22.虚ろ【3視点】
◆ヘンリ◇
「それで、みすみす勇者を逃がしたのね?」
「………………。」
「あなたそれでも、隊長なの?」
ティアがこれだけ煽られても、何も言い返さない……。
それだけ、ティアも責任感を感じてるのかも。
「リディアの言う通りだな。…………私は言ったよな?何かあった時の合図を。」
「………………。」
「ティア。お前ともあろうものが、何故それをしなかった?」
場の空気がピリピリと張り詰め、殺意の魔力が空間に溢れる。
余波でこれなのだから、その殺気を受けているティアの負担は計り知れない。
しかしティアは、俯いたまま言葉を発しようとしない。
「り、リディア様……。」
「黙ってろ、シャーリィー。」
そうして、殺気が更に増した。
私ですら殆ど感じたことの無いほどのエレナの殺気。
それは、返答によってはこの場で殺すと言わんばかりのものだった。
「え、エレナ様っ!お待ちくださいッ!!」
その時、ティアの前に立ったのは、他でもないアネだった。
「あの時は、謎のスライムといい、勇者といい、とても合図のできる状況ではありませんでしたッ!!」
「……………………。そうか。ならお前は、最初の異変から余裕がなかったのか?」
「そ、それは……。」
確かにアネから聞いた話では、勇者が現れるまでは、ティア達にも余裕があった。
にも関わらず、ティア達は自分で乗り切れると判断し、合図を送らなかった。
「お前達は、自分の力を過信し過ぎた。実際、勇者はお前達に手を出さなかったらしいな。なら、勇者の有無に関係なく、お前達の失態に変わりはない。」
もし、ここに普通の騎士。
または、一般人がいたならば、エレナに向けて言い過ぎだと、そう思っていたかもしれない。
しかし、ここにいるのは、部下の命を与る立場のものばかり。
だからこそ、その失態の重さを、みな身を持って知っていた。
「ごめんなさい、エレナ。」
「こ、皇妃様っ……!!それは私のセリフで……!」
「いえ、フォレスト・ナイトは確かにあなたが指揮する騎士団だけれど、その責任者は私達王族よ。」
「そ、それは……。」
「終わったことを嘆いても仕方ないですよ。」
そこに割って入ってきたのは、キャーレ皇子殿下だった。
「エレナ様の言い分はご最も。騎士を統率する立場にある者が状況判断より私情を優先するのは、極めて重大な失態です。ですのでもう一度、彼女らにチャンスを与えてもよろしいでしょうか?」
「チャンスだと?」
怪訝な表情でキャーレ皇子を見るエレナ。
しかし、キャーレ皇子はそれを意にも介さず、話を続けた。
「どちらにしろ、私達はその世界樹の周囲に設置された魔道具を解除しなければなりません。ですが、先程はそれをする暇もなく、撤退を余儀なくされた。そうですよね?」
「そうだ。」
「なら、今度はエレナ様とオマール、フォシュが魔道具解除にあってください。ノーラ、ルティ、ロルダンはメラルダ様の救出を。他の者は、ここで私達の護衛です。」
なるほど。
ティアとアネを私と一緒に配置することで、暴走しないようにするってことね。
「…………いいだろう。だが、解除が出来次第、私も加わる。」
「分かりました。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆メラルダ◇
「っ…………。」
周囲を見渡すと、ここは豪奢は部屋の中だった。
そうして、目の前の赤いソファーに座り、ニヤニヤしながらワインを口には運ぶ勇者。
「目を覚ましたか、餓鬼。」
「………。」
見る限り、出口は幾らでもある。
でも、この手と足を拘束している縄から抜け出すのは至難の業だ。
なんか、上手く力が入らないし……。
それに、仮にこの拘束から抜け出せても、こいつが付近にいる限り、私は逃げられない。
「…………なんで私をここに?」
「その身体が欲しいからだ。」
は?
身体?
「いや、私女だけど?」
「別に俺はそんなの気にしねぇ。」
いやいや、私が気にするんだけどっ!?
何こいつ……?
前の勇者もキモかったけど、魂移した方も十分キモいかも……。
「……キモいね。」
「なんとでも言え。」
どうやら、それに関しては本人も少し気にしているらしく、そうは言いつつも苛立った様子で、グラスに入っていたワインを飲み干した。
「まぁ、それも奴が来るまでだが。」
「奴?」
「あぁ、俺の部下だ。あいつも魂移術に興味を示していたからな。」
ってことは、やっぱり私の身体を奪う方法も魂移術?
もしかして、自分の部下に勇者の身体をあげる気なの?
「…………でも、魂移術は元の身体の魂が崩壊されるんじゃないの?現に、元の勇者はいないみたいだし。」
「ほぅ……、賢いなお前。だが、残念ながらハズレだ。」
「え?」
「通常、魂移術ってのは魂を入れかれる魔法。つまり、別に魂が消滅する魔法じゃない。」
え……?
でも、ならなんで勇者は……。
「だが、勇者と通常の魂移術を行えば、俺の元の身体が勇者のものになってしまう。それは、俺としては気持ち悪い。だから、俺の元の身体に制約を課し、俺以外の魂が宿れないようにした。つまり、勇者の魂は追い出れた後に行き場を失い、自然消滅したんだよ。」
「――っ!」
「まぁ、勇者の場合は厄介なことに、魂自体に神の加護が働いているせいで、色々と面倒だったがな。」
…………なるほど。
つまりあの勇者がつけていた指輪は、魂を追い出すための自爆装置みたいなものだったんだ。
「だが、お前は簡単だ。お前の場合は、まず俺と部下が魂移術を行い、その上で俺がお前の身体をもらう。勿論、その前に部下の身体は私が破壊する。そうなれば、お前は器がなくなり、自然消滅だ。」
「なるほどね…………。」
確かに、そうすれば勇者の身体を得られた状態で、私の身体までもを獲得できる。
そうして、私の身体を乗っ取れば、上手くアトキンス家に潜り込み、内側からベイリー王国を破壊することも、こいつらなら不可能ではないかもしれない。
まぁ、そもそもこいつらの目的を知らないから、何とも言えないんだけど。
「まぁ、あと少しの命だ。せいぜい楽しみな。」
「楽しみなって……。私、この変な縄のせいで動けないんだけど?」
別に私ドMじゃないし。
そういう趣味もないんたけど?
「あぁ、それはそうだろう。その縄には世界樹の枝が使われているからな。」
「枝?」
「お前、そうなことも知らねぇのか?世界樹には、魔力を浄化して、それを浄化する効果がある。だが、浄化が出来るのは花の部分のみ。枝は魔力を吸収するだけだ。それを利用したのが、この縄ってわけだ。」
つまり、ただ魔力を吸収して、それを適当にばら蒔いてるだけってこと?
「それに元々、世界樹の樹皮には相手の力を削ぐ効果もあるからな。」
なるほど……。
それにしても、なんかめっちゃ詳しく説明してくれるじゃん。
親切なのかな?
「これで分かったか?馬鹿にも。」
前言撤回。
多分こいつ、身体に影響されて勇者みたいな性格になってるだけだわ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆???◇
「あ、あの……。」
「?…………どうしましたか?」
「これから先、僕はどうなるのでしょうか……。」
冒険者としての最初の仕事である、薬草採取。
それを済ませて街に帰ると、何故かそこには、異常な雰囲気を漂わせた人達がいた。
僕の知ってる人も、まるで他人かのように僕のことを無視して、ただただ街を徘徊している。
「そうですねぇ……。とりあえず、ここにいてください。」
そうして、襲いかかってきたエルフから僕を守ってくれたのが、この女の人だった。
「どうぞ。」
「あ、ありがとう御座います……。」
そんな僕が彼女に連れてこられたのが、このマルアイというお店。
でもここは、勇者様の苦手なお店で、行くと貴族様からも目をつけられると噂のお店の一つだった。
「それで、どうします?これから先。」
「とりあえず様子を見ましょう。この国には、優秀な騎士がいますし。」
お店には、先客がいた。
男の貴族のような真っ黒の正装着た、綺麗な女性だ。
そうして彼女が言うには、ここには結界が張られており、部外者は傷一つ付けられないという。
でも、そんな結界を張れるってことは、相当優秀な方なんだろうな……。
「でも、もしもあの方に何かあったら……。」
「大丈夫ですよ。というより、そうあってくれなければ、あの子達に任せた意味がありませんから。」
「それもそうですね。」
正装の女性が、ほっと胸をなでおろす。
それにしても、2人の会話によく出てくるあの方って人。
2人の共通の知り合いのようで、さっきから2人の会話の所々にあの方が出てくるけど……。
あの方って……一体誰のことなんだろう?




