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10.マルアイ

 エレナさんに連れられるがまま街を歩いていく。

 最初は治安が悪いのかな?と思っていた街も、こうして見るととても賑やかで、笑顔が溢れていた。


「人が多いね……。」

「もうすぐ日が暮れるからじゃない?」


 確かに、街に並ぶお店の中でも、飲食店は特に賑わってる気がする……。


「でも、不思議ね。」

「ん?何が?」

「お店よ。」


 お店?


「分からない?人が集まってるお店が、少し偏ってるのよ。」

「飲食店がでしょ?そりゃ夜だから外食をしに来る人は多いんじゃない?」

「いいえ、飲食店に限らずよ。それにほら、あそこ。」


 そうしてリディアが指したのは、()()()()と書かれた、一つの飲食店だった。

 美味しそうなパスタの看板を立て、売り子の女性がお客さんを呼びこもうとしている。

 しかし、その店に入るお客さんはおらず、お店の中にもお客さんがいる様子はなかった。


「不自然なほどに、客がいない。他にも…………ほら。」


 そう言ってリディアが指した数店舗も、不自然なほどにお客さんが入っていなかった。


「美味しくないのかな?」

「いいえ、そういう感じじゃないみたい。」

「え?なんで……。」

「ほら、通り過ぎる人達。“可哀想に……。“とか、“ごめんな……。“とか言ってる。」


 え……?

 なんでそんなこと……。

 っていうか…………。


「なんで分かるの?私、聞こえなかったけど……。」

「読唇術よ。口の動きで何を話してるのかを読むの。」

「へぇ…………。」


 だから、サウナの時も、宿の人が何を言ってるのか分かったのね……。


「それにしても…………普通に美味しそうじゃない?」

「そ……そうね……。後で寄ってみましょうか。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふぅ……。美味しかったぁー。」

「えぇ。流石皇族御用達のお店ね。」


 まぁ、値段も凄かったけどね……。


「シャーリィー。私は用があるから、こいつらを宿まで送ってくれ。」

「畏まりました。」


 そう言って、エレナさんは一人、夜の街に消えていった。


「でも、量が少なかったよねぇ……。」

「そ、そうね……。」


 私がニヤニヤしながらそう言うと、リディアは少し頬を赤らめながらそれに同意した。


「どこか……よりますか?」

「うん!あそこよろ!」


 そう言って私が指したのは、来る途中に見つけた、売り子さんのいるお店、マルアイ。


「あ、あそこですか?あまり人気がなさそうですが……。」

「いいのいいの!ね?」

「ッ………………!」

「リディア?」

「え、あ、そうね。」

 

 うーん……沢山食べるのが恥ずかしいのかな?

 でも、さっきのお店、全然量がなかったから、お腹がすいて当然だと思うけど……。


 そうして、お店に近寄ると、売り子の女性がこちらに駆けてきた。

 

「もし良かったら、うちで食べて行きませんか!?」

「はい、是非!」

「ぁ………………ぅ……………………ど、どうぞこちらに!」


 すると、一瞬女性は涙を浮かべた後、取り繕うように笑みを浮かべた。


 お店の中に入ると、美味しそうな香りが店内から溢れてきた。


「どうぞ、お好きな席へ。」


 そうして、適当な席に座り、メニュー表を手に取る。


「リディアはどれにする?」

「そうね、私はこれ。」


 そうしてリディアが指したのは、海鮮入りのパスタ。


「シャーリィーは?」

「え?…………あ……私は……。」


 ――ぐぅ……。


「………………こ、これで。」


 シャーリィーが赤面しながら指したのは、赤いソースに、白い粉の掛けられたパスタだった。


「じゃ、私はリディアと同じにしよ!」


 そうして、私達は売り子の女性にパスタを注文すると、少しして、美味しそうなパスタが運ばれてきた。

 

「美味しそぉ……!」

「…………そうね。」


 そうして、フォークに巻いて一口に運ぶ。


「美味しぃ!!」

「凄いわね、これ……!」

「はい、さっきのお店と遜色ありません!」


 海鮮の味と、優しいクリームの味が絶妙に絡み合って、すごく美味しいっ!!


「ありがとうございますっ!」


 私達の声が聞こえたのか、厨房から出てきた売り子の女性は、嬉しそうにそう言いながら、また涙を浮かべた。


「あなた、さっきも泣いていたわね。」

「はっ!す、すみません!」


 り、リディア……。

 そういうのは、あえて見過ごすものじゃ……。


「それで、教えてくれるのかしら?」

「え?」

「なんで、こんなにお客さんが来ないのか。」

「っ…………!」

「ちょ、リディア!」


 いくら何でもそれは……っ!


「気づいていたんですね……。」


 すると、売り子の女性は、悲しそうに微笑んだ。


「………………ここに来る途中にね。」

「来る途中?」


 来る途中に、何かあったっけ?


「ここの近くにあるお店に並んでいた人が言ってたの、“ここは、勇者様が好きなお店よ“ってね。」

「えっ…………?」


 ――勇者様が好きなお店?


「それに、この精皇国では、勇者の影響力はそこそこあるようだし。」


 そういえば……。


 ――商人の方から、これからこの道に勇者御一行様が通るから道を開けた方がいいと。


「それって…………まさかっ!!」

「えぇ。恐らくこのお店は、勇者が()()なお店なんでしょうね。」


 に、苦手って……。

 

「でも、勇者の陰口を言ってる人もいたよね?」

「あれは商人達よ。国を行き来する商人は、別にこの国に居座る必要もないでしょうからね。」


 確かに、言われてみればあの商人達の中には人族も多かったし、みんな馬車だった!


「でも、ここは違うんでしょう?」

「…………はい。ここは、……昔から家族で営んでいるお店なんです。」


 ん?

 家族?

 でも、ここには…………。


「でも、ここには貴女しかいないわよね?」

「…………えぇ、二人とも、去年亡くなりました。」

「え……?」


 亡くなったって……。

 

「父は新商品の食材を探そうと森へ行った際に、魔物に殺されて、母はそれを追うように自殺を。」

「そ、そうなの……。」

「ってことは、それからずっと一人でこのお店をッ!?」

 

 食費とか、税とか、色々あるでしょうに……。


「………………はい。」


 なんで…………なんで…………っ!


()()()()ですね。」


 シャーリィー?


「何がおかしいのかしら?」

「考えても見てください。あの勇者が、これほどのお店をここまで追い込めると思いますか?」

「そ、それは…………。」


 的を射たシャーリィーの疑問に、口を紡ぐリディア。


 でも確かに、あの勇者がこれほどの影響力を持てるとは思えない。

 逆に、嫌われていても不思議じゃないくらい。


 それに、ここのお店のパスタは美味しいし、店内も清潔感があった。

 なのにどうして………………あ!


「………………それは……。」

「騎士!」


 勇者と一緒にいた、あの人達だ!

 

「騎士?」

「なるほど、勇者の()()()()()()()ですか。」


 もし、勇者の周りにいた騎士が、皇族に従える騎士ではなく、どこかの高位貴族に従えている騎士だったとしたら、国民はその貴族に脅えて、勇者を敵に回さないように振る舞っても仕方ないだろう。


「でも、一体誰が……。」

「…………ドゥーセ伯爵様です。」

「伯爵ですか……。」


 思ったより大物だった……。

 すごくても子爵くらいだと思ってたんだけど……。


「そう、なら私達には、何も出来ないわね。」

「え?」


 リディア、助ける気あったんだ……。


「あのねぇ……。私だって多少の善意くらいあるわよ。でも、貴族はダメよ。」

「そうですね。」


 リディアがそう言うと、シャーリィーも申し訳なさそうに同意した。


「なんで貴族はダメなの?」

「それは、我々が非公式に入国しているからですよ。」

「非公式?」

「私達は皇族の許可なしに入国してますからね。賊ならともかく、貴族相手に何かすることはできないんですよ。」


 た、確かに……私も勝手にとはいえ、養子になっちゃったわけだし……。

 そんな私が他国の貴族と喧嘩したりしたら、間違いなく問題になるよね……。

 アトキンス家にも迷惑をかけちゃうし……。


 まぁ、もう沢山迷惑かけられてるけどねッ!!

 なんか精皇国連れてこられてるしッ!!


 だからいっそ開き直って……。


「ありがとうございます。」


 すると、突然売り子の女性は、そう言って私に頭を下げた。


「え…………?」

「私は、私は…………ここの料理が美味しいと言って下さるだけで…………それだけで満足ですから。」


 そう言って、売り子の女性は笑みを浮かべた。

 

 ――頬を伝う、一筋の涙とともに……。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


次回の投稿は2025年6月10日を予定しております。


また、誤字報告も合わせてお願いいたします。

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