07.精皇国【3視点】
◆メラルダ◇
「え、えぇ…………?」
まさか、これで終わりなの?
いやいや、そんなまさか。
相手は勇者だもん!
きっと、回復しようとしたのも普段の癖が出ただけで……。
「それで、勇者よ。どうするんだ?」
「ど、どうするって……。」
「続けるのか?」
ん???
なんでそんな当たり前のことを聞いてるんだろう?
そんなの、続けるに決まって……。
「や、やめる!降伏するからっ!!早く回復をっ!!」
る…………はず…………なんだけど…………。
降伏しちゃったよ……。
「…………そうか。」
その瞬間、私達を囲んでいた結界が解けた。
そして、回復魔法が勇者まで届く。
「ふぅ…………。よし!次こそ手加減は」
「お前、何を言っている?」
「え、何って試合を」
「決闘なら、お前の負けに決まっているだろう。」
うーん。
これって、天然ってやつなのかな?
「な、なんで……!君は、僕の仲間になりたくて……。」
「本当に愚かね。」
「なっ…………!」
リディアさん?
「勇者ごときが、エレナ殿を本気で仲間にできるとでも思ったの?」
「餓鬼が何をっ…………!」
「少しは周りを見なさいよ。」
え?
周り?
周りにいるのって…………。
「おいおい、マジでエレナ様を引き抜こうって思ってたのか?」
「嘘でしょ…………。それって、あのアトキンス家を敵に回すってことよね!?」
「こいつら、歴代の英雄達を敵に回す気か?正気じゃねーな…………。」
「あぁ。幾ら勇者様でも、これはさすがに……。」
商人が……勇者の陰口を?
「なっ…………!」
その光景に、絶句する勇者。
しかし、他の三人はさも当然といった様子で勇者を見ていた。
「な、なんで…………。」
「当然でしょ。だって、あなたには何もないんだもの。」
わーお、辛辣ぅー!!
「な、何を言って……!」
「なら、あなたは彼らに何かしたの?」
「あ、当たり前だ!それこそ、俺達はさっきAランクの魔物を倒してきたばかりなんだからなッ!!」
――え?
「そう。ますます終わってるわね、この勇者。」
「っ…………!さっきからなんなんだお前ッ!!」
「今、精皇国では、犠牲になった騎士達の葬儀が行われているわよね?」
あぁ!
そういえば、エレナさんが道中話してた!
確か――――――
「え?直ぐに面会できないんですか?」
「あぁ。恐らく、犠牲になった騎士の葬儀が行われているだろうからな。」
犠牲……?
「犠牲は、出さなかったんじゃ……。」
「無論、私達は誰も殺していない。殺したのは、暗殺者ギルドだ。」
「なるほど、確かにすぐは無理そうね。それに、その後も精皇国は禁忌魔法の調査で忙しいだろうし。」
――――とか言ってたっけ。
「仮にそれが終わっていたとしても、騎士達は外に出る暇もないほどに忙しいはず。だから、多くの冒険者はギルドの要請に従って、遠くのダンジョンではなく、近くの森などに住む魔物を狩っているはずよ。騎士達の変わりにそれをすることで、少しでも民が魔物の被害に遭わないように。」
要請とは言っても、多分これは任意だろう。
そこまで緊急でもないし、冒険者全体に呼びかけるほどでもないだろうから。
でも、確かにこの周囲にいるのは、私の見る限り商人だけ。
商人を護衛している冒険者はいても、クエスト帰りの冒険者はいないと思う。
「でも、あなたが来た方向はベイリー王国側。その言い方的に、ベイリー王国と精皇国の間のダンジョンのどこかでしょう。そんな遠くの、緊急性の薄いダンジョンの下層の魔物を倒して、一体誰が喜ぶのかしら?」
「そうだな。まぁ、それは騎士の使命を疎かにして勇者に付き添っている、お前達にも言えることだが。」
そうしてエレナさんが周囲にいる騎士達を見ると、騎士達ばビクッと震え、顔を青ざめさせた。
「まぁ、お前らに言っても無意味かもしれんがな。」
そう言って、エレナさんは身を翻した。
「もう行きます?」
「あぁ。少しは暇が潰せるかと思ったが、無駄な時間だったようだ。」
「そうね。これならまだ精皇国を散歩していた方が、よっぽど有意義だったわ。」
相変わらず辛辣……。
「おい、待てよ。」
すると、勇者御一行のもう一人の男がエレナさんを呼び止めた。
「なんだ?」
「取引だ。」
そう言って男は、懐から取り出した巾着をエレナさんに放った。
「取引だと?」
「その金は、俺の全財産だ。これで今日のことは黙っていてれないか?」
「ほぅ…………。」
そう言ってエレナさんは、軽く中身を確認すると、一瞬笑みを浮かべた後、巾着を男に投げ返した。
「いらん。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆陽大◇
「クソっ…………!!」
――ゴンッ!!
「ちょっと……!」
「なんでだッ!!せっかく誘ってやったというのにッ!!」
おかしいっ!!
勇者パーティーに入れば、楽に大金を稼げるッ!!
それだけじゃない!
僕達勇者パーティのことは、あのドゥーセ伯爵が支援してくれているっ!!
騎士達も貸してくれるし、お金だってくれるッ!!
だからみんな、是非勇者パーティに入りたいと……!
なのに…………なのにッ……!!
「相手が悪かったな、勇者さん。」
「………………どういうこと?」
「あいつはエレナ・モナンジュ。精皇国の創設者にして、英雄王と呼ばれている。」
「なっ…………!」
だから騎士達の様子がおかしかったのかッ!!
「そして、あのアトキンス家の団長でもある。」
アトキンス家?
英雄王とすら呼ばれた女が、今は一貴族の団長を?
「なんで……?」
「さぁ?そこまでは知らねぇ。」
「そうか。」
でも、もしかしたらこれは…………。
「お兄ちゃん、しっかり伝わってないみたいだよ?」
「まぁ、いいんじゃね?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆シャーリィ―◇
「身分を証明するものはありますか?」
「これを。」
関所の役人に、アトキンス家の紋章の入った手紙を渡した。
「これは…………アトキンス家の紋章ッ!?」
「はい。実は――――――。」
そうして、私は簡単に事情を役人に説明した。
勿論、暗殺者ギルドなどは伏せて。
「――――という訳です。」
「畏まりました。お連れの方も?」
「はい。団長もおられます。」
「なっ…………!」
やっぱり、驚くわよね。
この国で団長を知らないエルフなどいないでしょうし。
「ご確認なさいますか?」
「い、いえ、大丈夫です!どうぞ、お通り下さい!」
一応聞いてみたけど、やっぱり役人は確認はせず、それどころか、手と首をぶんぶん振りながら断ると、そう言い残して、次の人の元へと向かって行った。
「やはり、確認はないか。」
すると、背後の小窓が開き、中からエレナ様が声をかけてきた。
「はい。流石の役人も場所を選んだようです。」
本当は、エレナさんの姿を見たくてたまらなかったでしょうに。
「それにしても、精皇国かぁ…………。」
「そういえば、メラルダ様は初めてでしたね、精皇国。」
「うん!」
それなら…………!
「それなら、驚くと思いますよ?」
「え…………?」
そうして、関所を抜けると……。
「凄い…………!」
視界に写ったのは、街の中心を囲むように建てられた無数の建物。
そうして……。
「あれはなんですか!」
「あれは世界樹ですよ!」
昔から変わらない、街の中心から聳え立つ巨大な世界樹だった。
「綺麗……!」
「そうね。私も来るのは初めてだけど、まさか精皇国がこんなに発展してるなんて。」
確かに、魔帝国の人が精皇国のことを知ってるはずないわよね。
来たとしても、多分関所で追い返されるでしょうし。
「当たり前だろう。国っていうのは、発展競走ばかりするものだからな。」
「そうね。」
本当に、悲しいことよね。
他の国に勝つためなら、今までの文化を潰すことを厭わない。
それが例え、種族間の大切な物だったとしても。
「このまま宿へ向かいますか?」
「あぁ、そうだな。」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年5月30日を予定しております。
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