表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/81

03.身勝手【2視点】

◆ミッテラン◇


 ――これは、私がアトキンス英爵家に入って間もないころ。


「殺しましょう。」

「待て。」


 旦那様より任された任務は、騎士団に同行し、悪質な商売を繰り返している奴隷商人を殲滅することだった。

 勿論、当時は奴隷制度は禁じられておらず、それ故に法で奴らを罰することは不可能。

 それでも旦那様は、国の子供を誘拐し、他国に売りさばく商人達を放置することができなかったらしい。


 そうして、任務は決行された。

 全ては予定通りに進み、奴隷商の関係者は抹殺。

 その痕跡一つ残すことなく、全てが順調に進んだ。


 しかし――。


「こいつらを生かせば、証拠が残る。」

「そうだな。」


 捕まってた奴隷を殺そうとする私を、団長が止めた。


 その時の私には、それが理解出来なかった。

 私達メイドは、旦那様の、そしてお家のために尽くすもの。

 不穏分子は排除するのが当たり前なはず。

 そしてそれは、騎士団も同じだと思っていた。


「なら、ここで私が石化します。」

「それでも痕跡は残る。」

「粉々に砕けばいい。私の魔眼は、魔跡なんて残さない。」

「…………ダメだ。」


 まるで子供みたいだと、そう思った。

 ただ自分の気に入らないことを、ダメという言葉だけで強制しようとする、大人の皮を被った子供だと。


「目的というのは、犠牲がなければ達成できません。」

「――っ!」

「それは、貴方が一番理解しているはずです。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「そんな………………。」


 それは、確かに昔私が言った言葉。

 そして、私が初めて団長に怒られた言葉でもあった。


「さて、大聖獣よ。」

「ん?」

「お前はこのまま、この戦いを続けるつもりか?」


 そう言って肌黒の男は攻撃を止め、一歩下がると、大剣の剣先を私達に向けた。


「ミッテランと、そこの人化した娘。お前らを人質にとれば、お前の捕縛など余裕だ。」

「………………。」

「俺がそれを選ぶ前に、懸命な判断をして欲しい。」


 どうする?

 逃げる?


 でも、私の足で逃げて追いつかれない保証がどこにある?

 それに、あの白黒の男が介入してこない保証もない。


 もし、あいつが介入してこれば、私達は……!


「下衆が…………!」

「なんとでも言え。」


 そう言って肌黒の男はトゥーリア様に近づいた。


「母上ッ…………!」

「くそッ………………!」


 このまま見ていることにか出来ないのッ!?

 このまま………

 

「成程、そういう事か。」


 その瞬間、突如眩い光が私達を襲った。


「なっ!?」


 ――ボトッ…………ガンッ!


「くっ……!」


 呻き声?


 そうして、光が収まると、そこには切断された腕を押さえる黒肌の男がいた。


「あなたは…………。」

「…………なぜお前がここにいる。フェオドール・ドレイク。」


 ――フェオドール・ドレイクっ!


 ()()()()()が、何故ここに……。


「自己紹介は不要のようだね。」

「ほぅ……。王国の剣聖が、妾に手を貸してくれるのか?」

「手を貸すだなんて。ただお手伝いをするだけですよ。」


 お手伝いって……。


「おっとぉ?これはピンチなんじゃないのぉ?」

「問題ない。」


 すると、黒肌の男の切れた腕から、まるで触手のように腕が生えてきた。


「なっ…………腕が……。」

「ほぅ…………人間をやめたか。」

「君、本当に人族なのかい?」


 あんな再生、いくら魔法でもありえない!

 それこそ、魔帝国の人でもなければ不可能な芸当!


 ……じゃあ、この人は団長ではない?

 でも、さっきの言葉は……。


「でも、これで二対一だね。」

「いや、三対二だ。」

「げっ…………まじぃ…………。」


 その声は、屋敷の方から聞こえた。

 

 御屋敷に背を預け、面白そうにこちらを見る女騎士。

 しかし、そこには一切の隙がなく、今誰よりもこの場を支配しているかの如き覇気を纏った、アトキンス騎士団を代表する女。


「久しぶりだな、化け物。」

「君が言う?僕からしたら君の方が化け物なんだけど?」 


 ――エレナ様っ!!


 エレナ様は、余裕のある笑みを彼らに向けると、一瞬でトゥーリエ様方の近くまで転移した。

 

「では、その白黒の化け物は私に譲ってもらう。」

「ふむ。」

「了解しました。」


 ――自然界最強。

 ――アトキンス英爵家最強。

 ――ベイリー王国最強。


 ここに揃ったのは、そんな現ベイリー王国の最強戦力達だった。


「うーん、これは無理じゃない?」

「…………。」

「ねぇ、死にはしないだろうけど、ここで無茶する必要なくない?」


 白黒の男が、そう言って肌黒の男の肩を揺らす。


「………………そうだな。」

「ほーう、逃げる気か。」


 面白そうにそう言って笑うトゥーリア様。

 しかし、肌黒の男はそれを気にすることなく、「はぁ……」とため息を吐いた。


「残念だ。」

「逃げられるとでも?」


 そう言って、フェオドール様が斬撃を放つ。

 しかし、二人はその斬撃に切られると、まるで黒の泥人形だったかのように崩れていった。


「逃げられたか。」


 そう言ってエレナさんが舌打ちする。

 すると、突然背後に転移の予兆が現れた。

 そして――。

 

「え………………どうして、メラルダ様が?」


 ――そこに現れたのは、メラルダ様だった。


「あの、大聖獣は!?」

「大聖獣様じゃろッ!」


 ――ゴツンッ!

 

「いったぁ!」


 うわ……痛そう……。


「あれ、なんで……。」

「あんな童にやられるわけなかろう。」


 つ、強がってる…………。

 皆様が来て下さるまで、あれほど切羽詰まってたのに。


「じゃあ……!」

「あぁ。」


 そう言ってトゥーリア様が頷くと、メラルダ様はホッと息を吐いた。


「ん?…………そういえばお前、あの護衛はどこいった?」

「……………………知らない。」


 …………置いてきたわね。

 絶対そう。

 

「あぁ、バチストくんならここに……。」


 そう言ってフェオドール様が御屋敷の方を指した直後――。

 

 ――ズボ……。


「ぇ…………。」


 ――その一瞬で何が起きたのか、誰も理解出来なかった。

 

 明らかに、自然ではありえない、生々しい音。

 そうして音の方向に振り向くと、そこには白黒の男の手刃からメラルダ様を庇うように、背中から貫かれたバイストの姿があった。


「っ――!」

「くそッ……!」


 エレナ様とフェオドール様が白黒の男に攻撃を撃つ。


「ちっ……。」

 

 しかし、白黒の男は()()()()()()()()と、そのまま泥となって消えていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


◆メラルダ◇


「ん?」


 変な音が背後から聞こえ振り向くと、そこには何故かバチストがいた。


「ちょ、いつの間に…………」

「……すこ…………し、き…………に……なってな……。」

 

 ん?

 なんか様子がおかしいような……?


「っ…………!」

「ちょっ…………!」


 その時、突然崩れ落ちるバチストを、私は慌てて抱き抱えた。


「ちょ、大丈夫?」

「も……んだい……ない。」

「来なくていいって言ったじゃんッ!」

「いや…………つい……な。」


 ついって……。

 そもそも、なんでここが分かったのよ……。


 それに、なんか濡れてない?

 手がびしょびしょだよ……。


「なんでこんなに濡れて………………濡れて…………。」


 ………………………………………………………………………………………………ぇ?

 なんで……………………赤く……。


 そうして、初めてバチスト越しに背後を見ると、そこには、申し訳なさそうにこちらを見つけるトラウマくんと、地面を睨みつけるエレナさんの姿。

 そして、その付近には、出来たばかりと思われる斬撃の後が屋敷の壁へと続いていた。


 ――ポタっ……。


 そうして、雨など降っていないはずなのに、近くから聞こえる水滴の音。

 その音が何を意味するのかは、見るまでもなかった。


「…………………………まさかッ!」


 私を庇ったの?


「……………………………………………………………………私、言ったよね。……一緒にしないでって。」


 私は、あなたの家族じゃない。


「なのに………………なんでよッ!!!」


 気づけば、私はバチストの肩を揺らしていた。

 強く、強くっ!


「メラルダさんッ!」

「私はあなたの家族じゃないって、言ったじゃんッ!!!」


 トラウマくんに腕を捕まれても、この怒りは静まることはない。

 せめて、もう一度、もう一度目を合わせてッ……!!


「はっ……!エレナさんっ!」

「無理だ。」

「なんでッ!」

「手を抜く際、心臓をやられている。」


 そんな…………。


 気づけば、トラウマくんが崩れ落ちる私を支えていた。

 トラウマくんに支えられ、ゆっくりと地面にへたり込む。


 そうして私は、横になっているバチストに見た。

 私に押され、倒れているバチストを。


「…………………………バチスト。あなた、家族に会えたんじゃないの?」

「………………………………。」

「……………………幸せに、なるんじゃないの?」

「………………………………。」

「……………………ッ!!!なんとか言ってよッ!!!」


 なんで、家族よりも私を優先したッ!!!

 なんで、家族を見捨てたッ!!

 なんで、なんで、なんでッ!!


 ――家族でもない私のために、命を張ったッ!!!


「愚かだよッ!!すっごく愚かだッ!!!何故幻のために命を犠牲にしたッ!!!なんで赤の他人ために家族を見捨てたッ!!!」

「……………………………やめろ、もう死んでる。」


 そう言って、エレナさんは再びバチストに近寄ろうとする私の肩を掴んだ。


「………………それは、彼が償いたかったからだよ。」

「…………はぁ?」


 何言ってんの?

 ってか、なんでここにいるの?

 トラウマくん。


「彼は家族と再会した後、私に君の場所に戻りたいと言ってきた。」

「だから、それがなんでってッ!」

「………………保護された人達を見て、思ったんだろうね。この中には、自分によって人生を狂わされた者もいるのだと。」

「はぁ……?」


 そんなの……家族が人質にとられたから仕方ないんじゃ……。


「彼は私達から見れば家族を人質に取られた可哀想な被害者だけど、彼によって奴隷にされた当事者やその関係者からすれば、彼は自分の人生を狂わせた悪党。この事実は、例えどんな理由があっても覆せない。死なない限りね。」

「それは……そうだけど……。」


 それとこれとは、何が……。

 

「一度黒となった彼には、永遠にそのしがらみから逃れることはできない。もしかしたら、それによって家族が危険な目に遭うかもしれない。」

「…………まさか……。」

「うん。どうやら奥様方の生活は、アトキンス家が保証するらしいね。なら、後はそのしがらみがなくなれば、彼女達は平穏な生活を送れるだろう。」


 だから、犠牲になった?

 それって…………。


()()?」

「違うッ!」

「なっ……!」


 すると、突然エレナさんはそう言って、私の胸倉を掴んだ。


「償うしにろ、やり方なんていくらでもあったはずだッ!!にも関わらず、こいつはお前に命を懸けたッ!!それが何故か分かるかッ!!」

「何故って……。」

「お前という人間に、価値を見出したからだッ!!自分の命を賭けてでも生きて欲しいと、そう思ったからだッ!!」

「……………………。」


 それって、結局押し付けじゃないか……。

 勝手に、自分の命を押し付けて……。


「エレナさん、落ち着いて下さい。」

「それに、メラルダの言うこともあながち間違っておらん。妾からすれば、お主が何故それほど興奮しているのかの方が分からんがのぅ……。」

「っ…………!」

ここまでお読みいただきありがとうございました。


次回の投稿は2025年5月10日を予定しております。


また、誤字報告も合わせてお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ