16.決闘1【2視点】
◆メラルダ◇
「ここでお待ちください。」
「あ、はい。」
ここが……控え室……。
でも……特に何か細工されてる様子はないけど……。
部屋には、荷物を入れるロッカーが数箇所に配置され、後は水飲み場と長椅子が所々に置かれている。
しかし、物は多くあるものの、違和感のある物は一つも置いてなかった。
「考え過ぎだったのかな?」
本当は、普通の決闘だったとか?
って、そんな訳ないか……。
「やっぱり来たんだね。」
すると、部屋の入口からそんな声が響いた。
「どうも、勇者様。」
「やっぱり気づいてたんだね。」
まぁ、ここは探知の妨害とかないし。
だから分かってるよ?
この部屋を警戒しながら通路を歩いている人が、数十人はいることもね。
「ところで、一つ聞いてもいいかい?」
「何?」
「君は、なんで戦うんだい?」
は?
一体、何を言って……。
「アトキンス家の令嬢である君が言えば、エレナさんも少しは考えてくれるはず。」
「…………いや。」
そんな訳ないでしょっ!
何言ってんのよ……。
「……………………そっか、残念。」
「………………。」
何?
この違和感。
「あれ?その指輪……。」
「これか?ふっ、これは親切な人からの贈り物さ。」
その割には、ニヤニヤしすぎじゃない?
絶対ヤバいやつじゃん!
「じゃあ、今日はよろしく。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「出番ですよ。」
「…………はい。」
係員のエルフに連れられて、会場へと進む。
通路付近には、既に監視をしていた人達はいなくなっていた。
「この先は、お一人で。」
「あ、はい。」
結局武器も取られてないし、別に何か小細工されたわけでもない。
やっぱり、これってただの決闘だったのかな?
「おぉ!あれが…………!」
「いや、待てよ……?あれってエレナ様と来たアトキンス家のご令嬢なんじゃ…………。」
「へ?じゃあなんで海賊なんて呼ばれてるのよ?」
通路を潜ると、そこはもう会場だった。
私の登場に対する反応は、興奮する者や混乱する者、憤る者など人それぞれ。
ただ、この反応から見るに、恐らく舞台には、何も仕掛けられていないのだろう。
『そしてッ!対するは我が精皇国の勇者っ!!ハルトッ!!!』
司会者がそう叫ぶと、私の時とは違い、多くの声援が上がった。
「よろしくね。」
「うん……。」
なんだろう?
違和感あるんだよなー、この勇者。
『そしてっ!決闘に賭けられているのはなんとッ!あの英雄王、エレナ様ですッ!!』
すると、司会の隣に突如エレナさんが転移してした。
『って、え!?あ、え、エレナ様っ!?』
「なんだ?お前が呼んだんだろう。」
うっそぉ……。
な、なんで出てきちゃうのッ!?
負けたら逃げるんじゃなかったのッ!?
しかし、私の心の叫びとは裏腹に、会場の盛り上がりは最高潮。
勇者すら比べものにならないほどの歓声が会場を包んだ。
「ふふ、綺麗だ……。」
「あ、あはは……。」
懲りてないなー、この勇者。
『そしてこの決闘の立会人はなんとっ!なんとあのっ!皇王陛下ですッ!!』
紹介を受け、いかにも王族が座りそうな席から、一人の男が立ち上がり、民に手を振った。
「へぇ……。あれが皇王様なんだ。」
勇者も初めてなんだ、皇王の顔見るの。
それにしても……うーん。
あれ、本当に皇王なのかな?
『それでは両者、構えて下さいッ!!』
そうして、私は勇者と向かい合う。
しかし、勇者の表情は未だ余裕そうであり、態度が逆にこっちの不安を煽った。
「ほら、早く構えなよ。」
「え、あ……!」
えーと、確かこう構えるんだっけ?
でも…………つ、使えるかな……。
「では………………初めッ!!」
――キーン。
その瞬間、甲高い音とともに、謎の結界が舞台を覆った。
「ぇ…………。」
な、何っ!?
魔力が抜けて……。
「ふっ、はぁっ!」
「っ…………!」
勇者の剣を腹の部分で上手く受け流す。
しかし、魔法を使おうにも魔力が吸われて思うように身体が動かないッ!
「ふんっ!」
その瞬間、勇者の剣から強烈な炎が溢れ出した。
まるで、この影響を受けていないかのように……。
「こ、これは…………。」
「武器の制限はないからな。」
子供相手に魔剣ですかッ!?
こっちはそうじゃなくても、なんか魔力吸われて身体強化すら出来てないってのにッ!!
「さぁ、遊ぼうかッ!!」
「くそっ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆リディア◇
「メラルダ、苦戦してるわね。」
「はい。結界に魔力封じの効果が含まれていますね。」
簡単で、最も効果的な方法ね……。
「それにしてもエレナ殿は何考えてるのよ……。」
「分かりません……。」
最悪の場合、エレナ殿が私達を連れて逃げる手筈なはずだけど、なんでわざわざエレナ殿は自ら壇上へ……。
そんなことを考えているうちに、メラルダはどんどん追い込まれていった。
その原因は、力の差。
魔力を上手く扱えない結界内では、剣同士のせめぎ合い一つでも、メラルダは勇者に大きく劣る。
その上、相手は魔剣持ち。
だから剣を避けたとしても、魔剣の熱は確実にメラルダを蝕んでいく。
私ならあの結界内でもなんとかなりそうだけど……。
まぁ、そもそも私のような魔人とは違って、メラルダはただの人族。
仕方のないことね。
「それに、バチストの事も……。」
「はい。このような形で負担になるとは……。」
この状況で勝つには、それだけの気持ちが必要。
技術や力ではなく、どんなに絶望的な状況でも、勝ってみせるという強い気持ちが。
でも……今のメラルダにそれが出来るかどうか……。
「ん?」
「どうしたの?シャーリィー。」
「あのエルフ、何かおかしくありません?」
シャーリィーが見ていたのは、観客席にいた一人の筋肉質のエルフだった。
「何が怪しいの?」
「あのエルフ、苛立っているんですよ。」
ん?
苛立ってる……?
「メラルダを応援しているのかしら?」
「ですが、あの方はエルフです。自国の勇者が有利であるこの戦況で、何故彼はイラついているのでしょうか?」
「勇者に何かされたんじゃないの?実際、勇者の被害あってる人も結構いるようだし。」
「なら、わざわざここに来るでしょうか?」
まぁ、それはそうだけど……。
でも、勇者の負けを見たかったって可能性もあるし……。
「それだけじゃ、何ともねぇ……。」
「そうですよねぇ……。」
「――いいえ、貴方の言う通りよ。」
え?
ふと私に入ってきた知らない声に思わず顔を向けると、そこにはエルフの女性が座っていた。
「あのエルフは、何故か勇者の手元ばかり気にしてるわ。」
「え?」
手元?
手元って…………。
「何…………あの指輪。」
「魔道具のように見えますが……。」
魔道具…………指輪…………。
「…………まさか、あの指輪になにかっ!」
「えぇ、私もそう思うわ。重要な何かだとね。」
重要何か……。
「って、その前にあなた誰!?」
「ふふっ。誰だと思う?」
紫の瞳に、黒の長髪……穏やかな顔……。
そんな知り合い…………いたかしら?
「知らないわね。」
「そう?私は知ってるわよ?あなたのこと。」
「え?」
私の事を知ってる?
「………………宿とかですれ違ったり?」
「ふふ、そうかもしれないわね。」
そう言って、女は面白そうに笑った。
「ちょ、シャーリィー!」
「私も分かりません。ただ、危険な者でないことは間違いないかと。」
シャーリィーに耳打ちすると、彼女は多少動揺しつつも、何故か自信ありげな様子でそう言った。
「な、なんで分かるのよ!」
「えーと、か、勘……でしょうか。」
なにか隠してるわね、シャーリィー!!
「……………………。」
「そ、それで!!あのじ……………エルフ、ど、どうしましょうか??!!」
そして露骨に話を逸らしてきたわね……!
まぁ、でもシャーリィーの知り合いってことは、変な人ではないんでしょうけど……。
「ふーん…………。まぁ、いいわ。それに、どうするもこうするも……。」
そうして、私はますます押され気味になっていたメラルダを見つめた。
表情を曇らせた、気弱な友達を。
「頑張ってもらうしかないわね、メラルダに。」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年6月15日を予定しております。
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