第11話 元勇者のおっさんはダンジョンに挑むようです
【ダンジョン】それは神話の時代に造られたと考えられている遺物。
誰が何の為に生み出したのかは誰にも分からない。しかしそこには夢がある。
ダンジョンには金銀財宝が眠り、攻略した者には富と名誉、そして圧倒的な武がもたらされると言われている。
いつ何処に現れるかは不明。ダンジョンはある日突然、それまでもそこに存在していたかの様に姿を現す。
そしてそれは今、目の前にある。
「大がかりだな」
ダンジョン前に立てられ仮設テントの前でノルバは独り言を溢す。
「魔王が討伐されてからはダンジョンが一攫千金のチャンスになったもの。命知らずが増えたのよ」
ノルバの独り言に反応するアーリシアは呆れた様子でその人だかりを見ている。
王国兵から冒険者まで役職関係なく行き交っている。
かつてのダンジョンは魔王や魔族に対抗するための手段を手に入れる場所だった。
しかし今は一攫千金を夢見る輩のユートピアとなってしまっている。
勿論、ダンジョン攻略は生易しいものではない。命の危険が伴う。
だがそれでも、自身の命を天秤に掛けてでも挑む価値が未だに存在しているのだ。
それにダンジョンには誰でも挑戦出来る訳ではない。
細かな取り決めの中で限られた者だけが挑む事を許される。ノルバもその内の一人だ。
基本的に冒険者がダンジョンに挑む手段は二つ。
一つはクエストを受ける事だ。適正ランクに至っていれば誰でもチャレンジする事が出来る。だが参加するにはゴールド3が最低レベル。故にノルバのような新人は参加する権利すら与えられない。
二つ目はダンジョン所有者からの推薦。これは基本的に国からの推薦が多い。
というのも、ダンジョンは出現した土地の持ち主に所有権があるのだが、中から魔物が出てくる事も多い。その為、各国は持ち主に国で管理する代わりに所有権を渡してほしいと交渉する。そうして国の管理下に置かれたダンジョンを攻略する為、国側から実力のある者に声を掛けてダンジョン攻略に参加してもらうのだ。
ノルバが推薦されたのはキマイラを討ち取った実力から。というのが建前となっている。
「アンタも頑張りなさいよ。王様からの推薦なんだから」
「は?」
「知らなかったの? アンタの事、推薦したのリーヴェル国王陛下よ」
「お節介焼きめ」
おおかたノルバ・スタークスという人物を皆に認知させようという魂胆なのだろうが、皆が憧れているのは勇者ノルバでありノルバ・スタークスではない。それに元々目立つのは好きではない。
穏やかに過ごさせてほしいものだとノルバは息を洩らした。
そしてそのまま想いを胸に抱く人々を眺めていると二人の女性が寄ってくる。
「本日はよろしくお願いします」
「よろしく頼む」
その二人はエルノとシャナだ。
ノルバも挨拶を返すと一つ疑問をぶつける。
「シャナはともかくエルノも参加するんだな」
「はい。ダンジョン内部の調査も私達王立研究所の勤めですから」
「大変だな」
国の為、民の為、危険と承知でダンジョンに行く。
集まっている冒険者と王国兵で顔付きが違うのも納得だ。
そうこうしていると突入準備が整ったのか召集がかかる。
ノルバが移動しようとする。すると何故かアーリシアは踵を返し反対方向へと歩き始める。
「アルどこ行くんだよ」
思わずノルバは呼び止めるが予想だにしない返事が返ってくる。
「私行かないわよ?」
さも当然だと言わんばかりの発言にノルバは思わず「ハァ?」と大きな声が出る。
「攻略品を受け取る手続きをしに来ただけだもの。頑張りなさいよ」
しかしアーリシアにはどこ吹く風。軽く手を挙げて去っていく。
「んだよアイツ」
愚痴を溢しつつも、そんな奴だったと気を取り直してノルバは移動した。
そして全員が集まると今回の指揮を任されている王国兵がダンジョンについての説明をし始める。
「我々は今回の目標はダンジョン攻略である。これまで行った四度の調査によりダンジョン内部の構造は把握出来た。まず第一階層だが……―――」
話に合わせて他の王国兵が事前に書き記した巨大な用紙を広げる。
ノルバが参加するまでに行われてた内部調査。その結果、今回のダンジョンは四つの階層で区切られている事が判明した。
説明を聞く限りではそこまで難易度の高いダンジョンではない。だが、だからといって油断は出来ない。
まだ発見されていない要素が出てくる可能性もあるし、そもそも少しの気の緩みが死に直結する。それがダンジョンというものだ。
「―――……以上がダンジョンの構造である。次に攻略メンバーについてだが、こちらで決めさせてもらった。勿論、固定のパーティーもある事は把握している為、考慮した上での決定をしてある」
そうしてパーティーが読み上げられていく。
冒険者のみや王国兵だけのパーティーが多い中、後半になると混ざったパーティーが発表されていく。
「―――……以上で一度解散とする。ダンジョン突入は十分後。各自準備を怠らぬように。解散!」
話が終わると各々が発表されたパーティーで集まっていく。
ノルバもまた例外に漏れず、言われたメンバーの元へ来ていた。
「まさかお前らと手を組むとはな」
「よろしくお願いしますね」
「共に頑張ろう」
エルノにシャナ。実力は未知数だが短い付き合いでも猛者だと知っている。充分すぎる戦力だ。
そして後一人。
ノルバは睨み付け、明らかな敵意を放っているメンバーにも声を掛ける。
「よろしくな。リッカ・トンチンカン」
「リッカ・アルトカントだ! わざとだろうキサマ!」
王宮で戦った以来。既に傷は癒えた様子で元気はつらつと言ったところだ。
しかしまぁ、最後の印象が最悪だった事もあり敵意を隠そうともしていない。
「悪かったって。謝るけどよ、あれはお前も悪いんだぜ?」
「黙れ。私はキサマを認めはしない。キサマが勇―――」
勇者。リッカがそう口にしかけるとノルバは神速の勢いでリッカの口を塞ぎ離れた位置へと連れていく。
そして焦った様に小声で警告と言う名のお願いをする。
「いいか。ここでオレが勇者だったって事は言うんじゃねえ。オレは面倒は嫌いだ。いいか、余計な事を言うんじゃないぞ」
「私はキサマのように腐った性格はしていない」
「はいはいどうも」
いちいち毒を吐かないと返事が出来ないのかと思いつつもノルバは了承してくれた事もありそれ以上は何も言わなかった。
そして懐かしいとも言えない再開を楽しみつつも、遂にノルバ達がダンジョンに挑む時間がやってくた。
「さてと、どんな感じだろうな」
「説明を聞いていなかったのか」
「そういう事を言ってんじゃねぇよ」
リッカの反応に嫌気混じりにノルバは返す。
ノルバ達は第二陣。第一陣の突入から間を置いての突入となる。
これは全滅を防ぐ為の手段であり、大規模なダンジョン攻略では度々行われる突入方法だ。
「では第二陣突入せよ!」
初めは気乗りしなかったものの、いざ挑むとなると高鳴るものがある。
ノルバの冒険者としてのダンジョン攻略が今始まる。