07.化け物
「まさか、エロフがエロいだけじゃなかったなんて……。」
「大丈夫よ。普段はその通りだから。」
でも、これでナタリアがエロフを嫌いにならない理由も分かった。
多分、ナタリアはジョスのことが好きだな!
そうでもないと、あれだけ覗かれそうになっても嫌いならないなんておかしいし。
「…………メラルダ、もしかして、私がジョスのこと好きなんじゃないかとか、思ってない?」
「え!?どうしてわかったの!?」
「うん、カリーナには言ってなかったんだけど、あんたもなのね。」
「え、だってそうでしょ?」
「違うわよ!第一、メラルダが来るまでジョスは味方の覗きなんてしようともしなかったわ!」
「そ、そういえば確かに……。」
え?そうなの?
ってことは、あのエロフがエロフになったのは私のせい?。
でも、じゃあなんで私には来ないんだろう?
やっぱり胸?
胸なのか!?
「胸じゃありませんッ!多分、メラルダ達をからかってるだけよ。」
「は?」
「あなた達がジョスを止めに行った時、ジョスいつもどんな顔してる?」
うーん。
言われてみれば、なんかニヤニヤしながら私達を見てたような。
「…………笑ってる。」
「でしょ?だから。」
「でも、いつも記録用の魔道具持ってるよ?」
「…………………………ちなみに、一番最近は誰だった?」
「え、えっと、そその……。」
――バタン!
その時、運悪く、と言うかある意味奇跡的に扉がいきよいよく開かれ、エロフが入ってきた。
「……ナタリア」
「たいへ」
「この変態クソエロフッ!!!!!」
「べふっ!!」
「ドスっ」という鈍い音とともに、腹パンをお見舞いされたエロフが白目を剥いて倒れた。
本当にこれが海割ったのかな…………。
「って、ナタリア!そのエロフ、なんか言いかけてなかった!?」
「あ、そういえば……。」
「え!?嘘っ!?ちょっ!起きて!!起きなさい!!!」
――ペシペシペシペシ!!
そう言って、ナタリアは慌てながら何度もエロフの頬をひっぱたいた。
何度も、そう、何度もである。
「あー。」
「メラルダ、どうしよう?」
「まぁ、自業自得かな。」
「はっ!」
「あ、起きた。」
なんかもう、色々顔が大変なことになってる……。
そうしてカリーナが回復魔法をかけ始める中、エロフは慌て――――てるのか分からないけど、そんな感じの様子で言った。
「だ、だびべんだ!」
「えっと、頬が?」
「どでもどうだげどでぃがう!………………………………き、騎士が攻めてきた!」
わぁお、エロフの回復魔法すごーい。
一瞬で直るじゃん。
カリーナ見てみ?
めっちゃ不満そうよ?
………………って、今なんていった!?
「そういう大切なことは早く言いなさいよッ!!」
「理不尽じゃない!?」
流石に少し可哀そう。そういう私達もぼこぼこにしているのだけど。
「メラルダっ!行くわよ!」
「うん!カリーナも行くよ!」
なんか最後にエロフの切ない声が聞こえた気がしたけど、今は無視!
魔法で大鎌を取りだし、部屋を出て甲板に向かう。
そうして甲板につき外を見回すと、まだだいぶ離れてるけど、確かにそこには一隻の船が、こちらに向けて進行していた。
「ガルフッ!敵の動きは?」
「まだ何もして来ねぇ。不気味なほどにな!」
先に来ていたガルフは、そう言って笑って見せた。
なんか、凄く楽しそう。
「私はいつも通りでいい?」
「あぁ、頼んだぞ。」
「うん!」
そう言って私は跳躍し、見張り台へと昇った。
「まだ遠いけど、ここからでも魔法は届きそうだねっ!!」
「あぁ!!砲弾用意っ!!!」
ガルフの合図とともに、仲間達が一斉に船の砲弾を敵船へと向ける。
すると、カリーナも私に続き、見張り台まで飛んできた。
「相変わらず息を吸うように魔法使うよね~。」
「まぁ、慣れてるからね。」
これに関しては昔からできたことだし、何故か私の場合、アルカナなしでも魔法が使える。
理由は分からないけど、エロフがいうには、稀に人間にもそういう人はいるらしい。
「でも、アルカナも使うよ?」
「それは疲れた時でしょ?」
「まぁね。」
すると、遂にガルフが声を上げた。
「よしっ!撃てぇ!!!」
――ドドドドドドッ!
その合図と共に無数の砲弾が、敵船へと飛ぶ。
しかし、これあくまで様子見。
昔見たあの海賊船のように、船に結界が張られている場合は、この砲弾が通ることは無い。
この砲弾は、その確認の意味もあるのだ。
本命は、この後に打つ決壊弾。
これは結界の破壊に特化した砲弾で、三回当たればほぼ確実に破壊するというもの。
あのエロフが開発したという、私達のとっておきだ。
「ッ――――!!!」
しかし、その時突如全身に強い悪寒が走った。
一瞬感じた、覚えのある魔力の気配。
それはまるで四年前の……。
――ドガァァァン!!
それとほぼ同時に、砲弾が船の手前で爆発し、轟音が響く。
「やっぱり結界持ちか!おい、決壊弾を入れろッ!」
「待ってっっ!!」
私の叫びが、船全体に響く。
「…………に……よう。」
「なんだ!!メラルダッ!!!」
「どうしたの?メラルダ?」
ガルフの怒声が響き、カリーナも驚いたようにこちらを向いた。
「逃げようッ!!!今すぐにッ!!!」
「え?」
「な、なにいって……お前、どうした?」
分からない、分からないけど。
今、ここにいたら、多分カリーナ達は助からない。
そう、本能ともいえる何かが、警鐘を鳴らしてるっ!!
「…………ガルフッ!!!全力でここから離れましょうっ!!私が魔法で援護するわっ!!」
「な、なにいって」
「見えないの!?それとも信じられないッ!?メラルダが戦闘でこんな表情してたこと、今までで一度でもあったッ!?」
私が何と説明したらいいか考えていると、ナタリアがガルフの声を遮って捲し立てた。
「海賊は直感が命ッ!!!引けるのなら引くッ!!それで助かるのなら本望よッ!!!」
「っ――――。舵をきれッ!!全力で撤退するッ!!!」
『おぉ!!!!!』
そのガルフの声に、仲間達の声が上がる。
「メラルダ、大丈夫?」
「うん、ありが………………え?」
――ゾワッ!!!
なに…………これ。
さっきの悪寒と比べ物にならない、明確な死の気配。
魔力探知に反応はない。
けど、何かいるッ!!
しかも、近いッ!!!!
慌てて見張り台から身を乗り出し、甲板にいる者を見る。
どうやらエロフも感じたらしく、今までにない表情で周囲を見渡していた。
ガルフ、ナタリア、エロフ、師匠、カリーナ………………。
「ッ――――――。エロフッ!!!!」
「分かってるッ!!!」
その瞬間、エロフがその場から姿を消した。
四年前に見たものとは違う、瞬間転移。
――ドガァァン!!!
「ッ―!!受け止めてガルフッ!!!!」
「ッ――!!」
その瞬間、船内で轟音が鳴り響き、船が大きく揺れた。
そして轟音と共に、船内を貫通してなにかが飛び出してくる。
その何かを、ガルフがその大きな体で受け止めた。
「っ――――。お、おいっ!」
ガルフが止めると、そこに収まっていたのは、エロフ。
そして…………
――全身を血に濡らした、エリーヌの姿だった。
「ママッ!!!」
「エリーヌッ!!」
「よそ見するなッ!!!」
慌てて駆け寄ろうとしたカリーナとナタリア。
しかし、エロフの声の怒声が、それを強制的に止めた。
「ッッ――――――。」
私は二人を庇うように前に立ち、飛んできた方向にいるそれを睨む。
部屋が貫かれ、ボロボロの部屋がいくつも見える異様な光景。
「あぁ、やっぱり庇ったかぁ――。面白くないなぁ~。あぁ、面白くない。」
そしてそこに立つ、不気味な白黒の何か。
肌は生者とは思えないほどに白く、その白黒で統一された服は、よりその異様さを引き立たせている。
それでも、これだけならまだ顔色の悪い人くらいの認識で済んだ。
「なに……あれ……。」
にん……げん?
いや、違うッ!!
人間どころか、魔物ですらないッ!!
こんな異質な気配は、到底生物の放っていいものじゃないッ!!
「………化け物。」
「ん?化け物ぉ?それはぁ?僕のことかい?」
「っ――。」
まさか、無意識なのっ!?
こんな圧迫感を、威圧ではなく素で出してるの!?
「っ……。?…………はは、初めてだよ。」
「んんん?」
初めてだよ。
――敵を前にして、これだけ手が震えるのは。
でも、多分ある程度相手の実力が分かる人じゃないと、こいつ異常さは分からない。
だってこいつからは、魔力を微塵も感じない。
でも、不幸にも私には分かる。
こいつは、正真正銘化け物。
――――人の勝てる存在じゃない!!!
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