08.入国
「ねね、リディア。」
「何?」
「あの世界樹の根って、どこまで伸びてるのかな?」
世界って言うくらいだから、世界中?
「この大陸くらいじゃない?」
「へ?」
み、短くない?
世界樹だよ?
「適当よ。こんな古い大樹の構造なんて、知ってるわけないじゃない。」
「そ、それもそっか……。」
そういえば、リディアもここに来るのは初めてだったもんね。
「それに、こういう話なら、私達の前に適任がいるじゃない。」
「そ、それは…………そうなんだけど……。」
「ん?私か?」
いや、そうですけど……。
でも、なんかエレナさんに聞くと勉強会みたいになりそうで…………その…………。
「私だって知らんぞ?あれは私が産まれる前からあったものだからな。」
「そう、残念ね。」
「だが、あの世界樹には世界の土台と言われるほどの魔力が宿っている。」
世界の土台……。
「なら、なんでそう書かねぇんだよ!」
すると、突然外から怒声のような声が聞こえてきた。
ん?
何か、また嫌な予感…………というか声。
すると、馬車が止まり、コンコンとノックの後、「失礼します。」と言う声が聞こえ、ゆっくりと小窓が開いた。
「到着しました。」
「そうか、ご苦労だったな。」
「いいえ、とんでもございません。馬車を止めて参りますので、宿の中でお待ち下さい。」
「分かった。」
うーん…………。
ここで到着か…………。
「行くぞ。」
そうして、エレナさんが馬車の扉を開けると、案の定。
その宿の前には、何やら揉めている人達がいた。
「お荷物は後ほど。」
「あぁ、頼む。」
しかし、エレナさんはシャーリィーさんと軽くそう言葉を交わすと、まるで揉めてる人達に気づいていないかのように、華麗にスルーした。
そうして宿に入ると、一人の年配の男がこちらまで近づいてきた。
「ようこそお越しくださいました、エレナ様。」
「久しいな。」
「お疲れでしょう。お部屋までご案内致します。」
そう言うと、年配の男は「こちらです。」と言いって私達を部屋に案内してくれた。
道の途中は、人工の滝や、綺麗な川など、まるで自然の中の宿かのような光景が広がっており、感嘆するばかりだった。
「こちらが、お客様方のお部屋となります。」
「他の客とは、随分離れた場所なのね。」
「ご不満ですか?」
「いいえ。」
そっか……。
エレナさんもそうだけど、戦争の相手であった魔帝国の王族のリディアも、違う意味で騒ぎになりかねないのか!
まぁ、何もしなければ人族で通りそうだし、バレることはなさそうだけど…………この人は、それも考慮して……!
「入るぞ。」
「え、あ、はい。」
こう、少しはさ、凄い!とか思ったり…………しないかぁ……。
まぁ、エレナさんは知り合いみたいだったし、こういうのも慣れたもんなんだろうけど……。
そんな事を思いながら部屋に入ると…………。
「へぇ…………畳みかぁ……。」
「え、何それ?」
あれ?
リディアは知らないのかな?
「これはね、靴を脱いで歩く床なの。」
「へぇ…………そんなものがあるのね。」
「ほぅ……。これを知っているのか。」
「え、あ、はい。」
そういえば、こんな知識どこで知ったんだろう……。
もしかして、転生前の知識とか?
「そうか。」
「それで?これからどうするの?」
「私はここで少し休む。お前達は観光にでも行ってきたらどうだ?」
そう言ってエレナさんは畳に上がり一番手前の座布団に座ると、ささっと用意されていた茶葉を適量ティーポットに入れ、紅茶を作り始めた。
「そうね。」
「え?」
「たまにはこういうのもいいんじゃない?安心して、私が魔帝国の王族だなんて、バレることはないから。」
いや、それもあるけど……。
そういう問題じゃなくて……。
「私達子供だし、やっぱり保護者同伴の方が……。」
「勇者に勝てる子供は、子供とは言わん思うと思うが?」
ぐぅぅ…………!!
あー言えばこう言う!!
「行くわよ。」
「え、う、うん……。」
はぁ…………。
せめて、入口の揉め事が終わってると言いけど……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「だからっ!部屋が空いてないってなら、その証拠を出せっつってんだろッ!!」
「し、証拠と申されましても…………。」
あー、まーだやってる……。
「精皇国は、思ったより治安が悪いようね。」
「そ、そうだね……。」
それにしても……なんでこの人はこんなにここに拘ってるんだろう?
見た限り、他にも宿は幾らでもありそうなのに……。
「これは外に出たら巻き込まれそうね。」
「う…………うん……。」
うーん、宿の中で暇を潰せるものとかないなぁ……。
ん?
「ねぇ、あれ!」
そう言って私が指したのは、受付横に立てられた看板。
「サウナ?」
「うん!」
そうして、案内に沿って道を歩くと、男女別に書かれた二つの天幕が下げられた道に分かれていた。
「へぇ……。」
「さ、行こ!」
「あの…………お客様?」
すると、先程部屋まで案内してくれた年配の男の人と同じ服を着た男の人が、遠慮がちに声をかけてきた。
「はい?」
「その…………ご年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ね、年齢?
うーん…………。
私って…………何歳なの?
「十二歳よ。」
え、リディアって十二歳なんだ……。
「わ、私もです!」
「……………………。(じー。)」
そんな目で見るなぁ!!
いいでしょ!
多分似た歳なんだからぁ!!
「も、申し訳ございませんが、十二歳以下のお客様のサウナはお断りしておりまして。」
「あら、それは残念ね。」
そっかぁ……。
なら、部屋で適当に時間を潰すか、入口のあれが終わってることを祈るしか……。
すると、男性の方の天幕から、宿の人と思われる男性に連れられて一人の女の子が出てきた。
しかし、その子は服ではなく、一枚の大きな布を羽織っており、今にも泣きそうな表情をしている。
「え…………。」
すると、女の子を連れた男性は、「ちょっと……。」と手招きで、先程まで私達と話していた男の人を呼ぶと、何やら耳打ちを始めた。
「ど、どうしたんだろう?」
「………………どうやら、また厄介なことが起こってるみたいね。」
「そ、そうだね……。」
でも、本当にどうなってるんだろう……この宿。
エレナさんがよく泊まってるみたいだから、良い宿なはずなんだけど……。
「どうやら、あの子の親が、子供を置き去りにしてサウナに入り浸ってるみたいよ。」
「へ?」
「自分の子供が入れないと聞いて、逆ギレしたみたい。自分はサウナを入りに来たとか、無理ならせめて子供の面倒を見てろとか、そんなことどこに書いてあんだ、とか言って、宿の人を困らせてるみたいよ?今は新人さんが対応しているみたい。」
え、えぇ…………。
「で、でもその人の言うことも一理あるのかな?年齢制限なんて書いてなかったし……。」
「この先に書いてあるみたいよ。あと、基本受付の時にも言われるみたい。私達はシャーリィーが予めやってくれてたみたいだから、何もなかったけど。」
え?
じゃあ、本当にヤバいだけのお客さん?
「それに、多分サウナを担当してるのは、基本男女一人ずつみたいね。だから、この人も子供の面倒は見れないみたいよ。」
「そっか……。」
「ほんと、無責任な親よね。」
涙目の子供に「大丈夫ですよ。」と言いながら、優しく彼女の頭を撫でる男性。
それだけで、一体どれだけ情けない親かが伝わってくる。
「どうかなさいましたか?」
すると、後ろから覗き込むように誰かが声をけてきた。
「ん?」
「誰、あなた。」
気になって後ろを向くと、そこには中性的な顔をした人が立っていた。
服がやけに豪華だから、精皇国の貴族とかかな?
「何かありましたか?」
「き、キーリィー皇子殿下ッ!!」
「「なっ…………!!」」
こ、皇子殿下だってぇぇ!?
「っ…………!」
すると、リディアは素早く私の後ろに隠れた。
って、もしかして…………バレた!?
「な、何でもございませんよ!皇子殿下。」
「嘘は良くありませんよ?そこの女の子が、何よりの証拠です。」
「そ、それは…………。」
わけないかぁ……。
それにしても……この人が困るのも仕方がないよねぇ…………。
だって、迷惑なお客様がいて困っているなどと伝えてしまえば、それはこの宿の者には対応力がないと思われかねないし。
でも…………。
「皇族御用達の宿に何かあっては、私達がお呼びした方々にも面目が立ちません。」
そう言われてしまえば、彼らも話す他ないだうけど。
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次回の投稿は2025年6月5日を予定しております。
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