17.見えざる声【4視点】
◆ルミナ◇
『ルミナ、本当にやるの?』
『はい。』
気の進まない様子の声が脳に響く中、私は躊躇いなくそう返した。
『結構賭けだよ?これ。』
『ですが、上手くいけば、私達が動く必要がなくなります。』
『………………分かった。』
◇◇◇◇◆◆◇◇◇◇◇
◆メラルダ◇
「おいどうしたッ!その程度か?」
「っ――!」
その程度かってさっ!
ほんとっ!
よく言うよねっ!
こっちは休む暇なく魔剣を避け続けるしかないってのにッ!
「おいおい、反撃なよっ!」
あのねぇっ!!
反撃なんてしたら、剣が溶けちゃうでしょッ!!
それに、それを覚悟で攻撃しても、剣で受け止められたら力負けするってのっ!
「はぁ…………。」
ここでも負けるのかなぁ……私。
結局私は、海賊界でしか強くあれなかった。
一歩外に出れば、私はひ弱なただの子供。
騎士どこか、使用人にすら勝てず、バチストには最後の最後まで手加減されて……。
はぁ……。
私は少し勘違いしてたのかも……。
前世は、凄く強い人だったんだって。
だから、神様が私を強い子供に生まれ変わらせてくれたんだって。
少しだけ、そう思ってた。
でも、今の私は普通の子供と同じように追い詰められて、同じように負けた時のことばっかり考えている。
バチストも、こんな気持ちで生きてきたのかな?
――いや、命がかかってないだけ、私はマシか……。
「どうしたんだい?深いため息を吐いて!………………あぁ、そうか!君もエレナさんは私の仲間に相応しいと思ったんだね?」
「え、あ、うん……。」
あ……やば……。
「いや、ごめん、今のは」
「そうだよねッ!!」
やべ……。
「それなら、君もさっさと負けを」
――何をしてるのッ!!この弱虫ッ!!
その時、突然観客の声援を貫き、一つの怒声が響いた。
「え…………?」
この声って…………………。
「き、君のお母さんとか…………来てるの?」
「え、いや……。」
でも…………似てる…………。
――そんな弱気だから、いつまで経っても弱いままなの
ッ!!
お、おう…………。
何故か私に刺さる言葉ばかり……。
――自分の強い姿をイメージしてっ!!そして、それを自分に当てはめるのッ!!
自分の…………強い姿?
「む、無茶苦茶言うね、この人……。」
当てはめる?
――それくらい出来なきゃ、あなたは誰一人守れないッ!!
………………。
「な、なんなんだよ!?この声……。」
私が強い、イメージ。
鎌ではなく、剣を持って、こいつに圧勝するイメージ……。
あの時、私を庇い、バチストを殺したあいつにすら届くような、鋭く速い剣。
「な、どうした?お前……?」
魔剣の炎すら消し去る程の速さで、音すら立てずに相手を切る、水が流れるように自然な剣。
「おかしくなったのかい?今の声を聞いて。」
そして、それを全て、私がやっているイメージに
「――変える……。」
――キーン。
◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇
◆陽大◇
――カランっ……!
「なっ…………!」
何が起きたのかは、僕にも分からなかった。
ただ、気づいた時には、魔剣の一部が滑るように地へ落ちた。
ま、魔剣が……。
な、なんだッ…………?
ただの偶然か?
「あ、す、凄いじゃないか……!魔剣を切るなんて!だが……。」
すると、魔剣の切れた部分が激しく燃え上がり、炎が剣を象ったかのように魔剣が再生した。
これが、この魔剣の能力であり、魔剣と呼ばれる所以。
「残念だったね。偶然はそう沢山起きるものではないから。」
そうだっ!!
こんなの、ただの偶然ッ!
そう、そうに決まって……
――カランっ。
ぇ…………。
ま、魔剣が…………。
…………おかしいっ!
この餓鬼、一体いつ剣を抜いた!?
「い、インチキだッ!!こんなの、インチキに決まってるッ!!!」
そうだッ!!
僕が剣を抜く姿を見ていない以上、これは魔法によるものッ!!
ってことは、他の誰かが………そうだ!!
あのメイドが、僕の魔剣を切っているに決まってる……!
「え?インチキ?」
「そ、そういえば、俺もあの女が剣を抜くところは見てないな。」
「ってこと、やっぱり勇者様のおっしゃる通りあの子供が不正をッ!!」
そうだっ!
観客達もこの子供に疑惑を持ち始めてるッ!!
ふっ、インチキをするからだな!
だが、これで僕の勝ちは決定的なものになった。
この餓鬼をボコボコに出来なかったのが心残りではあるけど…………まぁ、仕方ないか……。
「………………審判、不正は?」
その瞬間、騒がしい会場に、一つの声が響いた。
落ち着いた、しかし本能が逆らえないと感じてしまうほどの、威厳に満ちた声が。
その皇王の声は、鶴の一声のように会場を静寂で満たした。
「なっ――――!?」
こ、皇王っ…………!!
「審判?」
「え、あ、はいっ!確かに不正が確認されましたッ!!」
「そうか――――」
ま、まさか皇王直々に聞くなんて……!
でも、これで……。
「――――私は、そうは見えなかったが。」
「なッ…………!?」
ど、どうなってるんだッ!!
い、言ってたじゃないかっ!
皇王は、僕達の仲間だって!
僕の能力の解放を支援し、最高の仲間を集めるための手助けをしてくれるって!
どうなってるんだよ、ドゥーセ伯爵ッ!!
◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇
◆ドゥーセ伯爵◇
な、何故だ…………!
皇王様は、こちらの味方ではなかったのかッ!!
今の判定、もし皇王様が不正だと言えば、この時点で勇者の勝ち。
あの餓鬼は捕縛されていたはずッ!!
にも関わらず、何故皇王様はッ!!
……まさか、あの魔剣を使ったにも関わらず押され始めた勇者を見て、勇者よりも、あの餓鬼に希望を見いだしたとでもいうのかッ!!
「惜しかったですね。」
「なっ!!」
すると、突然そんな落ち着いた声が隣から響いた。
しかし、私の周囲は屈強な男の騎士で固めていたはず。
にも関わらずなぜ、女の声が横から聞こえるのだッ!?
「きさ」
「しーっ。横を見てはいけません。」
くそっ!
どこのどいつだか知らんが、舐めやがってッ!
痛い目を…………なっ!
――声が…………出ないッ!!
それに、身体もっ…………!
「まぁ、動こうとしても、動けないとは思いますが。」
「ッ…………!」
「そう興奮しないで下さい。私はただ、これをあなたに渡しにきただけですので。」
そう言って、こいつは真っ赤な包みに包まれた、ゴロゴロとした重い何かを俺の膝に乗せた。
「惜しいですね。勇者の監視として自分の騎士を手駒の貴族の騎士団に潜らせ、勇者の同行を監視。自分は一切手を汚さず、思惑通りにことを進める。確かに、一見すればあなたの足がつくことはないでしょう。」
な、なんでそれがバレて……!
「ですが、勇者の口止めまでは、していなかったようですね。」
「ッ…………!!」
ま、まさかあの勇者ッ…………!!
漏らしやがったのかっ!!
「では、私はこれで……。」
「なっ……!おい待てッ!!」
そう言って横を向くと、何故か先程の騎士はい無くなっていた。
「お、おい!」
「は、はい!どうかなさいましたか?伯爵様。」
「お前の隣、ここにいた騎士はどこに行ったッ!!」
すると、その騎士は混乱した様子で首を傾げた。
「い、いえ…………見ておりませんが……。」
「なっ…………!!」
見ていない?!
そ、そんな馬鹿なッ!!
しかし、周囲を見渡しても怪しい騎士は一人もいなかった。
「ところで、そちらは……。」
「な、なんでもないッ!!」
く、くそッ!!
なんなんだあいつっ…………!!
だが、あいつは俺の全てを知っていたっ!
そんな奴が一体何を…………。
そうして俺は、騎士の目を盗み包の中を覗き込んだ。
「……なっっ!!」
「どうかなされましたか?」
「な、なんでもないッ!!」
俺は甘く見ていたのかもしれない。
いくら英雄王を連れているとはいえ、奴さえいなければただの人族の貴族。
そんな連中に、俺が遅れをとるはずがないと。
だが……。
「…………くそ……。」
――脅し返された。
この首、今日あの餓鬼を誘拐しようとしていた俺の駒、ナチア子爵の首をわざわざ持ってくる意図など、一つしかないッ!
「…………黙って見てろってことか……ッ!」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年7月20日を予定しております。
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