09.迷惑【2視点】
◆メラルダ◇
「そうですか…………そんなことが……。」
宿の人から話を聞きいたキャーレ皇子は、一瞬険しい表情を作った後、すぐに笑顔で「分かりました。」と言うと、女の子の頭を優しく撫でた。
「それなら、私が言ってきましょう。」
「そ、それは……。」
「その方が早いでしょう。その代わり、一つお願いが。」
その後、キャーレ皇子は何やら宿の人に耳打ちをし、宿の人がそれに対して頷くと、彼は満足そうに天幕を捲って中に入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆キャーレ皇子◇
「はぁ…………。」
私はただ、エレナ様にご挨拶をしに来ただけなのですが……。
まさか、その前に寄ったサウナでこんな問題に遭遇するなんて……。
脱衣所をスルーし、そのまま浴室へ向かう。
ここはサウナ用の大浴場のため、浴室にはシャワーと水風呂、そして一種類の内風呂しかない。
にも関わらず、中には多くの民がサウナを楽しむために訪れていた。
「こ、皇子殿下!?」
「こんにちは。少しお邪魔しますね。」
驚く民にそう告げ、私はそのままサウナへと入った。
扉を開けると、熱風が溢れ、程よい熱が全身を包む。
この服を脱げたら、どれだけ気持のいいことか……。
「こ、き、キューレ皇子殿下ッ!?」
中に入ると、誰かがそんな声を上げた。
そうして、みなの注目が私に集まる中、明らかに周りとは違う格好の少年が一人。
「あなたは、宿の方ですか?」
「は、はい!新人の、ナル・リーゼと申します。」
「そうですか。」
ということは、彼の向かいにいる彼が……。
確かに、イカつい顔をしていますね。
はぁ……。
こういう顔の迷惑客は、大抵自己中心的な考えなんですよね……。
恐らく、睨むだけで大抵の方は参ってしまうのでしょう。
まぁ、今はその逆のような気もしますが。
「なッ………………!」
「初めまして。私のことはご存知ですか?」
「も、勿論……」
「では、ここが皇族御用達の宿であることもご存知ですよね?」
そう言いながら、私は彼に顔を近づけた。
「お子様と入りたいのなら、事前に入れるのかをご自分で確認してはいかがですか?ここは、あなたの宿ではなく、この新人は、あなたの使用人ではないのです。」
「は、はぃ!!も、もう訳ございませんでしたぁぁぁ!!!」
はぁ……。
張合いがないどころか、言い返すことすらしないとは……。
私が少し言っただけでこれなら、私が来る前に大人しく出ていって欲しいものです。
「あなたも戻りなさい。お仕事の途中でしょう?」
「は、はい!ありがとうございました!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆メラルダ◇
「くそっ…………!」
ん?
今、なんか聞こえた?
「どうやら、上手くいったようね。」
リディアそう言って笑うと、天幕の中から慌てた様子で男が出てきた。
その顔色は真っ青で、着ている服も酷く乱れている。
「い、行くぞ!」
「ぇ…………?」
すると、男は娘を脇に抱えて走り去って行った。
「あれが?」
「は、はい……。」
まさか、あれほど態度が変わるとは思っていなかったのか、呆然と男が出ていった方向を見つめる宿の人。
「気にしなくてもいいですよ。ああいう方は無駄な反抗をして、気持ちよくなりたいだけですから。」
そう言いながら、キャーレ皇子は少年を連れて出てきた。
「あと、新人とあのような者を二人にするのはいけませんよ?ああいう阿呆は、自分より格下だと感じた相手にはどんどん傲慢になりますからね。」
「かしこまりました。キャーレ皇子殿下、この度は本当にありがとうございました。」
そう言って、宿の方々は深く頭を下げた。
「いえいえ。」
そう言うと、キャーレ皇子は連れてきた少年の頭を優しく撫でながら、「よく頑張りましたね。」と声を掛けた。
「ぇ……。」
「無視することも出来たはずです。あなたは新人なのですから、サウナの前で待っていても、誰も文句は言わなかったでしょう。にも関わらず、あなたは最後の最後まであの阿呆を説得し続けていましたね?それは、とても素晴らしい行為です。」
そう言って、キャーレ皇子は懐から一枚の硬貨を取り出し、少年に持たせた。
「これは、私からあなたへのご褒美です。よく頑張りましたね。」
「こ…………これは…………。」
「では、私はこれで。」
そう言って去っていくキャーレ皇子に、少年は再び深く頭を下げた。
「私達も行きましょうか。」
「うん、いいものを見たね!」
正直、最初は精皇国の治安は悪いのかな?って思ってたけど、キャーレ皇子を見るに、どうやらただの偶然だったようだ。
部屋へ帰る途中、受付付近を通ると、先程の迷惑客は既にいなくなっていた。
恐らく、ここを通ったキャーレ皇子にビビって帰ったのだろう。
「はぁ……。なんか疲れた。」
「そうね。」
そうして、部屋の前につき扉を叩くと、内側から「少し待て。」という声がした。
「私達も、鍵を貰っておけば良かったわね。」
「後でシャーリィーさんに頼んでみよっか!」
――ガチャ。
すると、鍵の開く音がなり、ゆっとりと扉が開く。
「ただいま!エレナさ…………」
「お帰りなさい。」
「ん………………????」
扉を開けてくれたのは、エレナさんではなく、何故か先程あったキャーレ皇子だった。
「へ、部屋…………間違えた?」
「いいえ、間違いないわ。」
気になって部屋の番号を確かめるも、その番号は、案内されたものと同じ。
つまり…………。
「ようやく帰ってきたか。」
「え、エレナさん………………。」
キャーレ皇子はエレナさんに会いに来る為にわざわざここへ!?
こ、皇族から来るって、そんなことあるのかな………………?
「どういうこと?皇族と会うのは、まだ先になるんじゃなかったの?」
「あぁ、その通りだ。こいつはただ私に会いに来ただけだからな、気にするな。」
皇族をこいつって……。
「あの…………シャーリィーは?」
「あいつは皇城に行っている。日程調整のためにな。」
なるほど……。
でも…………皇族ここにいるよね?
わざわざ行く必要あった?
「だが、お前が来ると知っていれば、シャーリィーを行かせずに済んだ。」
「そんなことないですよ。私だって父上には会えないんですから。」
え…………?
「そんなに忙しいのか?皇王は。」
「はい。カームネスの方々も来られましたが、対応をなさったのは兄上でしたし。」
あれ?
ってことは、もしかしなくても、結構長く滞在する感じになりそう?
「恐らくエレナ様がお会いになるのも、兄上になるかと。」
「まぁ、形式的な報告が出来ればそれでいい。なんなら、お前に話してもいいんだが……。」
「それは流石に……。私はそういう事には疎いですから。」
そっかぁ…………残念。
せっかく早く帰って…………帰って…………も、何もすることないかも……?
「そういえばエレナさん、どこかに行く予定でもあったんですか?」
「ん?なんのことだ?」
「だってさっき、ようやく帰ってきたかって言ってましたよね?」
私達が出てからそう時間は経ってないはずなのに。
まるで、私達を待っていたかのような反応だった。
「あぁ。」
すると、エレナさんはどこからか、三枚の紙を取り出した。
「こいつがさっきこれをくれてな。」
「これって……。」
そう言って渡された紙を見ると、そこにはプルーマと書かれていた。
「プルーマ?」
「私がよく行っているレストランですよ。今日予約をしていたのですが、急遽予定が入ってしまいまして。」
こ、皇族が予約するレストランってことは……!!!
「だからお前らを探しに行こうと思っていたのだが、丁度よかった。」
「はいっ!」
「す、すごい食いつきね……。」
いや、そりゃそうでしょッ!!
だって、皇族御用達だよ!?
そんなの……そんなの………………美味しいに決まってるじゃんッ!!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年6月10日を予定しております。
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