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24.異常【3視点】

◆イリス◇


 レベッカがあれだけ怯えていた理由が、少しだけ分かった気がする……。


「こ、これは……ッ!?」

「凄いですね、まるで映画のよう。」


――早すぎるっ!


 まだ、私達がこの国を去ってから七日も経ってない。

 にも関わらず、この短期間で精皇国、ほぼ全てのエルフ達を洗脳し、意のままに操るほどの能力……。

 その原因はまだ分からないけど、それがもし()()()()によるものだとしたら……。


「行きますよ、イリス少将。」

「え、あ、はい……。」


 エルフ達にバレないように注意しながら、国全体を見て周る。

 特に、まだ洗脳されていないエルフがいないか注意しながら。

 しかし、どこを探しても、洗脳されたエルフしかおらず、無事なエルフは一人も見つけられなかった。


「いないですね……。」

「はい……。」


 こうなると、恐らく無事なのは皇城にいるであろうクレナ様と、隊長の方々のみ。


「皇城に行くしかなさそうですね。」

「…………いえ、そうでもないようです。」


 え?

 そ、そうでもないって……。

 しかし、戸田中将はそう言うと、裏道から表の商店街に向けて歩き始めた。


「ちょ、戸田中将っ!?」


 気配を消してから、戸田中将を追って表に出ると、何故か一箇所だけ、エルフ達が近寄らないお店があった。


「あ、あれは……。」

「行きましょう。」


 ふとそのお店の上を見ると、大きな看板には、可愛い文字で()()()()と書かれていた。


「マルアイ……。」

「可愛い名前ですね。」


 しかし、お店の前まで来ても、窓ガラス越しにエルフは見当たらなかった。


「いないようですが……。」

「いえ、いますよ。」


 そう言って戸田中将は、入口の扉を押した。


「やっぱり……。」

「え……?」


 すると、店内には二人の()()が、のんびりと食事をしていた。

 それに、その奥の厨房にも気配が一つある。


「…………これは……結界……!」

「いらっしゃいませ!お好きなところにどうぞ!」


 すると、厨房にいたであろう、金髪の女性が厨房から顔を覗かせると、そう言って笑みを浮かべた。


「え、あ、はい……。」


 流石の戸田中将も、このような出迎えは予想外だったのか、動揺した様子で近くの席に座った。

 私も戸田中将の隣に座ると、厨房にいた女性がお水を二つ、私達の前に置いた。


「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください。」


 そう言って、彼女は厨房に戻って行った。


「…………あ、えーと……どれにします?戸田中将。」

「えっ!?」


 食べるんですか!?という目で彼女を見ると、彼女は至って冷静に耳打ちをしてきた。


「このお店は異常です。それに私達としては、少しでも情報を集める必要があります。」

「それは……そうですが……。」


 確かに、今この国で洗脳されていない人は貴重なのかもしれない……。

 でも、もしこの人達がこれに関与しているとしたら……。

 ………………でも、今は戸田中将を信じるほかない…………か。

 

 そうして私達はそれぞれパスタを注文すると、直ぐに頼んだパスタが運ばれてきた。


「い、頂きます……。」


 毒は…………ない……。

 でも、まさか……任務中にパスタを食べることになるなんて……。

 こんな状態じゃ、まともに味も……。


「!?…………おいしい……。」

「そ、そうですね…………。」


 戸田中将も、まさかこんな状況でもおいしいと思えるとは思っていなかったのか、驚いた様子でパスタを凝視していた。


「ありがとうございます!」


 そう言うと、金髪の女性はニコッと微笑んだ。


「ナズナさん、私達にもおかわりを。」

「はい!」


 あの女性、ナズナっていうのね。


「あの、お二人は冒険者ですか?」


 すると、別の席で食事をしていた一人の少年が、そう私達に話しかけてきた。


「え、いや」

「はい、そうです。」


 と、戸田中将…………?


「あなた達は、何故ここに?」

「僕は、こちらの方に拾って頂いたんです。」


 そうして少年が視線を送ったのは、戸田中将と似た黒服を着た、従者のような女性。


「はい。彼を連れてきたのは、私です。」

「…………お名前をお聞きしても?」

「ルミナと申します。」


 恐らく、結界を張ったのはこの人。

 でも、ルミナなんて名前、聞いた事もない……。


「戸田ち…………戸田さん。」


 わ、分かってますから!

 そんな目で見ないで下さい!


「そ、そうですね……。こちらを頂いたら、私達はあなた達のような方々を」

「いませんよ、皇城以外には。」


 やっぱり、この国にはもう……。


「…………そうですか。」

「――ですが、それでも行かれると言うのなら、もう少しお待ちください。」

「え……?」

「恐らく、もうすぐ始まりますから。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


◆メラルダ◇


「ねぇ、もう解放してくれてもいいんじゃない?」

「何を言ってんだ?お前。」

「ふんっ……!」


 だって……。

 何が悲しくて、私はこんな男と長時間二人っきりでいないといけないのよ……。

 はぁ……。

 バッティアートと船で二人っきりになった時なみに嫌。


「それにしても、何その魔力……。」

「凄いだろぅ?」


 凄いって言うか……気味悪いよ……。

 もう魔力が溢れ出ちゃってるし……。


「魔力過多症にならないの?」

「適度に排出してるからな。」


 へぇ……。

 ってことは、この魔力をある程度操れるってことか。


「化け物じゃん……。」

「褒め言葉か?」

「まぁね。」


 でも、もしこの力を元の勇者が使っていたらって考えると、それはそれで凄いことになってたかも……。

 それ比べたら、もしかしてこいつの方がマシ?


「ねぇ、一つ聞いてもいい?」

「聞いてばっかだな、お前……。まぁ、いいだろう。なんだ?」

「なんで私なの?」


 多分、勇者の力の方がいいと思うけど。

 私、洗脳どころか、ろくに魔法も使えないし。


「お前の未来に期待しているからだ。」

「私の……未来?」

「あぁ。その年でこれほどの強さは中々いないからな。」


 お、おぅ……。

 褒められてる……?


 でも、それならリディアがいるよ?って話なんだけどね。

 接近戦ならともかく、遠距離戦なら多分負けるし。

 まぁ、言わないけど。


「あっそ。」

「少しは喜んでもいいんじゃないか?俺が褒めてるんだぞ?」


 いや、嬉しくないでしょ……。

 そのせいで、私がこうなってるわけだし。


「別に、あなたに褒められても……。」

「そうか。」


 って、あれ?

 この気配……。


「え、ちょ…………!」


 すると、突然この男は私の首根っこを掴みあげた。


「…………っ!」

「少し事情が変わった。悪いが、お前の魂を俺の中に封印する。」

「…………!?!?」


 まさか、気づかれたッ!!

 まぁ、私が気づけるんだからきづいてないはずがないよねッ!!!


「ちょ……!」

「ふん、じゃあな。」


 もう少し、もう少しでみんなが来てくれるのにッ……!!!


「くそっ……。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

◆エレナ◇


「終わったぞ。」

「や、やっと…………ですか……。」

「し、死ぬかと…………思いました……。」


 魔道具の解除を終えると、何故かあれだけいたスライムは溶けるかのように消えていった。


「よくやったな、二人とも。」

「「は、はい!」」


 オマール、お前は言うほど疲れてないだろう……。


「ん?」


 なんだ?

 この気配。


「エレナ様、どうかしました?」

「あの方向から、一瞬妙な気配を感じてな。」

「そうですか?私は何も感じませんでしたけど……。」


 ヘンリの気配でもない。

 勿論、ティア達でもない。


「ってことは、あの勇者か?」

「そうかもしれま」


 ――ゾクッ!!


「「「――ッ!!」」」


 その瞬間、強烈な悪寒が私を襲った。

 それは、Sランクなどの比でなく、それこそ、昔戦ったあの死神のような、強烈な死の気配が。


「な、何がッ……!!」

「あれですっ――!!」


 すると、先程の方向の一部から、膨大な魔力の柱が天へ伸びた。

 その量は、全盛期の私と同等か、それ以上のものだった。

 しかし、周囲は濃密な魔力で満ちており、そのせいで探知が機能せず、転移にも影響が出ている。


「くそっ……!!」


 選択を誤ったッ……!!

 そんな魔道具など放って、メラルダ救出を優先するべきだったんだッ…………!!


「転移するぞっ……!」

「「了解っ……!」」


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