03.身勝手【2視点】
◆ミッテラン◇
――これは、私がアトキンス英爵家に入って間もないころ。
「殺しましょう。」
「待て。」
旦那様より任された任務は、騎士団に同行し、悪質な商売を繰り返している奴隷商人を殲滅することだった。
勿論、当時は奴隷制度は禁じられておらず、それ故に法で奴らを罰することは不可能。
それでも旦那様は、国の子供を誘拐し、他国に売りさばく商人達を放置することができなかったらしい。
そうして、任務は決行された。
全ては予定通りに進み、奴隷商の関係者は抹殺。
その痕跡一つ残すことなく、全てが順調に進んだ。
しかし――。
「こいつらを生かせば、証拠が残る。」
「そうだな。」
捕まってた奴隷を殺そうとする私を、団長が止めた。
その時の私には、それが理解出来なかった。
私達メイドは、旦那様の、そしてお家のために尽くすもの。
不穏分子は排除するのが当たり前なはず。
そしてそれは、騎士団も同じだと思っていた。
「なら、ここで私が石化します。」
「それでも痕跡は残る。」
「粉々に砕けばいい。私の魔眼は、魔跡なんて残さない。」
「…………ダメだ。」
まるで子供みたいだと、そう思った。
ただ自分の気に入らないことを、ダメという言葉だけで強制しようとする、大人の皮を被った子供だと。
「目的というのは、犠牲がなければ達成できません。」
「――っ!」
「それは、貴方が一番理解しているはずです。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そんな………………。」
それは、確かに昔私が言った言葉。
そして、私が初めて団長に怒られた言葉でもあった。
「さて、大聖獣よ。」
「ん?」
「お前はこのまま、この戦いを続けるつもりか?」
そう言って肌黒の男は攻撃を止め、一歩下がると、大剣の剣先を私達に向けた。
「ミッテランと、そこの人化した娘。お前らを人質にとれば、お前の捕縛など余裕だ。」
「………………。」
「俺がそれを選ぶ前に、懸命な判断をして欲しい。」
どうする?
逃げる?
でも、私の足で逃げて追いつかれない保証がどこにある?
それに、あの白黒の男が介入してこない保証もない。
もし、あいつが介入してこれば、私達は……!
「下衆が…………!」
「なんとでも言え。」
そう言って肌黒の男はトゥーリア様に近づいた。
「母上ッ…………!」
「くそッ………………!」
このまま見ていることにか出来ないのッ!?
このまま………
「成程、そういう事か。」
その瞬間、突如眩い光が私達を襲った。
「なっ!?」
――ボトッ…………ガンッ!
「くっ……!」
呻き声?
そうして、光が収まると、そこには切断された腕を押さえる黒肌の男がいた。
「あなたは…………。」
「…………なぜお前がここにいる。フェオドール・ドレイク。」
――フェオドール・ドレイクっ!
王国の剣聖が、何故ここに……。
「自己紹介は不要のようだね。」
「ほぅ……。王国の剣聖が、妾に手を貸してくれるのか?」
「手を貸すだなんて。ただお手伝いをするだけですよ。」
お手伝いって……。
「おっとぉ?これはピンチなんじゃないのぉ?」
「問題ない。」
すると、黒肌の男の切れた腕から、まるで触手のように腕が生えてきた。
「なっ…………腕が……。」
「ほぅ…………人間をやめたか。」
「君、本当に人族なのかい?」
あんな再生、いくら魔法でもありえない!
それこそ、魔帝国の人でもなければ不可能な芸当!
……じゃあ、この人は団長ではない?
でも、さっきの言葉は……。
「でも、これで二対一だね。」
「いや、三対二だ。」
「げっ…………まじぃ…………。」
その声は、屋敷の方から聞こえた。
御屋敷に背を預け、面白そうにこちらを見る女騎士。
しかし、そこには一切の隙がなく、今誰よりもこの場を支配しているかの如き覇気を纏った、アトキンス騎士団を代表する女。
「久しぶりだな、化け物。」
「君が言う?僕からしたら君の方が化け物なんだけど?」
――エレナ様っ!!
エレナ様は、余裕のある笑みを彼らに向けると、一瞬でトゥーリエ様方の近くまで転移した。
「では、その白黒の化け物は私に譲ってもらう。」
「ふむ。」
「了解しました。」
――自然界最強。
――アトキンス英爵家最強。
――ベイリー王国最強。
ここに揃ったのは、そんな現ベイリー王国の最強戦力達だった。
「うーん、これは無理じゃない?」
「…………。」
「ねぇ、死にはしないだろうけど、ここで無茶する必要なくない?」
白黒の男が、そう言って肌黒の男の肩を揺らす。
「………………そうだな。」
「ほーう、逃げる気か。」
面白そうにそう言って笑うトゥーリア様。
しかし、肌黒の男はそれを気にすることなく、「はぁ……」とため息を吐いた。
「残念だ。」
「逃げられるとでも?」
そう言って、フェオドール様が斬撃を放つ。
しかし、二人はその斬撃に切られると、まるで黒の泥人形だったかのように崩れていった。
「逃げられたか。」
そう言ってエレナさんが舌打ちする。
すると、突然背後に転移の予兆が現れた。
そして――。
「え………………どうして、メラルダ様が?」
――そこに現れたのは、メラルダ様だった。
「あの、大聖獣は!?」
「大聖獣様じゃろッ!」
――ゴツンッ!
「いったぁ!」
うわ……痛そう……。
「あれ、なんで……。」
「あんな童にやられるわけなかろう。」
つ、強がってる…………。
皆様が来て下さるまで、あれほど切羽詰まってたのに。
「じゃあ……!」
「あぁ。」
そう言ってトゥーリア様が頷くと、メラルダ様はホッと息を吐いた。
「ん?…………そういえばお前、あの護衛はどこいった?」
「……………………知らない。」
…………置いてきたわね。
絶対そう。
「あぁ、バチストくんならここに……。」
そう言ってフェオドール様が御屋敷の方を指した直後――。
――ズボ……。
「ぇ…………。」
――その一瞬で何が起きたのか、誰も理解出来なかった。
明らかに、自然ではありえない、生々しい音。
そうして音の方向に振り向くと、そこには白黒の男の手刃からメラルダ様を庇うように、背中から貫かれたバイストの姿があった。
「っ――!」
「くそッ……!」
エレナ様とフェオドール様が白黒の男に攻撃を撃つ。
「ちっ……。」
しかし、白黒の男は腕を横に引き抜くと、そのまま泥となって消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆メラルダ◇
「ん?」
変な音が背後から聞こえ振り向くと、そこには何故かバチストがいた。
「ちょ、いつの間に…………」
「……すこ…………し、き…………に……なってな……。」
ん?
なんか様子がおかしいような……?
「っ…………!」
「ちょっ…………!」
その時、突然崩れ落ちるバチストを、私は慌てて抱き抱えた。
「ちょ、大丈夫?」
「も……んだい……ない。」
「来なくていいって言ったじゃんッ!」
「いや…………つい……な。」
ついって……。
そもそも、なんでここが分かったのよ……。
それに、なんか濡れてない?
手がびしょびしょだよ……。
「なんでこんなに濡れて………………濡れて…………。」
………………………………………………………………………………………………ぇ?
なんで……………………赤く……。
そうして、初めてバチスト越しに背後を見ると、そこには、申し訳なさそうにこちらを見つけるトラウマくんと、地面を睨みつけるエレナさんの姿。
そして、その付近には、出来たばかりと思われる斬撃の後が屋敷の壁へと続いていた。
――ポタっ……。
そうして、雨など降っていないはずなのに、近くから聞こえる水滴の音。
その音が何を意味するのかは、見るまでもなかった。
「…………………………まさかッ!」
私を庇ったの?
「……………………………………………………………………私、言ったよね。……一緒にしないでって。」
私は、あなたの家族じゃない。
「なのに………………なんでよッ!!!」
気づけば、私はバチストの肩を揺らしていた。
強く、強くっ!
「メラルダさんッ!」
「私はあなたの家族じゃないって、言ったじゃんッ!!!」
トラウマくんに腕を捕まれても、この怒りは静まることはない。
せめて、もう一度、もう一度目を合わせてッ……!!
「はっ……!エレナさんっ!」
「無理だ。」
「なんでッ!」
「手を抜く際、心臓をやられている。」
そんな…………。
気づけば、トラウマくんが崩れ落ちる私を支えていた。
トラウマくんに支えられ、ゆっくりと地面にへたり込む。
そうして私は、横になっているバチストに見た。
私に押され、倒れているバチストを。
「…………………………バチスト。あなた、家族に会えたんじゃないの?」
「………………………………。」
「……………………幸せに、なるんじゃないの?」
「………………………………。」
「……………………ッ!!!なんとか言ってよッ!!!」
なんで、家族よりも私を優先したッ!!!
なんで、家族を見捨てたッ!!
なんで、なんで、なんでッ!!
――家族でもない私のために、命を張ったッ!!!
「愚かだよッ!!すっごく愚かだッ!!!何故幻のために命を犠牲にしたッ!!!なんで赤の他人ために家族を見捨てたッ!!!」
「……………………………やめろ、もう死んでる。」
そう言って、エレナさんは再びバチストに近寄ろうとする私の肩を掴んだ。
「………………それは、彼が償いたかったからだよ。」
「…………はぁ?」
何言ってんの?
ってか、なんでここにいるの?
トラウマくん。
「彼は家族と再会した後、私に君の場所に戻りたいと言ってきた。」
「だから、それがなんでってッ!」
「………………保護された人達を見て、思ったんだろうね。この中には、自分によって人生を狂わされた者もいるのだと。」
「はぁ……?」
そんなの……家族が人質にとられたから仕方ないんじゃ……。
「彼は私達から見れば家族を人質に取られた可哀想な被害者だけど、彼によって奴隷にされた当事者やその関係者からすれば、彼は自分の人生を狂わせた悪党。この事実は、例えどんな理由があっても覆せない。死なない限りね。」
「それは……そうだけど……。」
それとこれとは、何が……。
「一度黒となった彼には、永遠にそのしがらみから逃れることはできない。もしかしたら、それによって家族が危険な目に遭うかもしれない。」
「…………まさか……。」
「うん。どうやら奥様方の生活は、アトキンス家が保証するらしいね。なら、後はそのしがらみがなくなれば、彼女達は平穏な生活を送れるだろう。」
だから、犠牲になった?
それって…………。
「自殺?」
「違うッ!」
「なっ……!」
すると、突然エレナさんはそう言って、私の胸倉を掴んだ。
「償うしにろ、やり方なんていくらでもあったはずだッ!!にも関わらず、こいつはお前に命を懸けたッ!!それが何故か分かるかッ!!」
「何故って……。」
「お前という人間に、価値を見出したからだッ!!自分の命を賭けてでも生きて欲しいと、そう思ったからだッ!!」
「……………………。」
それって、結局押し付けじゃないか……。
勝手に、自分の命を押し付けて……。
「エレナさん、落ち着いて下さい。」
「それに、メラルダの言うこともあながち間違っておらん。妾からすれば、お主が何故それほど興奮しているのかの方が分からんがのぅ……。」
「っ…………!」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年5月10日を予定しております。
また、誤字報告も合わせてお願いいたします。




