04.人生の変化は唐突に
「そう、そんなことがあったのね。」
「うん……。」
あの後、エレナさんは「悪かった……。」とだけ言って姿を消した。
そうして、私達はあの場を王国騎士団とカームネス?っていう人達に任せて、屋敷に戻った。
カームネスのイリスさんという方に、簡単な質問はされたけどね。
任務をしてて、何か気づいたことはなかった?とか。
怪しい人を見てないか?とか。
まぁ、どれも首を横に振ることしかできなかったけど。
そうして翌日、自室でボーとしていたところに、リディアが訪問してきた。
「私、間違ってるかな?」
「さぁ?」
「さぁって……。」
そんな適当な……。
「でも、私は嫌いだわ、その男。」
「?」
「あなた、あいつが護衛になるって決まった時、私にお願いしたこと、覚えてる?」
――…………リディア。
――なに?
――一つ、お願いがあるんだけど――――。
――私はこれから、この人と戦う。だからリディアには、この人が本気を出しているか見定めて欲しいの。
「結局言いそびれていたから今言うけど、答えはノーよ。あいつは、最後の最後まであなたに本気を出すことはなかった。」
「………………。」
「あなたは気づかなかったのかもしれないけど、あのメデューサ、本気で戦えばあなたどころか、多分魔帝国の序列三十位は固いでしょうね。」
三十位……。
そういえば、魔帝国って実力主義だっけ……。
「……それって、どれくらい強いの?」
「そうね…………少なくとも、私とあなたじゃ指一本触れられない。」
「………………。」
「にも関わらずあなたとの戦いで、あいつは最後の最後まで手を抜いた。これは、魔帝国では侮辱されているに等しい行為なの。私なら、侮辱罪で殺してるわ。」
「そっか……。」
バチスト、最後まで本気を出さなかったのか……。
「そういえば、あいつ家族を人質にされていたのよね?」
「え、うん。」
「その家族は、どうなったの?」
ん?
そういえば……どうなったんだろう?
「あいつらなら、騎士団の駐屯地で働かせている。」
その時、突然その疑問の答えが扉の向こうから聞こえてきた。
そうして、部屋の扉がゆっくりと開く。
「エレナさん…………。」
「盗み聞きしてたのね。」
入ってきたのは、エレナさんだった。
あれ以降、こうして話すのはこれが初めて。
「悪いな、盗み聞きするつもりはなかったんだが、聞こえてしまってな。」
「それで、働かせてるってどういうことなの?」
リディアがそう問うと、エレナは「そのままだ」と言ってから話を続けた。
「それが、あいつとの取引だったからな。」
「やっぱり。だからあいつは死んだのね。」
だから…………?
「分からないの?あの男はいくら人質にとられて仕方なかったとはいえ、多くの被害者に恨まれてるのよ?報復される可能性のゼロじゃない。でも、彼らはあの男に勝てない事は身をもって知っている。なら、狙われるのは誰かしら?」
「………………家族?」
「そう。だからあいつはその懸念を潰したのよ。…………ねぇ、エレナ殿。あなた、最初はあいつの家族の職しか保証してなかったんじゃないの?」
職だけ?
でも、トラウマくんは生活って……。
「…………そうだ。」
「でも、今の彼女達は職どころか、居場所まで保証されてる。違う?」
「え…………?」
最初は職だけ……でも、今は居場所も……。
そうなったきっかけは……まさか……。
「どっちでもよかったのよ。自分が生きていれば自分が守りつつ、居場所を作れる。もし自分が死んだとしても、アトキンス家の関係者であるあなたを守って死ねれば、その家族を見捨てるようなことを、アトキンス家はしない。」
「でも、アトキンス家が家族を見捨てないなんて保証は……。」
「あるわよ。だってあなた、世間からはアトキンス家の隠し子だって思われてるんですもの。そんなあなたを身った人の家族を見捨てなんかしたら、民にはどう映るでしょうね。」
それは…………確かに、無慈悲に見えるかも……。
「まぁ、それでも自分が確実に守れる保証はないし、あなたを自分の娘と重ねていたのも、事実でしょうけどね。」
つまり、私はまんまと利用されたわけだ。
バチストの家族のために。
「そっか…………。」
「悔しい?」
「まぁね…………。…………私は、何も知らなかったから。」
だってそれは、家族のために死んだということだから。
誰かのために、私の変わりに犠牲になった。
それは、あまり気持ちのいいものじゃない。
「そうね、私も同感。」
「………………そうだな。」
そうだなって…………。
エレナさん、あんなに怒鳴ってたのに……。
「あら?エレナ殿はこれを英雄譚か何かだと思ってたんじゃないの?」
「…………いや、私がどうかしていた。」
そう言って、エレナさんは突然私に頭を下げた。
「悪かった。………………私がどうかしていたようだ。」
「え…………あ…………いえ。」
「よくよく考えれば、大して知らない男が自分の為に命を落としても、気持ち悪いとしか思えないよな。それが、犯罪者なら尚更。」
……………………。
「それで、あなた何しに来たの?ただ謝りに来たわけじゃないんでしょ?」
「………………あぁ、お前に頼みがあってな。」
「頼み?」
こんなことがあった後に?
…………あ…………もしかして……出ていって欲しいとかかな……?
エレナさんとの取引は、サーシャちゃんを救うまでだったから。
「はい、それなら明日にでも。」
「?…………そうか。なら、明日玄関でな。」
「………………はい。………………ん?」
え?
玄関?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「で?なんでリディアもいるの?」
「ついて行くからに決まってるじゃない。」
着いて行くって……。
「リディアは王族でしょ?帰らなくてもいいの?」
「いいんじゃない?」
「そんな適当な……。」
「だって私、別に帝位継ぐ気ないし。」
あー、それなら…………いいのかな?
「まぁ……一緒に行けるのから…………嬉しいけど。」
「なら、さっさと行きましょ。」
「え、う、うん。」
「お前らだけで行ってどうする…………。」
え?
声の方を向くと、そこには荷物を抱えて階段を下りてくるエレナさんがいた。
「…………クビ?」
「………………何故そうなるんだ……。」
え?
でも、じゃあその荷物って……。
「というかお前…………何でそんなに荷物を持ってるんだ?」
「え?」
「ただ事情説明に行くだけだぞ?」
…………………………………………ん??
事情説明?
「魔帝国の皇帝にはリシェが説明したみたいだが、皇王には何も言ってなかったからな。」
「え………………。」
え……でも…………。
「私達の取引、もう終わったんじゃ…………。」
「え…………まさか…………あなた何も聞いてないの!?」
「え?」
二人とも、なんでそんなに驚いてるの?
そ、そんなに知ってないと――――。
「あなた、アトキンス家の養子になったのよ!?」
――おかしな…………話だね、確かに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「聞いてませんっ!」
「言ってないからな。」
私の抗議に対し、マイルズさんは表情一つ変えずにそう返した。
「…………あなた、その容姿で王都を駆け回った上に、アルレット殿下の馬車に同伴したそうね?」
「あ…………いや…………それは…………。」
なんでオリビアさんがそれを…………。
「あなたは知らないかもしれないけど、王族の馬車に乗るなんて一般市民ではありえないことなのよ?それに、王子が自ら迎えに出向くなんて…………。その相手が平民の子供だったなんて、そんなことが知れたら大変よ?」
「いや…………それは…………。」
た、確かに……。
「迎えに来た殿下にも責任はあるけどね……。」
「王族からしても、アトキンス家からしても、これしか方法がないのよ。」
そう言って、リディアは意地の悪い笑みを浮かべた。
「諦めるのね。」
「うぅ…………!」
「大丈夫よ、あなたがある程度大人になれば、冒険者になったと言って誤魔化せるようになるから。」
大人って…………。
あと何年ここにいなきゃいけないんだよそれ……。
「それで、あなたの娘はどうなったの?」
「サーシャなら無事、トゥーリアの娘であるのレーリンと契約したわ。」
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次回の投稿は2025年5月15日を予定しております。
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