26.歴史【4視点】
◆???◇
――この国には、悪魔の伝承がある。
古き時代、まだこの国が精皇国となる前の話。
エルフ族が大戦時代と呼ぶその時代に、彼らは魔族に対抗する兵器の製作を行った。
物理において圧倒的な力を誇り、魔法においてもエルフに引けを取らない魔族に対抗するために必要なもの。
――それは、防ぎようのない一撃必殺。
一瞬にして戦場をひっくり返すほどの、圧倒的な破壊力。
エルフ、そしてハイエルフ達はその兵器を生み出すために、あらゆるものを犠牲にした。
他種族はもちろん、知性のない魔族や、同族ですら。
そんな犠牲に犠牲を重ねて産まれたのが、アル・リバフと呼ばれる人工悪魔だった。
そうして男の姿をした悪魔は、エルフの期待通りの成果をあげた。
精霊の固有魔法を真似た特殊結界によりエルフの動きを制限し、防ぎようのない一撃にて敵を一掃した。
そうして何より、結界の中の様子は外からは視認できず、中に入った魔族は1人残らず死に至る。
つまり魔族は、その結界の中で何があったのか、全く検討もつかないのだ。
そうしてエルフは、一時の平穏を得た。
魔族との戦争でも、敵の大軍を誘導すれば、あとは悪魔が一掃してくれる。
そうして得られた領土から得た恵を民に分け与えることで、飢えにより困る者も少なくなった。
だが、力には対価がいる。
そうして悪魔が必要としたのは、大量の魂だった。
エルフ達はそれを掃討した魔族の魂で補っていたが、魔族もそこまで阿呆ではない。
人口悪魔を戦場に投入してから数ヶ月後、遂に魔族はエルフ族に戦争を仕掛けることがなくなった。
本来なら、喜ぶべきことだっただろう。
今まで領土を巡る争いを繰り広げてきた魔族が侵略をやめ、自国に留まるというのだから。
民もこの結果には満足していた。
領土もそこそこ広く、食料も行き届いている。
エルフ族は無事、魔族に勝ち平穏を勝ち取ったのだと。
――しかし、上層部は違った。
彼は知っている。
自分達が戦争に勝つために、とんでもない爆弾を抱えた事を。
飢えた悪魔の矛先が、どこに向かうかということも。
しかし、このことが民に知られれば、
――その結果、悪魔は暴走した。
生存本能が刺激された悪魔は、エルフの制御を振り切り、自国にてその力を振るい始めたのだ。
そうして1度、エルフ国は滅亡した。
結果的にその悪魔は、その惨状を見兼ねた精霊王によって封印されたと呼ばれているが、当時の精霊王にその力があったのか……。
◇◇◇◇◆◆◇◇◇◇◇
◆???◇
――ピリッ。
「「ッ――!?」」
それは、なんの予兆もない唐突な出来事だった。
世界樹の中心にて、私ですら肌がピリつくほどの魔力が一瞬だけ国内に電波したのだ。
「これは……。」
咄嗟にこの場にいる人族を見るも、それに気づいた様子はない。
しかし、今の魔力は間違いなく異常。
この世界にあっていいものではない。
私は咄嗟にキッチンにいるお姉様の元まで駆け寄った。
こんな話、人族の前でできるはずがない。
「…………お姉様。」
「……えぇ、結界の強化を」
そうして、お姉様が強度を強めようとした瞬間……。
――ゴォォォォォォッ!!
「な、なに!?」
「っ――!」
地を揺らす轟音が、店内に響き渡った。
幸いこの店内は結界のおかげで揺れていない。
しかし、外は建物が崩落し、外で気絶していたエルフ達がその崩落に巻き込まれそうになる。
「まずいッ――!」
「そこにいてください。」
咄嗟に店舗からそのエルフに駆け寄ろうとした人族を手で静止し、そのエルフの周囲に結界を張る。
そのエルフだけではなく、その国にいるエルフ全員に。
「っ――!!」
「これで満足ですか?」
今彼女がここを出れば、この店舗の存在があれにバレてしまう。
お母様の身体をのっとった奴は許せないことこの上ないが、今の私達にはあれを身体から剥離させるのは難しい。
だからこの場で、あれに私達の存在を諭されるわけにはいかない。
いかないのだけど……。
「あのゴキブリ、やっぱり処分しちゃった方がいいんじゃない?」
「まだですよ。今のままではお母様ごとやってしまいます。」
「そこは工夫だよ、工夫。」
そんな工夫があれば、とっくにやっている……。
と言うより、それができるなら他のお姉様方がとっくに痺れを切らして、この場に転移してきているだろう。
今それがないということは、現状その手段がないということ。
そう言い出したのは、他でもないお姉様なのだけど……。
「それより、この揺れですよ。」
「あぁ、人口悪魔ね。気味の悪いことこの上ないよ。」
「人口悪魔……ですか?」
下界の生命が、悪魔を作り出した?
……いや、そんなこと、なんの代償もなしにできるはずがない。
それに、仮にそれが叶ったとしても、数日で身体を保てずに消滅してしまうだろう。
「悪魔って言っても、正確にはキメラだよ。私達の知ってる悪魔とは別物だけど……ある意味それより厄介かな。」
◇◇◇◇◆◆◇◇◇◇◇
◆エレナ◇
揺れが、激しさを増していく。
まるで世界の終わりのように響く崩落音が、危機感を激しく掻き立てる。
「2人は市民の救助に迎えッ!!」
「え、エレナ様は!?」
「私はこのまま、世界樹へ向かうッ!!」
この魔力の発生源は、間違いなく世界樹だ。
嫌な汗が、頬を伝う。
私ですら知らない御伽噺。
だが、それがもし事実であったとしたら。
「――厄介なものを作ってくれたものだな。」
フォシュとロルダンには、どちらにしろここで離れてもらうつもりだった。
だからこそ、市民の救助というのはその理由として最もなものだろう。
――しかし、その瞬間国の至るところに無数の結界が現れた。
「結界!?」
「これほどの規模を……誰が……!?!?」
ルーがやった……わけないな。
奴はこの玩具の解放に、全魔力を費やしただろう。
だとすれば……これは……。
「……まぁいい、なら着いてこい。」
ここに置いて行っても、この2人ならどうせ跡をつけてくるだろう。
それなら、最初からそばにいたほうが安全だ。
だが問題は、こいつらを連れて間に合うかだが……。
――賭けだな。
そうして、私達は駆けた。
この騒動を引き起こしている、元凶の元へ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆ヴェジクト◇
なんだ?この魔力は……。
世界樹からか?
「よそ見してんじゃねぇぞッ!!」
「ふんっ!」
女の大剣をたたき落としつつ、意識を世界樹へと集中させる。
どうやらこの建物の崩壊も、この揺れによるもののようだ。
最初は戦いの余波かと思ってたが……違ったようだな。
「ふむ……お前ら、何か知らないか?」
「ふん、気してられっかよッ!!」
「そうね……。」
聞くだけ無駄か。
なら、直接見に行くしかないな。
こいつらより、あれの方が脅威のようだしな。
「私達を置いてこうなんて……思ってないわよ……ねッ!!」
その瞬間、強烈な打撃が脳を揺らした。
一瞬意識が飛び、それが戻った瞬間何かに身体が激突する。
――ドガァァァンッ!!
「っ――!?」
殴られた?
この……私が?
「やっぱり、脳への攻撃は効くようね。」
「ちょ、あれメラルダちゃんの身体ですよ!?」
「問題ねぇ、破裂しなけりゃどうにでもなる。」
クソ……雑魚どもがぁッ!!
…………だが、こいつらを無視して転移するのは無理があるか。
そうして周囲を見渡すと、いつの間にか用意していた人形達は全滅していた。
私とあの緑髪の女が戦っている間に、他の者が処理したのだろう。
流石、隊長というべきか……。
「まさかここで本気をだす羽目になるとはな……。」
そうして、この身体のギアを1段階解放する。
その瞬間、魔力が膨れ上がり、魔力が数倍に上がっているのを感じた。
「おぉ……。すごいな……。」
意図してこれほどの魔力を抑えていたのか。
なんという才能……。
だがそれも全て、今は私のもの!
「さぁ、殲滅の時間だ。」




