12.場動【2視点】
◆メラルダ◇
「あの…………私も一つ、宜しいでしょうか?」
「いいわよ!」
「…………失礼ですが、ヘンリ様は皇王陛下がお嫌いなのですか?」
えっ…………ちょっ…………!
「シャーリィー?」
「何を言っているんだ?お前。」
その問いの意図が分からなかったのか、エレナさんは不思議そうにシャーリィーさんを見つめた。
そんな中、シャーリィーさんは申し訳なさそうに話を続けた。
「そうですよね。も、申し訳」
「えぇ、そうよ。」
「なっ!?」
その答えに、驚愕するエレナさん。
しかし、リディアは納得したように頷いた。
「リディア?」
「まぁ…………そんな気はしてたけど……。多分、あの勇者が原因なんでしょ?」
「えぇ、そうよ。」
「あれが?」と険しい表情になるエレナさん。
ヘレナさんは、それに無言で頷くと、怒りを孕んだ声で話し始めた。
「実はね、妹が勇者に言い寄られてるのよ。」
「えぇ…………。」
マジか…………あいつ……。
「勿論、何度も断っているみたいなんだけど、相手は皇王に期待されてる勇者だからね。」
「っ…………!」
「私は精皇国の団長だから、一度で諦めてくれたんだけど……。フォシュは最近七花の隊長になったばかりだから、舐められてるみたい。」
いやいやっ!
七花?っていうのはよく分からないけど、隊長って結構位高いよね!?
あの勇者とは、どう頑張っても釣り合わないでしょ!!
「ほぅ…………。隊長格を舐めるとは、随分自分を高く見ているんだな。」
「えぇ。」
もう勇者っていうか……ただのヤバい奴なんじゃ……。
いや、それはもう分かってたけど……。
「でもエレナ、あなたもでしょ?」
「ん?あぁ、確かにここに来る途中に絡まれたな。」
「大変だったわね。それに、まさか皇族を巻き込んだ決闘にまで発展するなんて……。」
ん?
皇族?
「いや、確かに決闘はしたが、別に皇族を巻き込んではいないぞ?」
「え?あなた達、明後日決闘するんじゃないの?」
明後日に決闘?
「…………お前、一体何を言ってるんだ?」
「私はここに来る途中に部下から聞いただけだけど…………勇者がエレナさんを賭けてアトキンス家の養子と戦うらしいってね。」
「もう戦いたくないですよ?私。」
そもそも、あんなヤバい決闘は一回で十分っ!
あの時、寿命縮むかと思ったんだからっ!
「でも、立ち会い人は皇王様らしいわよ?日時ももう決まってるみたいだし…………。」
「嘘でしょ…………。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆???◇
「これでいいのかい?博。」
「あぁ!」
不安そうにそう訪ねてくる勇者に、俺はそう言って笑って見せた。
「エレナはこれで必ず来る。…………必ずな。」
「でも、エレナさん、帰っちゃうかもよ?」
「えぇ。それに、仮に来ても勝てるかどうか……。」
美音の意見に、千香もそう言って同意した。
「まぁ、普通にやったら勝てないだろうな。」
「だったら……どうやって……。」
不安そうにそう漏らす勇者様に、俺は一つの写真を見せた。
「これは…………。」
「女の子?」
それは、一人の少女の写真だった。
金髪の髪を靡かせ、巨大な大鎌で魔物に立ち向かう、勇敢な子供。
昔、記録用の魔道具で撮った、思い出の写真。
「お、お兄ちゃん?それって……。」
「あぁ。これは俺が、昔海で撮った写真だ。」
「ん?この写真……。」
すると、その写真を見た勇者はそれを見てしばらく考え込むと、はっ!と何かを思い出した様子で声を上げた。
「どうしたの?」
「あいつだ!あの時、俺と戦ったあの餓鬼!」
「あの子?…………そういえば、この写真の子と似てるわね。」
そう、似てるんだ。
髪と目の色を変えれば、同一人物かのように。
「ねぇ、博。もしかして……。」
「いや、残念ながら同一人物じゃないと思うぜ。こんな癖のある武器を使うやつが、武器なしであそこまでの動きが出来るとは考えづれぇからな。」
「そ、そうよね……。」
千香はそう言うと、再びその写真見つめた。
「でも、じゃあこの子は?」
「海賊だよ。海の聖女って言われてる。」
「う、海の聖女って……!」
そうだ。
これは数年前、俺がこの世界に来たばかりのころに、妹を庇って魔物に襲われそうになった俺を助けてくれた聖女の写真。
「あぁ、昔こいつが撮ってくれてな。」
「うん、お兄ちゃんを助けてくれたんだ!」
俺達からしたら、命の恩人だ。
だから、この写真を使いたくはなかったが……。
「こいつとあの時の餓鬼は似てるだろ?だから、これを利用する。」
「ちょ…………あなたもしかして……!」
「………………命の恩人を、利用する気かい?」
お前が言うかお前がっ!
…………だがまぁ、その通りだが。
「美音、これをあいつらの部屋に転送しておけ。」
「………………お兄ちゃん?」
「大丈夫だ、俺を信じろ。」
これは賭けだ。
俺が死ぬか、それともあいつらが死ぬかのな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆メラルダ◇
「ほぅ……。これで私達を逃がさない気か。」
「王道だけど、よく効くやり口ね。」
大浴場を出て、ヘンリさんと別れた後、部屋に戻ると机の上に、一枚の写真が置かれていた。
そうして、その写真が……。
「私の…………写真……。」
海賊時代の、大鎌を持った私の写真だった。
「なんでこれを……。」
「あなた、手配書はないのよね?」
「う、うん……。ないはずだけど……。」
でも、この写真を持ってるってことは……。
「どうやら、あいつらは本気で私を引き抜くつもりのようだな。」
「えぇ、それも本気のようね。」
それに、あの人達が指名するのは、恐らくまた私だろう。
エレナさんだったら瞬殺だったんだろうけど、流石に本格的に武装した大人を相手するとなれば、苦戦は免れないだろう。
攻撃用の魔道具とれば、使い手なんてほぼ関係ないしね……。
「でも、良かったわね。相手がヘンリさんとかじゃなくて。」
「そ、それはそうだけど……。」
そういう問題じゃなくてさ……。
なんで、私がエレナさんを賭けた試合をしないといけないのよって話なんだよねッ!!
「いや、そう上手くはいかないだろうな。」
「へ?」
「よく良く考えみろ、立ち会い人の皇王は勇者側の者達ばかり。おまけに審判や試合の関係者も、恐らく全て勇者側だろう。」
え……。
それって……。
「間違いなく、公平な試合にはならないでしょうね……。」
「くっそぉ…………。」
もしかして、私だけ魔法使えないようにされるとか!?
それとも、馬鹿みたいに重い錘を付けられるとか!?
え、それ無理じゃん……。
いくらあの勇者でも、魔力入れれば出る魔道具使われたら、私死ねるよ?
それ。
「そんな顔しなくても大丈夫よ。どんないんちきをしても、勇者は勇者。あなたには勝てないわ。戦ったことのあるあなたなら分かるでしょ?」
「それはそうだけど……。」
でもさ?
万が一ってこともあるでしょ?
それに私、アトキンス家に来てから負けっぱなしなんだよねぇ……。
あの勇者と、奴隷商の雑魚達にしか勝ててない。
そんな私が、果たしてそんな枷のある状態で勝てるかどうか……。
「まぁ、安心しろ。最悪の場合はお前を連れて帰る。その後はまぁ…………知らんがな。」
「その後が大事なんですけど!?」
養子になっちゃった以上、実は海賊でしたなんて知られたら、他の貴族は絶対にこの弱みにつけ込んでくるだろうし。
そうなったら、私は………………いや?もしかして……。
「ベイリー国にこれが知れたら、私はお前を失踪させなければならん。」
「あ………………はい……。」
そんな都合のいいこと、あるわけないかぁ……。
「とりあえず、事実確認だ。皇城に行くぞ。」
「いいえ、その必要はないみたいよ。」
ん?
リディア?
何を言って…………。
「ほら、あれ。」
そう言って、リディアは窓の外を指した。
「ん?…………外?………………ぇ?」
「ほぅ……。やるな、あの勇者。」
窓から外を見ると、夜の遅い時間にも関わらず、通りは多くの人で賑わっていた。
「夕飯…………にしては…………遅いよね……。」
「そうね。それにみんな、何かを見ているようだし。」
確かに……みんなお店の前に集まってるのに、中に入る気配がないような……。
しかも、何故か集まってる場所は偏ってるようだし……。
「でも、この光景…………どこかで……。」
――でも、不思議ね。
――ん?何が?
――お店よ。
―お店?
――分からない?人が集まってるお店が、少し偏ってるのよ。
「まさかっ…………!!」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年6月25日を予定しております。
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