25.邪【2視点】
◆ノーラ◇
もうすぐ……もうす
――ゴォォォオンッッッ!!!
「「「ッ…………!?」」」
その瞬間突如出現したのは、巨大な魔の柱。
周囲の建物を巻き込んで膨れ上がるそれは、見ていた全ての生物を畏怖させるほどのものだった。
「あそこ……メラルダちゃんがいた場所よねッ!?」
「っ…………!!ロルダン、あれを退けろッ……!!」
「言われなくともッ……!!」
その瞬間、彼女の拳に精霊の力が集結する。
拳が淡く輝き、光を増すその姿は、まるで精霊を拳に纏っているよう。
そうして彼女は、それを素早く引き――。
「――《精霊の精拳》ッ……!!!」
そうして彼女から放たれたそれは、竜巻のような巨大な渦となって、柱へと激突した。
――ゴォォンッ!!
「うっそ……。」
「ありえない……。」
ロルダンさんの渾身の一撃。
しかし、それでもってさえ、その柱には穴1つ開けることが出来なかった。
「チッ……!!たかが魔力だけでこれかよ……!!」
ティアの魔法なら、もしかしたらこの柱を退けられるかもしれない。
でも、ロルダンさんの攻撃と違い、ティアが本気を出せば加減が効かない。
そうなれば、m民を巻き込みかねない。
「――ほぅ……。凄いな、この身体は。」
「「「ッ…………!?」」」
その瞬間、そんな場にそぐわない興奮した声とともに、突然柱が晴れた。
まるで何もなかったかのように突如消えたそれは、暗い光の粒となって地面へ落ちる。
「何よ……それ……。」
そうして柱から現れたのはあの勇者――――――ではなく、見覚えのある1人の女性。
しかし、私の知る彼女はそもそも大人ではない。
「……………冗談キツイぜ……。」
漆黒の長髪を靡かせながら、悠々と空に立つ1人の女。
その姿は団長のように大人びており、まるで闇の精霊のよう。
しかし、その容姿にはメラルダちゃんの面影があった。
「メラルダち――」
「避けろッ!!」
その瞬間、彼女の手から何かが飛来した。
団長の魔法にすら迫るほどの速度でこちらに迫る何か。
「「ッ……!!」」
全力でその場を飛び退くと、それは私達がいた場所に突き刺さり――。
――ドガァァァンッ!!
――爆発した。
その場には大きなクレータ―が生まれ、周囲の雑草は熱で焼け焦げている。
それだけでなく、彼女の魔法は地を貫くかのように今も尚突き刺さっている。
「《炎の槍》?」
「バカか……っ!?魔法なら消滅するだろがッ!!」
「なら、これは一体……。」
ロルダンさんさえ見たことのない魔法。
それを彼女は、平然と撃って見せた。
息一つ、乱すことなく。
「クソォッ!!」
「ティアッ!!」
大剣を構え、ティアが地を駆ける。
そうして複雑な古代魔法を練り上げ、身体へと馴染ませる。
彼女の身体が紫に輝き、彼女の魔力が倍へと増す。
これこそ、彼女の得意魔法《倍化特攻》。
身体能力のうちの1つを極限まで低下させる変わりに、能力の1つを倍以上に上昇させる使い手を選ぶ魔法。
「らぁぁぁぁッ!!!」
――ドガァーンッ!!
その一撃は、流石の彼女も防げないと判断したのだろう。
しかし、彼女が張った結界すらティアの攻撃は貫通し、彼女を地面へと叩き付けた。
轟音とともに、何かが潰れたかのような音が微かに聞こえた。
本来、これはSランクの魔物相手に使う一撃必殺の技。
間違っても、子供相手に使うものではない。
「――痛ってぇな。」
「「「ッ――――?!?!?!?」
しかし、それを受けてさえ彼女には目立った外傷がなかった。
あの音がまるで幻聴だったかのように、彼女はそう言いつつも平然と立ち上がる。
「嘘……。」
「魔獣でも、もうちょい食らうわよ……?」
「クソッ……!!」
正直、死なないまでも重症になることは覚悟していた。
それでも私達が止めらなかったのは、この国にはエレナ様がいらっしゃるからだ。
あの方なら、どんな怪我でも直せる。
そんな確信があったから、私達は黙認したのだ。
なのにまさか、傷すら負ってないなんて…。
「次は、こっちの番だな。」
――パチン!
彼女が指を鳴らした瞬間、地面から無数の何かが生えてきた。
どす黒い木のように地から生えた根は、やがて花となり、そうして人の形をした何かとなる。
その何かに共通して言えるのは、どれも女性のような姿をしているということ。
――そうして、あのスライムより何倍も強いということ。
「っ――!!皆さんの避難をッ!!」
「ダメね。勇者の洗脳が解けたのはいいけど、完全に気を失ってるわ!」
言われて初めて周りを見ると、洗脳されていた人々は完全に意識を失い、地に横たわっていた。
恐らく、勇者に取り憑いていた何かがメラルダちゃんへと移動した影響で、洗脳の効果が解けたのだろう。
また彼らに作用するかは……分からないけど。
「さぁ……ショータイムだ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆エレナ◇
――ガンッ!!
「なっ――!?」
その瞬間、転移が強制途絶された。
まるで何かに阻まれたかのように、唐突に。
「ここは……。」
「目的にではありませんね。どうかされましたか?」
まさか……有り得ない。
仮にメラルダの身体を手に入れたとしても、これがそう簡単に出来るとは思いない。
だが、あの勇者もこれほどの高等魔法を扱うことは不可能だろう。
その瞬間、ふと過ったのは最悪の予想。
しかし、それはないと頭を軽く振った瞬間――――それは、現実となった。
「――魔法中断。相手の魔法に介入し、強制的に止める魔法…………なんちゃって!」
「「ッ――!?」」
その瞬間、ふと背後からそんな声が聞こえた。
場にそぐはない、軽い口調。
そうしてそれと同時に現れたのは、不気味な気配を持つ1人の少年。
その声に2人は咄嗟に距離を取り、その相手を見据えて表情を驚愕に染めた。
「る、ルー!?」
「…………何故!?」
エルフ、それもロルダンとティアに関しては、あの時代の暗殺者ギルドとも剣を交えている。
だからこそ、そんな2人が彼のことを知らないはずがない。
「何の用だ……?」
「……うーん…………見物?」
――旧暗殺者ギルド幹部、ルー。
エルフ種の中で初めて、後天的にハイエルフへと進化した生きる伝説。
そして、エルフ国を滅ぼしかけた生きる災害でもある。
「見物だと?」
「そうだよ。なーんか面白そうな女の子を見つけたから、実験してみようと思って!まぁ、その結果は想像以上だけど!」
まるで楽しい雑談をするかのような口調でそう話すルー。
両手を頭の後ろで組み、そう話す彼からは、敵意を一切感じない。
しかし、隙も一切見あたらない。
「……私とここでやる気なのか?」
「まさか!!生きる英雄と戦ったら、死んじゃうに決まってるじゃん!!」
ケラケラお笑いながらそう言うルー。
しかし、ただ談笑をする為だけにここに来たとも思えない。
「――でも、足止めではあるかな。」
そう言うと、彼は異空間から1つの魔道具を取り出した。
何かの起動装置のようなそれには、幾つもの術式が仕込まれているようだ。
「この国には、悪魔がいる。1度国を滅ぼして精霊王が封印した、最悪の悪魔がね。」
「ッ――!!」
――ドガァァンッ!!
反射的に、魔法を放つ。
私のできる限り最速で、最大火力の《火球》。
しかし、彼はそれを《瞬間転移》で軽々と避けると、ニヤリとゾッとする笑みを浮かべた。
「だけど、精霊王はミスをした。封印は、完全ではなかったんだ。」
――ドガガガガガァァァァァァンッッッッッッ!!!!!
その瞬間、世界樹から耳をつんざくほどの轟音が響いた。
ここですら感じるほどの膨大な魔力と熱。
そうして、あの世界樹から赤き炎があがった。
「ルーッ!!!どういうつもりだッ!!」
「テストだよ!今の世界は、奴に対抗できるのか……っていうね!」
そう言うと、彼は姿を消した。
先程と同じ、《瞬間転移》。
だが、今はもう彼に目を向けている暇は無い。
無論、メラルダにもだッ!!
「戻るぞッ……!!」
「ぁ……え……?」
突然の出来事に頭が置いつかず、あたふたするフォシュ。
無理もないことだが、今はそれどころでは無い。
私は彼女とロルダンの手を無理矢理掴み、《瞬間転移》で世界樹の近くへと転移した。




