13.変化【2視点】
◆メラルダ◇
「やっぱりッ!!」
「どうしたのよっ!いきなり走り出してッ!!」
宿を出て、夜の街を走る。
「勇者の店ッ!」
「はぁ?」
「多分、人が集まってるのは、勇者が苦手なお店だッ!!」
「なっ……!」
宿を出るまでは半信半疑だったけど、こうやって街を走って確信した!
それに、さっきから人が集まってる所に、怪しい人が数人いる。
多分これを貼ったどこかの騎士だろうけど、もしそれに売りの子女性が遭遇したらッ!!
「やめてくださいッ!!」
その時、夜の街に一つの叫び声が響いた。
「メラルダッ!」
「うんッ!!」
申し訳ないけど、周りのことを気にしてる暇はないみたいっ!
足に魔力をこめ、走る速度を倍に上げる。
勿論、ある程度加減はしてるけど。
「あれねッ!!」
「ッ――!やっぱりっ!」
案の定、店の前では売り子の女性の怪しげな男達が言い争いをしていた。
「あれが?」
「はい、そうです!」
「そうか。」
その瞬間、隣を走っていたはずのエレナさんが消えた。
「ちょっと!やめて!」
「うるせぇ!!ゴミパスタしただせねぇゴミ女がッ!」
そうして男が手を出そうとした瞬間、その手は横にいた人に受け止められた。
「ほぅ……。騎士が民をゴミ呼ばわりとはな。」
「なっ…………!」
って、エレナさんっ!?
うっそぉ……。
いつの間に先に……。
「あなたは…………って、あなた達は!」
「大丈夫ですか!?」
リディアと私は、エレナさんに合流すると素早く売り子の女性を庇うように立ち、シャーリィーさんはエレナさんの斜め背後に立つ。
「その剣は、ナサア子爵家の騎士のものですね。」
「子爵家の騎士か。」
シャーリィーさんが騎士の身分を言い当てると、エレナさんはその騎士達を睨めつけた。
「………………っ!くそっ!行くぞ!」
それに騎士達は一瞬怯むと、それを誤魔化すように去っていった。
「なんだったのでしょう……。」
「恐らく、これだな。」
そう言うと、エレナさんは地面に落ちていた一枚の紙を拾い上げた。
「っ…………!これは……想像以上だな……。」
しかし、それを見るとエレナさんは苛立ちを隠すことなくそう言って、手の紙を握り潰し、シャーリィーさんに手渡した。
「処分しておけ。」
「か、畏まりました。」
すると、そのままエレナさんは姿を消した。
「シャーリィーさん、その紙は?」
「はい……。」
そうしてシャーリィーさんが紙を開くと、そこには大きくこう書かれていた。
“精皇国の勇者、女海賊と決闘ッ!無事英雄王、エレナ・フォンジュ様を救い出せるのかッ!!“
「「「なっ…………!」」」
やられたッ……!
「あれは私達への脅しのはずじゃ……。」
「はい。ですが……これでは……。」
どういうこと?
あれは、私達を決闘に参加させるための脅しだったんじゃないの!?
「まさか…………!」
リディアがそう言った瞬間、少し離れたところから、こちらに複数の気配が近づいてきた。
「敵数八!こちらに近づいてきますっ!」
「貴方はここにいなさいっ!」
リディアは売り子の女性にそう言うと、素早く私の手を取った。
「え?」
「あいつらの狙いはあなたよっ!さぁ!早くッ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆エレナ◇
――ドカンっ!
「くそっ…………!」
あいつらは…………皇王は何を企んでいるっ!!
ここまでのことをしても、皇王が止めに入っていない時点で、皇王がこれに関与しているのは明白だ。
だが、その目的はなんだ?
ただの嫌がらせか?
「いい加減してくださいッ!!」
その時、通路の先からそんな声が聞こえた。
だがこの声……どこかで聞き覚えが……。
「いいのかい?君も、あの子供のようになるかもよ?」
――ッ!!
気づけば、身体が勝手に動いていた。
「へ?……あ」
「ん?…………」
――ドガァァァンツ!!
男……勇者を殴り飛ばし、そのままもう一人の手を掴み転移する。
「大丈夫か、フォシュ!!」
勇者に絡まれていたエルフは、ヘンリの妹、フォシュだった。
「え、エレナ姉様!?」
「怪我はないかっ!?」
「え、あ、はい。」
フォシュは呆気に取れた様子で、しばらく呆然と私を眺めると、ハッと我に返った。
「あ、その、」
「あんなところで、何をしていた?」
「あ、えーと、張り紙を剥がして回っていたところ、偶然勇者様にお会いしまして……。」
そのまま、路地裏に連れ込まれたというわけか。
「この状況で、皇族は一体何をしているッ!!」
「あー、その………。それは出来れば私の前で言わないで頂けませんか…………。」
なっ…………!
すると、いつの間にか背後に、一人の男が立っていた。
「いつの間に背後に……!」
「エレナ様がこちらに来たんですよ?だってここ、皇城ですから。」
「なっ……!」
言われて周囲を見渡すと、ここは確かに、皇城の敷地の中だった。
「焦って転移なさるからですよ。」
「第一皇子が、こんな夜更けに何をしている?」
「散歩ですよ、落ち着かなかったので。」
まさか、私が転移場所を間違えるなんて……。
こんなミス、一体何十年ぶりだろうか。
「それで、エレナ様はなんでここに?」
「…………路地裏でこいつが勇者に絡まれていてな。」
「はぁ……、またですか……。」
すると、予想外なことにこいつはそう言ってため息を吐いた。
「………………何故、お前達は勇者を野放しにしている?」
「…………私は第一皇子、父上に物申すことは出来ても、それ以上のことは出来ません。」
「…………………………そうか。」
こいつが……アロルドがそこまで言うほどに、皇王は堕ちているのか……。
「何故、皇王は奴を野放しに?」
「恐らく、彼のギフトに価値を見いだしているのかと。」
「ギフト?」
神からの授かりものか。
召喚者が持つ、特別な力だったな。
「はい、あの勇者のギフトは《洗脳》。とは言っても、力は覚醒してはいないようですが。」
――洗脳。
相手の意識を支配し、意のままに操る能力か。
となると、あいつの行動にも、何か関係がありそうだな。
「だが、それだけでは、皇王の愚行には説明がつかないだろう。」
「はい。父上は、一年前急におかしくなりましたから。」
「一年前?」
そういえば、あの売り子もその時期に……。
「はい。その時期を境に私達家族と一切会うもなくなりました。」
「…………この間、戦争の時には会ったんだろう?」
「はい。」
「その時に、何か変わったところはなかったか?」
すると、アロルドは暫く悩んだ後、「あります。」と口にした。
「先の戦争で久々にご挨拶に行った際、父上の力が、異常に上がっている気がしたのです。」
「なに?」
力が、上がる?
「気のせいかもしれませんが……。」
「そうか……。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆メラルダ◇
あの後、宿に帰るのは不味いというリディアの助言を受け、私達は宿ではなく、乗ってきた馬車に身を潜めることになった。
でも…………これからどうしよう……。
やっぱり、帰るべきかな?
海賊だっていうのも、もう広まっちゃってるし……。
あれ?
でも、その女海賊が私ってことは広まってないんじゃ……。
すると、突然リディアがジト目でこちらを見てきた。
「な、何…………?」
「…………あなた、まさか……写真は公開されてないから大丈夫でしょ!…………とか、考えてないわよね?」
「え…………。」
…………なんで分かるの?
「その顔は図星ね……。」
「いや、でも…………。」
「確かに今はバレてないかもしれないけど、写真は勇者が持ってるのよ?それに、あなたはアトキンス家の養子。それが海賊なんて広まったまま、帰る訳には行かないわ!」
そ、それはそうだけど……。
「でも、じゃあどうすれば……。」
「…………明後日まで、ここで凌ぎましょう。」
「明後日って…………出るの?決闘。」
「はい。こうなっては、もう利用するしかないかと。」
利用?
でも、そんな方法って……。
「メラルダ。あなた、圧勝しなさい!」
「へ?」
「勇者に圧勝して、“流石アトキンス家の子供“って思わせるのよ!」
え?
でも、圧勝したら余計……。
「勿論、ただ圧勝するのではなく、貴族の子供っぽい戦い方でね。」
「ん……………………ん!?」
き、貴族の子供っぽくって……。
「海の聖女は、大鎌を使った荒っぽい戦闘をしてたんでしょ?」
「あ、荒っぽくないし!」
ちょっと戦い方が激しいだけだしっ!
「そこは重要ではありません。問題は、海の聖女は大鎌使いっていう印象を利用するんです。」
「はっ…………!」
そっか!
確かに、大鎌を使う人は目立つから!
「幸い、あの写真には大鎌を持ったあなたが写ってたわ。だから、それを逆手に取ればいい。つまり、………………あなた、剣で戦いなさい?」
「えっと……短剣?」
「長剣に決まってるでしょ!あと、一本よ?」
「えぇ……。」
いや、大鎌を使わないのは分かるけど……。
「それ意味ある?」
「意味あるの!私を信じて!」
「わ、分かったよ……。」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年6月30日を予定しております。
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