43.隊長【3視点】
◆バッティアート◇
「隊長」
「なんだ?」
「その、エリ隊長って今、旦那様が戦っていらっしゃるような化け物と戦っておられるんですよね?」
そういや、こいつはさっきまで旦那様の近くにいたんだったな。
なら、その相手も直接見てんのか。
それにても…………化け物ねぇ。
確かに、あの再生能力は化け物というしかないわな。
「まぁ、多分な。」
「急がなくてもよろしいのですか?こんなことを言ってはなんですが、エリ隊長はとても対面での戦闘に向いているとは思えないのですが……。」
「まぁ、苦戦はするだろうな。あの再生能力で不意をつかれて、腹辺りをザグっといってるだろう。」
すると、隣を歩いていた部下の顔から急に血の気が引いた。
「嘘だろ……!」
「い、急がないとっ!」
「ん??」
背後を向くと、同じような顔色になっている者達(主に男)が、騒然となっている。
「おいおい、嘘だろ…………。」
腹グサッくらいでそんなに心配するか?
「お前らなぁ…………エリは隊長だぞ?」
「で、ですがッ!」
「え、エリちゃんに、もしもの」
――ゴツンッ!
「いったァ!!」
「エリ隊長だッ!馴れ馴れしく呼ぶなと何度言わせるっ!」
ったく。
――――だがまぁ、こいつらの言いたいことも分かる。
エリは恐らく、この騎士団の中でも最年少。
いくら隊長とはいえ、中身はここにいる誰よりも幼い子供だ。
だから騎士達の中にはあいつを、妹や子供のように思っている者も多いだろう。
実際、あいつがここに来たばかりの頃はそんなもんだったしな。
「隊長…………。」
すると、そのうちの一人の女騎士が不安そうにそちらを見てきた。
「まぁ………………気持ちは分からんでもない。あいつはお前らからしたら子供のようなもの。無論、俺にとってもな。だから、心配や不安に思う気持ちは分かる。」
「だったら…………!」
「だがな、お前ら。忘れなんなよ?」
そう言って、俺は担いでいた大剣をドジっと地面に突き刺した。
「あいつは、この俺と同じ隊長格の女だってことをな。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆???◇
はぁ…………使っちまったなぁ…………。
この能力、本格的に使うと副作用が怖いんだよなぁ……。
まぁ、俺は一様適正者だから、そこまでのことはないと思うが……。
それに、流石にこの能力を使えば相手も引いてくれるかもと思って、少し期待して使ったのに、中途半端に強くなっちまったせいで、よりにもよって問題の隊長が残っちまったし……。
女の隙をついて致命傷を与えられたはずが…………何故か弱体化はしているものの、未だ油断できそうにないし。
何となくそうなるかもとは思っていたが、副作用覚悟で使った結果が、少し戦闘に余裕が出来たってだけか。
まぁ、それだけでも奇跡みたいなもんだが。
今も相手には余裕に見えてるだろうが、実際はなんとか手に固めの結界を張って防げているだけ。
俺が逃げようと背を向ければ、一瞬で全身粉々だ。
だが、今はそれで十分。
世の中、そう平等じゃないんでね。
あいつは俺を殺せれば勝ちなんだろうが、俺は違う。
――俺は、ただバルムンクが地上に出るまで耐えればいい。
そうすれば、あとはバルムンクによってこの女の注意が逸れた隙に逃げればいい。
その前に増援が来る可能性もあるが、それは賭けだな。
女の糸を手でいなしつつ、懐から取り出したくないを高速で女に投げつける。
「っ……!」
手が…………痛い?
そうして、くないを投げている手を見ると、何故か手首から先が無くなっていた。
「な………………っ!」
は、反撃の隙なんてなかったッ!
俺は、ずっと女を見て…………。
「な、なんだ………………なんなんだこの量はッ!!」
逆だった。
俺は、ずっと女にばかり気を取られて、周囲に意識を向けていなかった。
だからだろう。
――百を超えるナイフに囲まれても、気づかなかったのは……。
「だが、いつだッ!一体いつ」
「初めから………………置いてた。」
「なっ…………!」
は、初めからだとッ!?
だが、俺とこの女がどこで出会うかなど、いくらこの女でも分かるはずがない。
仮に私が嵌められたとしても、俺が戦闘中に移動すれば、このくないは無意味になる。
何より、何故こいつはこんな切り札を持ちながら、俺が能力を使う前に使わなかったッ!?
「本当は………………魔物に………………使うつもり…………だった。」
「ッ………………!」
魔物に使うつもり?
お、おい…………こいつまさか………、これをダンジョン周辺に撒き散らしてんのかッ!?
全ては、スタンピードが起きた場合を想定して…………。
「だが、それでもおかしいだろッ!!ここだけでもこの量なら、ダンジョンの周辺にはこの五倍はあるはずだッ!
!そんな数、人間に操れるはずがないッ!!やっぱり、俺は嵌められて」
「それくらい出来なきゃ、隊長にはなれない。」
「…………………………はは……………………マジかよ……………………。」
なるほどな…………。
確かに、俺が知るアトキンスの化け物に比べれば、こいつのこの能力すら生易しく思える。
「だが、まだここには――――。」
ここで初めて俺は気づいた。
スタンピードが起こっているはずのダンジョン周辺に、何故か動かない大量の魔物の気配があることに。
「お…………おい、嘘だろ…………。」
まさか………………死んでるのかッ!?
だが、ここら周辺には誰も…………。
その時、俺の目に入ったのは、一本のナイフだった。
「ま………………まさか………………!俺と戦いながら、この数の魔物を殺してたってんのかッ!!」
「うん………………。」
その瞬間、女の雰囲気が変わった。
一度目の変化とは、明らかに違う。
その瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。
こんなん………………まるで……
「さよなら。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆エリ◇
「ふぅ………………。」
結構危なかった。
脇腹に刺さったくないを抜き取り、そこに回復魔法をかける。
実は結構痛かったんだよね、これ。
「隊長っ…………!」
すると、突然何かが私に抱き着いてきた。
「え?…………カルメ?」
「心配したんですよッ!!」
そう言いながら、カルメはぎゅっと私に抱きついてくる。
「ありがと………………カルメ。手伝ってくれて。」
「それよりも、私がやりますよ!」
すると、スっと私から離れたカルメは、私に変わって回復魔法をかけ始めた。
実は、もう魔力ほとんどすっからかんなんだよね……。
「まったく、まさかスタンピードを押えながら元凶を捕獲するなんて!無茶にもほどがありますッ!!」
「はは…………だよね…………。」
最初は、暗殺者ギルドの人を確保するためにカルメに付き合ってもらった。
ただ、途中であまりにもダンジョンから出てくる魔物が多いことに気づいて、仕方なくスタンピードの規模を少しでも減らすために、魔物の殲滅作業に移ろうとしたんだんだけど………………そのタイミングで運悪く、この男と出会っちゃったんだよねぇ…………。
ただ、このまま魔物達を放置すると、撤退した隊員達にも影響が出る恐れがあるから、せめてあの子達がある程度離れるまでは手を止める訳にはいかない。
でも、こいつが思ったより早くここを撤退しそうなことに気づいて、このまま逃がしたら撤退中の人達に追いついてしまうかもしれないから、両方を押えて時間を稼ぐしかなかったんだけど……。
「最初は殺さずいけるか試してみよう?なんて馬鹿なお願い、聞かなきゃよかったですっ!」
「ご、ごめんって……。」
ぷんっ!と頬を膨らませてそっぽを向くカルメに、私はそう言って頭を下げた。
正直、カルメが魔物狩りを途中から手伝ってくれてなかったら、もっと苦戦してたかもだし……。
「……………………。はぁ………。次からは、無理はダメですよ?」
「うん………………ごめん。」
「もう、隊長がそう簡単に頭を下げないでくださいっ!」
そう言ってカルメは軽く私をデコピンすると、再びぎゅっと私を包んでくれた。
「ご無事でなによりです、隊長。」
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次回の投稿は2025年4月20日を予定しております。
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