19.皇妃
「メラルダっ……!」
「何ッ……!?」
「周囲に警戒しとけッ!」
はぁ……!?
こいつを前に周囲なんて……って……。
「なっ…………!?」
待って、なんでみんなこっちに武器構えてるの?
え?
あの子のこと、私さっき助けたよね!?
「洗脳だッ!」
「はぁ…………??」
そんな広範囲なのこれッ!?
「メラルダ……ッ!」
「リディアッ!」
シャーリィーもっ!!
あと…………ん??
「だ、誰?」
「ふふ、初めまして〜!」
いやいや、本当に誰!?
「メラルダっ!一旦離れるぞッ!」
「えっ!!」
「洗脳の範囲が広すぎるッ!!」
エレナさんがこんなに焦るなんて……。
って、観客もッ!?!?
「早くしろ…………って、なんでお前がここにいる!?」
「久しぶりね、エレナ。」
え?
知り合いなの!?
「まぁいい!こいつは私が連れていくッ!早く行くぞっ!」
「え、あ、はい。」
いや、でも……。
逃げられるかな、これ。
「ふん、逃がすとでも」
「逃げちゃうわ!」
――ボンッ!
その瞬間、勇者の周りに謎の黒い煙が出現し、すぐに勇者を呑み込んだ。
「え、これって……。」
「ふふ、早く逃げるわよ!」
この人がやったのっ!?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――そうして、私達はエレナさんの転移でなんとか人気のない場所まで移動することができた。
「それで?何とか逃げられたはいいけど…………誰?」
「私に聞かないでくれる!?」
でも一緒に来たじゃんっ!
……いや、連れてこない選択肢はなかったかもだけど!
「私も知らないわ。というより、私が聞きたいくらいよ。」
「そ、そうだよね……。」
というか、よくよく考えれば、リディアがエルフの友達なんているとは思えないし……。
「おいアグネット!お前がなんでここにいる!」
「何でって、……暇だから?」
「暇ってな……。」
やっぱりエレナさんはこの人と知り合いらしく、呆れた様子でため息を吐いた。
「あの…………誰です?」
「あぁ、こいつは皇妃だ。」
「は……?」
こ、皇妃?
「で、でも、この人一般席にいたわよ!?」
「そういう奴なんだよ、こいつは。」
え、えぇ……。
「で、でもあなた、護衛は?」
「そこにいるわよ?」
そうして、皇妃様は近くの建物を指した。
でも…………え、いる?
「勝手にいなくなったうえに、私の場所までばらさないで下さいよ……。」
すると、建物の上からそんな声が響いた。
そうして建物の上から飛び降りてきたのは、茶髪の屈強な一人の女性だった。
「ごめんね、ロルダン。」
「まぁ、いつものことですけどね。」
大きな大剣を背負い、私の倍以上の体格。
しかし、そんな目立つ見た目にも関わらず、私達はさっきまで全くその気配を感じられなかった。
「紹介するわ。私の護衛をしている、四花団長の、ロルダンよ。」
「よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします……。」
「よ、よろしく……。」
それにしても……本当に大きい……。
で、デカ……。
バッティアートと同じくらいあるんじゃない!?
「それで、どう致しますか?」
「ど、どうって言われても……。」
まぁ……皇妃様でも思いつかないよねぇ……。
効果範囲が広すぎて、もう化け物以外の何者でもないし……。
「皇王に相談してみれば?」
「え?」
「だって、皇王はもう正気に戻ってるようだし?」
「はぁ?何を言って」
――私は、そうは見えなかったが。
「…………た、確かに……。」
「いいえ。…………その…………皇王は……夫は、だいぶ前に亡くなりました。」
「「え…………?」」
亡くなった?
でも、さっきまでは生きて……。
「…………おい、ロルダン。」
「分かってるわ。」
そうエレナさんが問うと、ロルダンさんは話し始めた。
――始まりは二年前。
皇王様が騎士達を連れてバルムンクというSランクの魔物かいるダンジョンに、そいつの再封印のために向かったという。
しかし、そこから帰ってきたのは、皇王だけだった。
そこで何が起こったのかは、アグネッタさんも分からないらしい。
ただ、アグネッタさんは帰ってきた皇王を見て、すぐに偽物であることに気がついた。
本物の皇王が、既にこの世にいないことも。
「流石の私も、最初は信じられなかったわ。でも、皇王と契約してしたはずの精霊がいなくなっていたのを見て、私も確信したのよ。」
「だが、ヘンリ達は確認を持てていなかったが?」
「皇王陛下は、ダンジョンでバルムンクが封印を破っていたせいで、戦いで精霊が戦死したと言っていたの。それに、私達もそれに合わせたから、疑いつつも、納得したんでしょうね。」
い、一様筋は通ってる……。
「だが、そんな重要な情報を何故あいつは私に言わなかったんだ……。」
「それは、あの子も思うところがあるからでしょうね。団長も、一度契約していた精霊を亡くしているから。それ以降、彼女は一度も精霊と契約していないわ。」
「………………そうだったな。」
そう言えば、昔エロフが言ってたっけ。
――精霊はね、エルフにとっては家族みたいなものなんだよ。
確かに、家族が亡くなったから新しく家族を探そう……とは思わないもんね……。
「でも、なんであなた達はその違和感をヘンリ殿に伝えなかったの?」
「それは、私が頼んだのよ。」
え、アグネッタさんが?
「なんで……。」
「それは、その時の精皇国には、被害を出さずに皇王を殺せる手段がなかったから。」
こ、皇王を……殺す方法……。
「下手な真似をして、私が殺させるわけにはいかなかった。だから、他国の《洗脳のギフト》を持っているという勇者様を招いたのだけれど……。逆効果になってしまったわね。」
「何をやってるんだ……。」
あの勇者……マジで勇者として期待されてたんだ……。
「まさか勇者の身体を乗っ取ろうと考えてたとは、思わなかったけどね。」
「そ、それはそうですよね……。」
だって、禁忌魔法だしね……。
「あなた達、勇者様と一緒にいる二人の兄妹、知ってる?」
「あー。」
「いたわね、そんな奴。」
イカつい顔をした男と、大きな帽子を被った女の子………………。
あぁ!
あの子達か!
「この子達は、もともと私が直々に雇っていた護衛の子達なのよ?」
「え…………?」
「勇者様が貴族達のせいで傲慢になってきたから、最悪の事態を避けるためにつけたの。」
た、確かに……。
勇者には、勿体ないくらい優秀な子達だった気がする……。
「だが、それなら何故あのような脅しを黙認したんだ?」
「それは、あなたに気づいて欲しかったの。」
「何?」
エレナさんに気づいて欲しかった?
「こんな機会でもなきゃ、皇王はあなたと会わないでしょうから。でも、あの張り紙は知らないわ。」
「ほぅ……。なら、あの張り紙は、勇者と貴族共がやったのか。」
うわ……。
エレナさん怒ってる……。
ま、まぁ……あの時も相当怒ってたもんね……。
「でも、参ったわね。皇妃様の言うことが本当なら、今この国には厄介な敵が二人はいるってことになるわ。」
「いや、それに関しては大丈夫だ。」
え?
「皇王のことは、信頼できる奴に任せてある。」
「信頼出来る奴って?」
「まぁ、いずれお前らは分かるはずだ。」
私達は、いずれ分かる……?
ってことは、エレナさんの知り合い?
それとも、アトキンス家の人かな?
「まぁ、とりあえず皇王に関しては大丈夫だ。」
「そう、なら大丈夫ね。」
いや、アグネッタさん?
今のどこに大丈夫な要素ありました!?
「今はそれよりも、どうやってあの勇者を倒すかですね。」
…………確かに。
でも、それが思いつかないんだよねぇ……。
「普通にエレナ殿が切り飛ばしにいけばいいんじゃないの?」
「それが出来れば苦労しない。」
リディア……。
「な、何よその目は……!」
「だって、そんなに簡単に済むならこんな雑談しないよ……。」
洗脳のギフトの能力が分からない以上、洗脳されている人達は人質のようなものなんだから……。
「そ、それくらい、分かってるわよっ!」
そんな赤面しながら言っても、バレバレですよ?リディアさん……。
「今洗脳されていない騎士は?」
「団長と、隊長格は無事なはずよ。恐らく、王城で王族の方々を守っていると思うわ。」
「そうか。ならまずは、皇城に行くべきだな。」




