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08.繋がる命

「師匠ッ!あわせてッ!」

「っ。分かった。」


 師匠と同時に、瞬時に左右を挟み込む。

 船が壊れちゃうかもしれないけど、手加減なんてしてしてられないッ!!!

 ドラゴン相手でも出さない、正真正銘、本気の一撃。

 しかし。


「うーん、不思議な武器を使うんだね。」


 その化け物はそれを、指一本で受け止めた。


「っ――――。」

「嘘でしょ……。」


 しかも、私だけじゃないっ!

 反対側からの師匠の双剣の連撃も、子供でもあやすかのようにすべて受け止められる。

 あんな技、私ですら見たことないのに……。


「うーん。そこのエルフ?いや、ハイエルフかな?そっちの方が強かったよ。」

「っ――。なんで、僕がハイエルフだと?」

「うーん、まぁまぁ強いからかな?」

「まぁまぁか。」


 その瞬間、目の前の化け物と、背後からエロフが()()()


 ――ドガドガドガドガドッ!!!


 そして、上空で連続して鳴り響く轟音。

 その衝撃は海を揺らし、雲をかき消すほどに激しいものだった。


「これが、エロフの本気……。」


 ――だけど、まだ足りないッ。


 それに、仮にエロフがあいつを倒せても、その後にあの船から逃げ切るのは至難の業だ。


「ママッ!!しっかりして!ママッ!!」


 カリーナの声が、船に響く。

 先程からナタリアとカリーナが全力で回復魔法をかけてるけど、なにぶん損傷が激しい。

 肩は抉れ、片足と片腕があらぬ方向へと曲ってる。


 ――っ。


 その瞬間、体が反射的に動いた。

 理由は分からない。

 ただ、何かが来ると、そう思ったのだ。


 ――そして、それは来た。


 一直線にエリーヌに向けられた、一筋の暗い光。

 それが何か分からない、けど、エリーヌが受けたら間違いなく死ぬッ!!


「間にあえぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!」


 そうして大鎌を勢いよく、その光にぶつける。


 ――ドァァァァン!!


 気づいた時には、私は壁に叩きつけられていた。

 慌ててエリーヌの方を見ると、奇跡的に弾道はエリーヌの真横を貫通している。

 何とか、間に合ったのだ。

 しかし。


「っ――――。ぺっ………………あぁ、嘘……でしょ……。」


 だが、それが限界だった。

 口からは、普通は出ないであろう量の血。

 そして、私の右手と左足は変な方向にねじ曲がり、その上壁に衝突したせいか視界もおぼつかなくなってきた。

 大鎌も、ボロボロになって床に転がっている。

 あの大鎌、気に入ってたんだけどな……。

 

  ――ドガドガドガドガドッ!!!

 

 上空で激しさを増す、二人の戦い。

 その被弾だけで、この威力なんて……。

 やば…………視界が……。


「「「メラルダッ!!」」」


 カリーナ達の叫び声が聞こえる。

 多分、私の想像以上に、今の私はボロボロなんだな……。


「………………いったいなぁ…………。」


 …………こんな怪我、初めてだ。

 全身が、燃えるように痛い。

 私……ここまで誰かのために体張るような人だったっけ?

 ………………でも、ここで私が死んだら、本当に全部終わっちゃう……。


「まぁ、これ……も、成り行き…………かッ。」


 失いかけてる意識を無理やり保ち、ボロボロの体に鞭を打つ。

 今私が倒れたら、どう転んでも全滅。

 そして、()()()()()()()


「な…………なた……りあ。」

「もう喋らないでっ!!」

「ナタ、リア。私に……回復魔法……かけて。三秒、いや、二秒だけで……も動ける……ように……。」

「何言ってるのっ?!そんなことより、今は自分の」

「お願い……。」

 

 私だけじゃ、この状況はどうにもできない。

 あの化け物とやりあえるのは、エロフしかいない。

 

 ――でも、もしあの敵船を巻き込むことができるなら……。


 確信はない。

 でも、もし、あの船にいる者が、私の予想通り四年前の時と同じやつなのなら……。

 もしかしたら、いい勝負をしてくれるかもしれないっ!


『み……みんな、きいて……欲しい。』


 これは、今の私が唯一全員に声を届ける手段。

 この念話魔法だけは、どんな時でも使えるようにと、普段から練習しておいたのだ。

 まさか、こんなタイミングで使うなんて、思ってもみなかったけど。


『あ……あの……エロフ……でも、あい……つ……は、とめ……られない。だ……だから、あの敵船……にぶつけて、……じかん……を、稼ぐ。』

 

「まさか……。」


 その瞬間、ナタリアが信じられないものを見る目で私を見た。

 まぁ、多分正解だ。

 

 昔、エロフに聞いたことがある。

 もし何かあった時、船ごと転移するのはできるのかと。

 そしたらエロフは、


 ――できるけど、最終手段かな。それに船ごととなると、船にいる者しかと転移できないんだよ。だから船から離れてたら取り残されちゃうし、その前に乗り込まれたら意味ないから使いどころないんだよね!


 って言って笑ってたけど、やっぱり使いどころあるじゃん!

 まぁ、あのエロフならそう思っても仕方ないか。


『エロフ……。あ……なた。なんっ……秒で、船ごと……転移できる?』

『…………………………………………二秒あれば。』

『そっか………………、なら…………、大丈夫。』


「おい、メラルダッ!!お前何を考えてんだッ!!」

「メラルダっ!」

「大丈夫よ、メラルダ!あなたがなにもしなくても、私たちがアイツをっ」


 言葉を遮るように、ナタリアの手を、私はそっと握りしめた。

 その手は、酷く震えていた。

 顔を見ると、その顔は酷く歪み、その綺麗な瞳からは大粒の涙が溢れ出している。


 エロフも、ナタリアも、師匠も、多分カリーナも、みんな分かってるはず。

 この状況で生き残るには、誰かがあの化け物を抑えないといけない。

 

 でも、ガルフでは速さが足りない。

 師匠では、威力が足りない。

 そして他の面々も、みんなあいつを吹き飛ばすには不十分。


 だけど、多分私ならできる。

 ただ、問題があるとすれば、


 ――私は、間違いなく死ぬだろうな……。


 あの化け物に殺されるか、その後に騎士に殺されるか。

 まぁ、どっちにしろ死ぬな、私。

 

 昔は自己犠牲なんてくそくらえって精神だったんだけどなぁ。

 ほんと、変わったな、私。


「ナタ……リア。今まで……も、こういうこと……あった……でしょ?……み……んな……、こうやって……命を……繋いだの。……今度は……私の……ばん……だよ。」

「で……でもッ……それならっ!私がッ!」


 その言葉に私は首を横に振った。

 

「わかっ……てる……でしょ?」

「分かってるっ!メラルダしか出来ないってっ!分かってるけどっ……。」

「最……後に、みんな……と、話……たいから、少し……膝枕……して。」

「………………分かったっ…………。」


 そう言って、ナタリアの膝に、私は横になった。

 昔から、ナタリアとエリーヌの膝枕は落ち着くのだ。

 そして念話に、全意識を集中する。

 悪いけど、もう少しだけ、エロフには耐えてもらおう。

 この後頑張るんだから、これくらいの報酬は、あってもいいよね……。

 言葉が途切れないように、そして、感謝が伝わるように。


『ガルフ、あなたはいい加減なところがあるけど、いい人だった。』


「っ…………。」


『師匠、私。ダメな弟子だったかもしれないけど、楽しかったよ。体には、気おつけてね。』


『……………………お前は、私の弟子だ。』

 

『ナタリア、あなたは私にとってお姉ちゃんみたいな存在。ちょっとやんちゃだけど、私の憧れ。』


「っ…………わたしはッ……わたしもっ……。」


『カリーナ。私は、あなたという友達を持てて、嬉しかったよ。私と友達になってくれて、ありがとね。』


「……………………これからも……友達だもんっ……!」

 

『エリーヌ。あなたは、私に名前をくれた。私に、生きる意味をくれた。…………私に名前をくれて、ありがとう。』

 

「…………め……らるだ?」

「ママっ!!」


『他のみんなも、ありがとう。とても幸せな四年間だった。』

 

 ――成り行きだった。


 洞窟でカリーナと出会って、そのまま運良く乗せてもらって、仲間になった。

 そんな運に身を任せたような人生。

 でも、とても楽しい四年間だった。

 

「ナタリア…………お願い。」

「ぐすっ………………でも…………でも…………。」

「お願い、ナタリア。」

「っ………………!」


 そうして、ナタリアは私に魔法をかけてくれた。

 だけど、これは…………回復魔法じゃない?


「…………これは痛覚を麻痺させる魔法…………ただの気休めよ。」

「ごめんね…………ありがとう。」


 立ち上がり、身体の調子を確かめる。

 まぁ、片足片手しか使えないけど、今はそれだけで十分!

 

 残りの魔力を、全部身体強化に回す。

 ただ、少し工夫はするけどね。

 普通の身体強化魔法じゃ、すぐに魔力が尽きる。

 だから、あの魔術を使うっ!


『やって、エロフ。』

『…………本当に、いいんだね?』

『うん、お願い。』

『分かった。…………………………ジョス、ありがと。』

 『っ――――――。』


 その瞬間、上空から高速で化け物が、敵船の方向に吹き飛んだ。


 『みんな、また会おうね。』


 そうして、()()()()に魔力を回し、蹴るッ!!

 

 ――ドッ!


 そして、次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()

 私だって、この四年間で成長したのだ。

 

「っ、へー。」


 そう言って不適に笑う化け物に、魔力を回した左拳を叩き込むッ!


 ――ドガァァァン!!

 

 そうして、それを受けた化け物は、そのまま敵船に飛んでいく。


 ――だが。


「ふふ、転移ですか?そうですか。できるって、思っているんですよねぇ?」


 化け物は、突然その勢いに逆らうように静止した。

 でも、()()()()()()()()()

 こんな化け物が、私の一撃ごときで吹き飛ぶなんて思っていない。


 昔のまでの私なら、ここで終わっていた。

 でも、私はみんなと出会って、成長した。

 その成果が、この頑張って覚えた()()()()

 これで殴る腕と飛ぶ足のみ強化したおかげで、あと二回分の魔力が残ってるッ!!


 ――ドッ!


 魔法で空中を蹴り、化け物に迫る。

 さっきと同等の威力。

 避けれるものなら避けてみろッ!!!

 

「はぁぁぁぁぁああああッ!!!!」

「はは、これは」


 ――ドガァァァァン!!


 その拳は、化け物の顔面を殴り飛ばした。


 ――ドガァァァァン!!


 「よし、これなら……」

 

 ――その瞬間、背後の気配が消失した。


「間に合った……。」


 エロフの魔法が間に合った。

 敵船を巻き込めたは分からないけど、時間は稼げたっ!

 

 「よかっ………………た……。」


ここまでお読みいただきありがとうございます。


次回の投稿は2024年12月19日を予定しております。



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