18.悪意【2視点】
◆博◇
「マジかよ…………。」
「嘘でしょ……。」
正直、陽大が勝つと思っていた。
そのためにわざわざ、あの子供には悪いと思いつつも、あんなチート魔剣を渡したうえに、美音にこの結界を張らせたんだ。
あのクソ貴族が余計なことをしてくれたせいで、エレナが来るか冷や冷やたが、その問題も解決し、全てが順調に進んでいるはずだった。
だが――。
「あの子、魔力は……。」
「あぁ、使ってねぇ!あいつ、素で戦ってるぞッ!」
「嘘でしょ……。」
あぁ、信じられねぇよな……。
それに、あのクソ貴族が何かしてくる様子もなく、皇王の様子も明らかにおかしいっ!
勇者の様子からして、恐らくこの状況は勇者自身も想定外。
ってことは…………やはりアトキンスがっ!
「ねね、お兄ちゃん。」
「なんだ?」
「あれ……。」
そう言って美音が指したのは、来賓席の一つ。
そこに、あのクソ貴族がいた。
「ちッ……!ドゥーセの奴かっ!」
やっぱり来てやがったか!あのゴミ貴族がッ!
だが、なんだ?
この違和感は……。
「あいつ、顔真っ青。」
「そりゃ俺達もだろ。まさか、勇者がおされるなんて思ってなかったからな。――――それが理由ならの話だが。」
だがどうする?
仮に皇王が正気に戻ったんなら、あとは俺達の関与できる話じゃねぇ。
「ぇ………………?」
「ん?どうした?」
美音の異常に気づき、美音の視線を追いかけると、そこには丁度あの餓鬼に追われる勇者の姿があった。
「あの指輪…………。」
「指輪だと?」
おい、そんなの付けてなかったよなッ!?
「ちっ、いつそんな指輪をッ!」
なんだ?
今まで気づかなかったが、気づいた今なら分かる。
あの指輪は、間違いなくやべぇッ!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆メラルダ◇
な、なんでこんなに剣を扱えるんだろう……?
ただ、イメージしただけなのに。
「くそッ!!なんで、なんで……!!」
「……さぁ…………?」
いや、本当に分からなんだよね……。
ただ、何故かあの言葉が凄いしっくり来たというか……。
そんなことを言った覚えもないし、そもそも私の声じゃないんだけど……なんか凄い背中を押されたんだよね。
「分からないけど…………とりあえず、降伏したら?」
「なっ…………!」
「正直今の私は、誰にも負ける気がしないから。」
まぁ、それでもまだエレナさんには勝てないけどね……。
「くっ…………。はっ!…………くくく。」
「凄いね、笑えるんだ。」
さっきまでの私は、笑う余裕すらなかったのに。
「いいのか?俺をここで倒しても。」
「……?」
「俺はお前が海賊をやっている写真を持っているんだぞ?」
あ、そっか。
完全にそれ忘れてた……。
「…………まぁ、でもいいんじゃない?」
「は?」
「いや、よく良く考えれば私、別に悪いことしてないし。」
まぁ、それでも私は海賊だし。
アトキンス家は苦労するだろうけどね。
「おま、い、いいのか?お前、アトキンス家の人間なんだろっ!?」
「別にいいよ?」
「なっ…………!」
あ、でも…………。
そうして、――見たくはなかったけど――エレナさんの方を見ると、苛立った様子で貧乏ゆすりをしていた。
「あ、うーん。私はいいけど……。その……。」
「な、なんだよ……。」
「あっちは…………良くないみたい……。」
そう言って、私はまたチラッと一瞬だけエレナさんを見た。
「なっ…………!お、おい!ど、どうしてくれるんだよッ!!」
「は?いや、私は関係ないでしょッ!!」
な、何を言ってくれてんのこの勇者ッ!!
元はといえばあなたのせいないだから、怒られるのは貴方だけでしょッ!!
「くそ…………くそくそくそッ!!!…………うん?」
「ん?」
すると、何かに気づいたのか、突然勇者は手元を見ると、何故かまたニヤりと笑みを浮かべた。
「今度は何?」
「この指輪、なんだと思う?」
いや、なんだって言われても………あれ?
なんか……その指輪……。
「前にお前にも見せたよな?」
「え、あ、うん。何それ?」
「これはな、俺の力を解放する指輪さぁッ!!」
な、何を言ってるのこの勇者……。
ついに狂ったのかな?
いや、もとからかもだけど……。
「ふん、信じないなら見とけッ!!」
「ん?いや、ちょっ!」
待って、何か嫌な予感がする……!
「ちょっと待っ」
「ふざけるな。」
――パシンッ!!
え?
そう言って勇者が手首を上げた瞬間、その手首が誰かに掴まれた。
「お前、そんなもので何をする気だ。」
「え、エレナさん……!」
そこにいたのは、さっきまで司会者の隣にきたはずのエレナさんだった。
これに騒然とする観客。
しかし、エレナさんはそれを気にもとめず、上げられた手を強引に戻した。
「な、これは……!」
「そもそも、ギフトの力を解放する能力など、この世に存在しないッ!!」
「なっ…………!」
ギフト?
何言ってんの?エレナさん。
「な、なら…………これは……。」
「それを、こちらに渡せ。」
「え、あ、いや…………。」
ん?
何だろう、この魔力……。
――ッ!!
あの指輪、周囲の魔力を吸ってッ!!
「ッ…………!エレナさんッ!!」
「ちっ!」
私の声とほぼ同時に、エレナさんが無理矢理勇者から指輪を抜き取った。
しかし……。
「うっ、ぐっ、がァァァァァァ!!!!」
「ちっ、遅かったかッ!!」
勇者は苦しそうに悶えつつ、何故か心臓の辺りを握りしめた。
「エレナさんッ!!」
「もうやってるッ!!」
すると、膨大な魔力がエレナさんに集まり、それが温かい色となって勇者を包んだ。
「どうッ!?」
「ダメだ…………。」
そう言って、勇者から手を離した。
「え…………。」
「もう、死んでる…………。」
嘘っ…………!
「陽大ッ……!!」
すると、客席から一人の女性が飛び込んできた。
「陽大ッ!!ねぇ、陽大ったらっ!!」
彼女は泣きながら、強く勇者を揺すった。
強く、強く、何度も。
「嘘だろ……。」
「お兄ちゃん……。」
すると、客席からもう二人。
しかし彼らは勇者に近づくことはなく、私の隣まで来ると、呆然とそう零した。
「お前らは、勇者の仲間だな。」
「あぁ、そうだ……。」
あー、どこかで見覚えあると思ったけど、そっか。
勇者の仲間だったのか!
「そっか!だから……………………。…………?」
何だろう?
今…………何か…………
「ッ――――!!みんな逃げてッ!!!」
何か、来るッ!!
その瞬間、上空から飛来した何かが勇者に当たり、大きな光の柱を作った。
紫色の気味の悪い柱を。
「無事ッ!?」
「あぁ、大丈夫だ。」
幸い、勇者パーティーのみんなは無事光の外に避難していた。
ただ、お腹の当たりを苦しそうに押えてるから…………多分…………。
「ふん、あれを避けられただけで奇跡だ。」
「やっぱり…………。」
蹴ったな?この騎士。
それにしても、この魔力……。
こんな膨大魔力を使って、一体なにを。
――魂移術には、莫大な魔力量を必要とし、その量は、エレナさんでも負担しきれない程の量だという。
まさかッ…………!
「魂移術ッ!!」
「そういうことかッ…………!!!!」
その瞬間、光の柱が止んだ。
そうして光が病むと、勇者はエレナさんの剣に貫かれていた。
「陽大ッ!!」
「待ってっ!」
悲鳴を上げて駆け寄ろうとする仲間の女性を、必死に抑え込む。
「離してッ!!」
「ダメっ!!」
今、この子を行かせたらっ!
「ほぅ……。これが勇者の身体か。」
「ぇ…………。」
「くそッ…………!!」
その瞬間、勇者は自分に刺さっていた剣を握りつぶした。
「…………はる…………と?」
「あぁ、そうだ。俺がはると」
――ッ!!
――キーンッ!!
「なわけないだろッ!」
「あっぶなっ…………!」
ってか、重ッ!!
「おぉ、凄いなこの身体!しかも、こんな力もあんのかッ!」
「――ッ!!メラルダ!目を合わせるなッ!!」
――ゾワッ!
「っ――!」
攻撃を受け流し、女性を連れて素早く距離をとる。
って今の何ッ!?
まるで身体をまさぐされたような……。
「洗脳のギフトかっ……!」
「はぁ!?」
洗脳っ!?!?
こんなヘンポコ勇者が、そんな強い能力持ってんのッ!?




