駆け下りていく。


「ま、まさか……。キサマらぁ!」

「今更気付いたって遅いわよ」


 アーリシアは拘束魔法でシーを捕縛する。


「侵入者だぁ! 殺せぇ!」

「うるっさい!」


 口も塞ぐと彼女達もノルバの後を追う。

 目指すは最奥。奴隷の首輪の製造工場だ。

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